▼神話SSまとめ読みはこちら


[“神武東征神話③”の続き]
――八咫烏の後について進むカムヤマトイワレビコがいろんな国津神に出逢うお話


<吉野川(紀の川):下流>

八咫烏「カーカー!!」

八咫烏「カーカー!!」


――ガサガサッ


イワレビコ「むっ……ここは……」ヒョコッ


イワレビコ「川だ!八咫烏の後についてきたら、川に出たぞ!」


タカクラジ「なるほど。山道を闇雲に進むよりは、川沿いに進んだ方が確実ですね」

サオネツヒコ「要するに、男之水門からそのまま川を遡れば良かったのでは……?」

イワレビコ「確かに……。竈山で兄者を弔った後、男之水門まで引き返すべきだったな……」


八咫烏「カーカー!!」

タカクラジ「あっ!御子様、あそこに誰かいますよ」ユビサシー

イワレビコ「むっ?」クルッ




???「あ~~~ったく、めんどくせぇ……」ゴソゴソ




サオネツヒコ「どうやら竹ひごを使って何か作ってるみたいですね」

タカクラジ「もし危険な神なら八咫烏が避けて通るでしょうし、害は無いと思いますが……」

イワレビコ「そうだな、話し掛けてみよう」



イワレビコ「おい、そこの者!」

???「あぁ?今忙しいんだ、後にしてくれ」

イワレビコ「貴様は何者だ?」

???「後にしてくれってのが聞こえなかったのか!あっち行け!」

イワレビコ「それは一体何をしているのだ?」

???「チッ……竹ひごを編んで筌(うえ)作ってんだよ、見りゃわかんだろ!」

イワレビコ「“筌(うえ)”というと、魚を獲る道具だな?」

???「そうだよ。俺はこうして地道~~~に筌を作っちゃあ魚を獲って暮らしてんだ」

イワレビコ「ふむ……なかなか大変そうだな」

???「あぁ。こんな細かい作業、めんどくさいったらありゃしねぇ……」イライラ

???「だから作業中は誰にも話し掛けられたくねぇんだよ」イライラ

イワレビコ「そうか……」


イワレビコ「それで、結局貴様は何者なのだ?」

???「……あんた、しつこいな」イライラ

イワレビコ「名は何という?」

???「チッ……俺はここの国津神だよ。名はニエモツノコだ」

イワレビコ「そうか。ではニエモツノコよ、ひとつ提案なのだが……」

ニエモツノコ「あぁ?魚でも売ってくれってのか?」

イワレビコ「いや、竹細工が苦手なのであれば、鵜飼を始めてみてはどうだ?」



ニエモツノコ「鵜飼……?」



イワレビコ「うむ。鵜の首を紐で縛り、大きな魚は喉につかえて呑み込めないようにするのだ」

イワレビコ「そして、喉につかえた魚を吐き出させて獲る。この漁法なら筌を作らなくて済むぞ」

ニエモツノコ「なるほど……そりゃあいいかもしれねぇ!!」

イワレビコ「そうだろう。是非試してみてくれ」

ニエモツノコ「いいこと教えてくれてありがとな!」

ニエモツノコ「礼と言っちゃなんだが、鵜飼で魚が獲れたらあんたのとこへ持ってくよ」

イワレビコ「おぉ、それは楽しみだ!」

ニエモツノコ「あんた、家はこの辺なのかい?」

イワレビコ「いや、私は日向の天津神の御子なのだが、今は故あって大和を目指している」

ニエモツノコ「天津神の御子だって!?だったらなおさら、ちゃんと礼をしないとな!!」

ニエモツノコ「って言っても、さすがにここで獲れた魚を大和まで運ぶのは難儀だな……」

イワレビコ「無理なら礼などしなくても構わんぞ?」

ニエモツノコ「いや、そうはいかねぇよ」

ニエモツノコ「よし決めた!俺も阿陀(あだ)あたりに引っ越して、そこから毎年あんたに魚を届けよう」

イワレビコ「毎年!?そこまでしてくれなくても良いのだが……」

ニエモツノコ「俺はこう見えて義理堅いんだよ。この恩は子々孫々まで語り継がせてもらうぜ!」

イワレビコ「お、おぅ……」

ニエモツノコ「そうと決まったら早速帰って引っ越しの準備だ!」



ニエモツノコ「じゃあ、またな!!」シュババッ!!



