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[“神武東征神話②”の続き]
――眠れる森のカムヤマトイワレビコのもとに勇者が現れるお話


<熊野村:山中>

カムヤマトイワレビコ「ハァ……ハァ……」

サオネツヒコ「旦那……ちょっと休んだらどうです?そんなペースじゃ持ちませんよ……」

イワレビコ「いや、休んでなどいられない……。一刻も早く兄者の仇を討たねば……」

サオネツヒコ「そうは言っても、あんまり無理するとナガスネビコのところに辿り着くまでに精魂尽き果てちまいますし……」

イワレビコ「大丈夫だ、夜はしっかり休む。その代わり、昼のうちにできる限り進んでおきたいのだ」

サオネツヒコ「う~ん……そんな調子で山奥に入って、何も無ければいいですけど……」


――ガサガサッ


イワレビコ「ん?何か物音が――」


――ガサガサッ


サオネツヒコ「旦那!あそこの茂みに何かいるみたいですよ!!」

イワレビコ「案ずるな。大方シカか小鳥か、そんなところだろう」

サオネツヒコ「シカはともかく、鳥ではないと思いますが……」

イワレビコ「いずれにせよ恐るるに足らん。襲ってくるようなら私が退治してくれる!」


――ガサガサガサッ!!


大熊「がおーっ!」ババーン!!

大熊「残念!!ほのかに出て来たのはシカちゃんでもことりちゃんでもなく、くまさんでした~!」

大熊「ということで、まったね~♪」


――ガサガサッ


イワレビコ「……」

サオネツヒコ「……」


イワレビコ「何だったんだ……今のは……?」

サオネツヒコ「とりあえず大きな熊だったようですけど……何しに出て来たのやら??」


イワレビコ「何と言うか……拍子抜け過ぎて、急に気が抜けてしまったな……」ヨロッ

サオネツヒコ「あっしも……なんだか頭がぷわぷわして……」プワプワー

イワレビコ「おい……サオネツヒコ……しっかりしろ……」ヨロヨロッ


サオネツヒコ「もう……ダメです……」バタッ!!


イワレビコ「これは……さっきの熊の……仕業なのか……?」フラッ


イワレビコ「くっ……無念……」バタッ!!


―――――――
――――
――




<しばらく後>

――カーカー!!

――カーカー!!


???「……ま」



???「……きを………かに!」



???「御子様!お気を確かに!!御子様!!!!」ユサユサ


イワレビコ「……はっ!」パチリ


???「おぉ!御子様、お目覚めになりましたか!!」

イワレビコ「むぅ……ずいぶん長いこと眠ってしまったようだな……」

???「何度呼びかけても返事がないので、もうお目覚めにならないのかと心配しましたよ……」

イワレビコ「ところで、お主は一体何者だ??」

???「話は熊野のタカクラジという者です。何はともあれ、まずはこの太刀をどうぞ!」スッ

イワレビコ「太刀など渡して、どうしろと言うのだ……?」パシッ

タカクラジ「まぁ適当に振り回してみてください」

イワレビコ「こうか?」ブンブンッ



サオネツヒコ「うっ……うぅ……」ムニャムニャ…



イワレビコ「おぉ、サオネツヒコ!お主も目が覚めたか!!」

サオネツヒコ「旦那……あっしは一体……??」

タカクラジ「皆様は熊野の山の荒ぶる神々によって眠らされていたのです」

イワレビコ「やはりあの大熊……神の化身であったか……」

タカクラジ「大熊……?まぁ、それとこれとが関係あるかはわかりませんが……」


タカクラジ「その太刀で荒ぶる神々は切り倒されたので、もう心配はいりません」

イワレビコ「何だと?先ほどのたった数振りで荒ぶる神々を鎮めたと言うのか!?」

タカクラジ「その太刀と、天津神の御子様の御力とが合わさればそのくらいは当然です」

イワレビコ「何という凄まじい力を秘めた太刀だ……」ホレボレー



イワレビコ「……待てよ?」



イワレビコ「お主、タカクラジと言ったな?」

タカクラジ「はい、左様でございます」

イワレビコ「お主はなぜ私が天津神の御子であると知っているのだ?」

イワレビコ「それから、この太刀は一体どのようにして手に入れたのだ?」

タカクラジ「それは……」


タカクラジ「私自身、信じがたい話ではあるのですが……」

イワレビコ「良い。申してみよ」

タカクラジ「実は、昨晩このような夢を見たのです――」


―――――――
――――
――




<回想:タカクラジの夢>

アマテラス「久しいですね、タケミカヅチさん」

タカミムスヒ「……」ムスッ


タケミカヅチ「“国譲り神話/完結編”以来か。中15話ぶりだな、アマテラス嬢」

タケミカヅチ「それで、一体何の用だ?」


アマテラス「ハァ……自分がなぜ呼び出されたかもわからないとは、呆れたものです……」

タカミムスヒ「……」ヤレヤレ


タケミカヅチ「む……?そんな呆れられるようなことをした覚えはないが……」


アマテラス「タケミカヅチさん、わたしくはそなたの能力を高く評価していたのですよ?」

タカミムスヒ「……」ウンウン

アマテラス「それなのに、まさかあのような杜撰な仕事をするだなんて!」プンスカ!!

タカミムスヒ「……」プンスカ!!


タケミカヅチ「杜撰な仕事だと!?一体どういうことだ?」


アマテラス「タケミカヅチさん、よくお聞きなさい」

アマテラス「このところ、葦原の中つ国が酷く騒がしいのです」

アマテラス「わたくしの御子たちもほとほと困り果てている様子……」

アマテラス「つまり、どういうことかわかりますね?」


タケミカヅチ「ふむ、御子殿の政治が上手くいっていないということか。ならば新たに人材を――」

アマテラス「違うでしょう!!全てそなたの責任ですよ!!」

タケミカヅチ「我の責任……だと……?」

アマテラス「あの葦原の中つ国は専らそなたが平定した国です!」

タケミカヅチ「ふむ、確かにそんなこともあったな」

アマテラス「その葦原の中つ国が荒れているということは、そなたの不手際に他なりません!!」

タカミムスヒ「……」ソーダソーダ


タケミカヅチ「……いや待て。平定したのはもう大昔のことだ」

タケミカヅチ「その後の統治には関わっていないのだから、今さら責任を問われても困る」

アマテラス「何が大昔ですか!たったの3~4ヶ月前のお話でしょう!?」

タカミムスヒ「……」ソーダソーダ

タケミカヅチ「確かに中15話ぶりだと更新日基準ではそうなるが……」


アマテラス「とにかく!そなたには責任をとっていただきます!」

タケミカヅチ「責任……とは?」

アマテラス「再び葦原の中つ国へ降りて、今度こそきっちり平定してくるのです!良いですね!?」

タケミカヅチ「いや、そんな遠距離出張を急に言い渡されても困るのだが……」

アマテラス「困るも御虎子(おまる)もありません!いいから行くのです!今すぐ!!」

タカミムスヒ「……」ソーダソーダ



タケミカヅチ「まぁ待て。要はアマテラス嬢の御子が困らぬようにすれば良いのだろう?」

アマテラス「そういうことです。ですから、早く葦原の中つ国へ――」

タケミカヅチ「であれば、我が降りるまでもない」

アマテラス「……?それは一体どういう――」


アマテラス「ま……まさかそなた、適当な部下に責任を押し付けるつもりですか!?」ガーン!!


アマテラス「見損ないましたよ、タケミカヅチさん!そなたがそんなブラック上司だったなんて!!」

タカミムスヒ「……」メッ!!