イワレビコ「……」

イワレビコ「少し世間話をしただけのつもりが、まさかこうも感謝されるとは……」


イワレビコ「阿陀の鵜飼か……覚えておこう」


―――――――
――――
――




<しばらく後>

八咫烏「カーカー!!」

八咫烏「カーカー!!」


イワレビコ「ハァ…ハァ……」クタクタ

サオネツヒコ「ゼェ…ゼェ……旦那、そろそろ休みませんか……?」クタクタ

イワレビコ「……そうだな。あまり無理して、また倒れるわけにもいかん」



イワレビコ「「おい、八咫烏!少し休ませてくれ!!」」



八咫烏「カー??」クルッ

八咫烏「カーカー!!」スイーーー



イワレビコ「飛んで行ってしまった……。休むなということか……?」

タカクラジ「休憩するのにちょうどいい場所を見つけたんじゃないですか?」

サオネツヒコ「とりあえずついてってみましょうかね」

イワレビコ「そうだな……」ヤレヤレ

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

八咫烏「カーカー!!」


――ガサガサッ


イワレビコ「むっ……ここは……?」ヒョコッ

タカクラジ「あっ!あそこに井戸がありますよ!」

サオネツヒコ「じゃあ井戸端会議でもしながら休憩にしますかね――」スタスタ


――Oooh キットクルー キットクルー


イワレビコ「……待て!今、何やら不吉なBGMがっ!!」


――ヒタッ


サオネツヒコ「ひぃぃぃっ!!!!」ビクッ!!

イワレビコ「どうした、サオネツヒコ!?」

サオネツヒコ「い……井戸から……手がッ!!!!」


――ガシッ

――ズリズリ


イワレビコ「マズい!井戸枠に手を掛けて、中から何か出てくるぞ!!」

サオネツヒコ「あわわわわわわっ!!!!」ビクビク

イワレビコ「邪な神かもしれない……お主たち、下がっていろ!!」

タカクラジ「しかし、八咫烏がそんな危険なところへ案内するとは……」


――ペカーーー


タカクラジ「あっ!井戸が光り出しましたよ!!」

イワレビコ「いよいよか……来るなら来い!私が切り伏せてくれる!!」スチャッ!!