タケミカヅチ「いや、神聞きの悪いことを言うな……。そんなことはせん」


タケミカヅチ「我が降りずとも、葦原の中つ国を平定した折に使ったこの太刀がある。こいつを降ろせば十分だろう」

アマテラス「そんなそなたの尻も貫けないようななまくらを降ろしてどうするというのです?」

タケミカヅチ「あの逸話を“太刀の切れ味が悪い”と捉えるとは……斜め上の解釈だな……」

アマテラス「違うのですか?」

タケミカヅチ「この太刀は決してなまくらなどではなく、“佐士布都神(サジフツノカミ)”という名の神剣なのだ」

アマテラス「サジフツ……?聞いたことがありませんね。本当にそんな大層な太刀なのですか??」

タケミカヅチ「むっ……では、別名の“甕布都神(ミカフツノカミ)”ではどうだ?」

アマテラス「それも初耳です。どうやらただのマイナー武器のようですね」ヤレヤレ

タケミカヅチ「そんなことはない!さらに別名の“布都御魂(フツノミタマ)”くらいは聞いたことがあるだろう?」

アマテラス「あぁ!あの、後に石上神宮の御神体になることで有名な!!」

タカミムスヒ「……♪」

タケミカヅチ「ようやく理解したか……」ハァ…



アマテラス「それで、その太刀がなんとなく凄そうなことはわかりましたが、それを誰が葦原の中つ国へ持って降りるのです?」

タケミカヅチ「そのまま投げ落とせば良いだろう?」

アマテラス「そんな危険な!万が一わたくしの御子に刺さったりしたらどうするのですか!?」

タカミムスヒ「……!」アセアセ

タケミカヅチ「その点は心配ない。一旦離れた場所に落として、その後は現地の者に運ばせよう」

アマテラス「そんな都合の良い遣いなんて……心当たりがあるのですか?」

タケミカヅチ「うむ。熊野村にタカクラジという者がいる」

アマテラス「タカクラジですか……。信用できるのでしょうねぇ……?」

タケミカヅチ「問題ない。タカクラジの倉の屋根に穴を空けて、そこから太刀を落とし入れよう」

アマテラス「なるほど、そなたの尻も貫けないなまくらでは屋根を貫けるはずもありませんし、事前に落雷か何かで穴を空けてから落とすのですね!」

タカミムスヒ「……」クスクス

タケミカヅチ「いや、だからこの太刀はなまくらなどではないのだが……」

アマテラス「ならばそのまま落としてその太刀で屋根を貫けば良いではありませんか」

タケミカヅチ「綺麗に刃から落ちるかわからんだろう。柄から落ちたらさすがに屋根は貫けん」

アマテラス「あぁ……確かにそれはそうですね。では、事前に穴を空けるよう手配しましょう」

タケミカヅチ「うむ、よろしく頼む」



タケミカヅチ「ということだ、タカクラジ。貴様の夢をオンライン通話モードにしておいたから、話は理解したな?」

タケミカヅチ「お前は朝目を覚ましたら、この太刀を取って天津神の御子に献上するのだ」

タケミカヅチ「頼んだぞ」

タカミムスヒ「……」バイバーイ


―――――――
――――
――




<熊野村:山中>

タカクラジ「カクカクシカジカ……ということがありまして」

イワレビコ「夢の割にはずいぶん詳細に覚えているな……やや長かったぞ……」

タカクラジ「まぁ、普段見る夢とはリアリティが段違いでしたからねぇ」

サオネツヒコ「いわゆるご都合主義というヤツですかね」

タカクラジ「とりあえず、そんなわけで夢の教えどおりに朝倉へ行ったらこの太刀があったので、御子様に献上しに参ったのです」

イワレビコ「ふむ、その点は理解した」


イワレビコ「しかし、よくこの私が天津神の御子であることや、この場所にいることがわかったな」

タカクラジ「あっ、それについては実は夢の続きが――」

イワレビコ「待て!それはまた長くなるのか……?」

タカクラジ「いえ、面倒なのでもう回想シーンは入れずにご説明します」

イワレビコ「そうか、ならば申してみよ」

タカクラジ「夢の最後にタカミムスヒ様から御子様へ、次のような伝言がありまして――」



『天津神の御子よ、これより奥へ入ってはならない。荒ぶる神々が多くいるのだ』

『今、高天原より八咫烏(ヤタガラス)を遣わす。その八咫烏がそなたを導くだろう』

『その飛び立つ後について行きなさい』



タカクラジ「という内容だったのですが――」

イワレビコ「なるほど、タカミムスヒ様がそんなことを仰っていたのか」

タカクラジ「いえ、あくまで“だいたいこんなことを言ってた気がする”程度です」

サオネツヒコ「このSSは断固としてタカミムスヒ様に喋らせない方針ですからねぇ」

タカクラジ「まぁ、そんなこんなで太刀を取りに行ったら近くにコイツがいて、ここまで案内してくれたわけです」


八咫烏「カーカー!!」


イワレビコ「うおっ!こんなところにカラスが!?」

サオネツヒコ「よく見りゃこのカラス、足が三本もありますよ。たまげたなぁ~」

タカクラジ「風貌は独特ですが、賢くて頼りになりますよ。どうぞここから先はコイツに先導をお任せください!」

イワレビコ「うむ……タカミムスヒ様の遣いということなら信用しない理由はないな」



イワレビコ「では、八咫烏の後に続いて出発だ!!」


―完―

【キャスト】
カムヤマトイワレビコ
サオネツヒコ
タカクラジ
アマテラス
タカミムスヒ
タケミカヅチ
八咫烏
大熊


作:若布彦(布都御魂ってただのタケミカヅチの椅子じゃないんですね)

・・・次のお話はこちら⇒“神武東征神話④

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