――ヒョコッ


???「……よっこらせ~っと」ムクッ

???「あぁ?お前さんたち、こんなとこで何をしとるんだ?」



イワレビコ「……」

サオネツヒコ「……」

タカクラジ「……」



???「いや、返事くらいしねぇか!」

イワレビコ「あ……あぁ、すまん」

イワレビコ「光る井戸から何が出てくるかと身構えていたら、想定外に小汚い格好の田舎者が出てきて面食らってしまった」

???「小汚いたぁ失礼な言い草だな!」

サオネツヒコ「まぁ小汚いかどうかはともかく、ずいぶん変わった格好ですわなぁ……」

タカクラジ「何やら尻尾のようなものが生えているようですが……」

???「おぉ、コイツか?」プラーン

???「この尻尾飾りは伝統的な装飾品でな。この辺りじゃみんなぶら下げとるわ」

サオネツヒコ「ほぉ~(軽自動車のルームミラーにぶら下がってるヤツだ……)」

タカクラジ「へぇ~(田舎のヤンキー女がドンキで買うヤツだ……)」


イワレビコ「それで、貴様は一体何者なのだ?」

???「おらは国津神のイヒカっつーもんだ。この吉野一帯を取り仕切っとる」

イワレビコ「なるほど、この地の首長か。私は天津神の御子、カムヤマトイワレビコだ」

イヒカ「天津神ぃ!?なんだお前さん、そんなお偉いさんだったのか!」


イヒカ「そんで、その天津神様がこんなとこで何しとるんだ?」

イワレビコ「実は、故あって大和を目指しているのだ。お主、道はわかるか?」

イヒカ「あぁ~、そんならこっから山に入るといい。それが一番早くて安全だ」

イワレビコ「そうか、了解した。では早速――」

サオネツヒコ「いやいや、旦那!休憩するんじゃなかったんですかぃ?」

タカクラジ「ここまで歩き詰めでしたし、このまま山に入るのはちょっと……」

イワレビコ「そうだったな。では、少し腰を下ろしていくとしよう」

イヒカ「そういうことなら――」ゴソゴソ



イヒカ「ほれ、この辺の名物・吉野の葛菓子だ。食って行きな」

イワレビコ「それはありがたい!遠慮なくいただくとしよう」

イヒカ「おらはもう帰るが、必要ならそこの井戸も使ってもらって構わねぇ。ゆっくりしていきな」

イワレビコ「うむ、気遣い感謝するぞ。この礼はいつか必ずさせてもらう」

イヒカ「まぁ、期待せずに待っとくよ。それじゃあな」スタスタ

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

イワレビコ「さて、もう休憩は十分だな?」

サオネツヒコ「糖分も補給して、すっかり元気全開でさぁ!」

タカクラジ「八咫烏も張り切っているようですよ!」

八咫烏「カーカー!!」

イワレビコ「よし、では満を持して出発だ!」

サオ&クラジ「オー!」



イワレビコ「それにしても、あの葛菓子は美味かったな」

サオネツヒコ「確かに、上品で最高でしたね!」

イワレビコ「うむ。イヒカの一族は追々“吉野首(よしののおびと)”とでも名付けて重用することにしよう」

タカクラジ「あっ!そう言えば……」

イワレビコ「ん?どうかしたか、タカクラジ?」

タカクラジ「いえ、大したことではないのですが……」



タカクラジ「結局、イヒカはなぜ井戸から出てきたのでしょう??」



イワレビコ「……」
サオネツヒコ「……」



イワレビコ「そこはもう気にしないことにしよう……」


―――――――
――――
――




<山中>

八咫烏「カーカー!!」


イワレビコ「う~む……」


八咫烏「カーカー!!」


サオネツヒコ「そんなに鳴かれても……」


八咫烏「カーカー!!」


タカクラジ「この状況はさすがに……」


八咫烏「カーカー!!」

八咫烏「カーカー!!」


イワレビコ「八咫烏はこのまま真っ直ぐ進めと言っているようだが……」

サオネツヒコ「岩で道が塞がっちまってますね……」

タカクラジ「これは迂回するしかなさそうです……」

イワレビコ「仕方ないな」



イワレビコ「「おい、八咫烏!これ以上は進めん!迂回路を案内してくれ!!」」



八咫烏「カー??」

八咫烏「カーカー!!カーカー!!」



サオネツヒコ「なんか怒ってるみたいですけど……」

タカクラジ「あくまでこの道を進めということでしょうか……?」

イワレビコ「そうは言っても、さすがに現実的ではないぞ……」


――ゴゴゴゴゴッ!!


イワレビコ「ん?なんだ、この音は……??」


――ゴゴゴゴゴッ!!


サオネツヒコ「あっ!岩が動き出しましたよ!!」

タカクラジ「まさか……地震!?それにしては揺れを感じないような……」


――ゴゴゴゴゴッ!!

――ズリズリズリー!!


???「おぉ~!やっと見つけました!!」バーン!!


イワレビコ「なっ……!!」

サオネツヒコ「い、岩を押し分けて誰か出てきましたよ!?」

タカクラジ「なんという怪力……!!」

イワレビコ(これは敵に回したら危険かもしれないな……)ヒヤリ…


???「いやぁ~、探しましたよぉ~。まさかまだこんなところにいらっしゃったとは!」


イワレビコ「き、貴様は一体何者だ!?」タジッ…

???「あっ!これは申し遅れました。私は国津神で、イワオシワクノコと申します!!」

イワレビコ「な、何をしに来た!?」

イワオシワクノコ「そりゃあもう、天津神の御子様がいらっしゃると聞いて居ても立っても居られず……」

イワレビコ(まさか、私の命を狙って……!?)

オシワクノコ「是非サインを……いえ、せめてご挨拶だけでもと思い、参上した次第です!!」



イワレビコ「……」



イワレビコ「……ん?わざわざ私に挨拶するためだけに現れたのか??」

オシワクノコ「もちろんです!実は私、天津神の御子ファンクラブの会員でして!!」

イワレビコ「そんなものがあったのか……」


サオネツヒコ「あっ!そのお尻にぶら下げているものはもしかして――」

タカクラジ「先ほどお会いしたイヒカ殿と同じ尻尾飾りでは??」

イワレビコ「むっ?確かに似ているな……」

オシワクノコ「ご明察でございます!実はイヒカ殿とはマブダチで、友好の証にいただいたのですよ!!」

イワレビコ「“マブダチ”って今日日聞かんな……」

オシワクノコ「それで、そのイヒカ殿から先ほど天津神の御子様がいらっしゃったとの連絡を受けて駆け付けたのです!!」

イワレビコ「なるほど、そういうことか」

オシワクノコ「ということで、差し支えなければ是非握手をっ!!」スッ

イワレビコ「お、おぅ……」スッ


オシワクノコ「ありがとうございます!ありがとうございますっ!!」ギューッ!!


イワレビコ「っ……!!(痛い痛い痛い痛い!!)」

オシワクノコ「あぁ~、本当に感激です!もう一生手は洗いません!!」ギューッ!!

イワレビコ「いや、さすがにトイレの後と食事前は洗いなさい……(痛い……)」

オシワクノコ「そんなもったいないことできません!!」ギューッ!!

イワレビコ「……どうでもいいから早く放してくれないか(痛い……)」


オシワクノコ「……あぁっ!私としたことがつい夢中になってしまいました!!」パッ

イワレビコ「ふぅ……」ホッ

オシワクノコ「御子様は先を急がれるのですよね?引き止めてしまって申し訳ございません!!」

イワレビコ「うむ……わかってくれれば良いのだ」

オシワクノコ「それでは、私はこれで失礼いたします!」


オシワクノコ「道中お気を付けてぇぇぇ~!!」シュババッ!!



イワレビコ「……」

サオネツヒコ「何と言うか、嵐のような方でしたね」

タカクラジ「御子様のファンのようですし、悪い方ではなかったようですが……」

イワレビコ「うむ……ファンをぞんざいに扱うわけにはいかんよな……」

イワレビコ「あやつの一族も、追々“吉野国巣(よしののくず)”とでも名付けてやろう」



イワレビコ「さて、先を急ぐぞ!」


―完―

【キャスト】
カムヤマトイワレビコ
サオネツヒコ
タカクラジ
ニエモツノコ
イヒカ
イワオシワクノコ
八咫烏


作:若布彦(何かにつけてしっぽキャラを出したがるのは古事記以来の伝統ですね)

・・・次のお話はこちら⇒“神武東征神話⑤

▼神話SSまとめ読みはこちら