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[“海幸山幸神話③”の続き]
――満を持して日向へ帰ることになったホオリのお話


<ワタツミの宮>

ワタツミ「さて空津彦殿、まじないの方法や潮満珠(しおみつたま)・潮乾珠(しおふるたま)の使い方はマスターされましたかな?」

ホオリ「はぁ……まぁだいたい……」

トヨタマ「あなた……本当に帰ってしまわれるのですね……」グスン…

ホオリ「うん、ごめん。長い間ありがとう」

ワタツミ「では、帰り道は遣いの者に送らせることにいたしましょう」

ホオリ「すみません、助かります。さすがに来るとき使った竹の船はもう使えそうにないんで……」



ワタツミ「「ワニども、集まれぇぇぇ~い!!」」


――ゾロゾロ
――ゾロゾロ


ワニA「はいは~い」

ワニB「お呼びですかい、王様?」

ワタツミ「お主らに訊きたいことがある!」

ホオリ(なんかついこの間も同じセリフを聞いたような……まぁいいか)

ワタツミ「今、天津彦の御子である空津彦殿が上つ国へ帰られようとしておる」

ホオリ(“上つ国”……?こっちでは日向とかのある地域をそう呼ぶのかな?)

ワタツミ「お主らのうち誰が最も早く、具体的に何日で空津彦殿をお送りしてその報告をできるか?」

ワニA「う~ん……小柄な私が空津彦様を乗せて泳ぐとなると、往路だけで4日近くかかるかと……」

ワニB「あっしの体格でも、3日はかかりやすね……」

ホオリ「別に急いでるわけじゃないから、多少時間がかかっても構わないんだけど……」



???「フッフッフッ……話は聞かせてもらったぜ」



ワニA「あっ!こ……この声は!!」

ワニB「間違いねぇ!!」



???「ワタツミの旦那、俺を忘れてやしねぇかい?」バーン!!



ワタツミ「むっ、お主は!」

ワニA&B「「ヒトヒロワニの兄貴!!」」

ヒトヒロワニ「お前ら、久しぶりだな」

トヨタマ「ヒトヒロワニさん!修行の旅に出たと聞いていたけれど、帰っていたのね!」

ヒトヒロワニ「あぁ、昨日帰ってきたところだ」



ヒトヒロワニ「さて、ワタツミの旦那――」

ヒトヒロワニ「大事なお客神を上つ国まで送るんだろ?そんな大役、俺以外に務まると思うかい?」

ワタツミ「なんと!お主、引き受けてくれるのか!?」

ヒトヒロワニ「もちろんだぜ、旦那。旦那には色々と恩があるからな」

ワタツミ「ワニ界最速と称えられるお主に頼めるならば安心だ。して、お主なら何日でお送りできる?」

ヒトヒロワニ「何日?おいおい旦那、冗談はよしてくれよ」



ヒトヒロワニ「1日だ。俺なら1日でお客神を送って、帰ってきて見せるぜ?」キラーン♪



ワタツミ「おぉ!なんと心強い!!」

ワニA&B「「さすがヒトヒロワニの兄貴!!」」

ホオリ「ヒトヒロワニ……?」

ワニA「このお方はワニ界最速のタイトル保持期間歴代最長(更新中)を誇るワニ界のレジェンド!」

ワニB「あっしらの憧れの的、ヒトヒロワニの兄貴でやす!」

ホオリ「ヒトヒロワニって、大きさが一尋のサメってこと?そんな小さそうには見えないけど……」

ワニA「そこはなんというか……言葉の綾みたいなもんですよ」

ワニB「“首回りがゆうに一尋を超える”とか、“身体の厚みが一尋くらいある”とか、適当に解釈してくだせぇ」

ホオリ「えぇ……何その読者任せな感じ……」

ヒトヒロワニ「まぁまぁお客神、俺の名前なんてどうでもいいじゃねぇか」



ヒトヒロワニ「大事なのは俺が最速であることだけ……だろ?」キラーン♪

ワニA&B「「さすが兄貴!痺れるぅぅぅっ!!」」

ホオリ「お、おぅ……」



ワタツミ「コホン…ではヒトヒロワニよ、お主が空津彦殿を送り届けてくれ」

ワタツミ「くれぐれも、海中を通る際に空津彦殿を怖がらせるでないぞ」

ヒトヒロワニ「任せな。怖がる暇もないくらいのスピードで送り届けてやるさ」


ホオリ「ちょ、ちょっと待ってください!」

ワタツミ「どうかしましたかね、空津彦殿?」

ホオリ「今、“海中を通る”とか何とか言いませんでした?」

ワタツミ「いかにも、申しましたが……それが何か?」

ホオリ「えぇ~っと……俺の乗った船をこのサメが引いて行ってくれるっていう話じゃ……?」

ワタツミ「ハッハッハッ、ご冗談を。ワニは馬や牛ではありませんぞ。それに、元よりこの国には船などありませぬ」

ホオリ「じゃあどうやって帰れと……?」

ワタツミ「ヒトヒロワニに乗って行くに決まっているではありませんか」

ヒトヒロワニ「背びれより後ろは揺れが激しいからな。首のとこに乗ってくれや」

トヨタマ「私も以前はよく乗せてもらったものですわ♪」

ホオリ「……」アゼーン…



ホオリ「やっぱり俺、自分で船を造ってそれで帰るので、送っていただかなくて結構です!!」

ワタツミ「何を仰います!?そんな失礼なことをするわけにはいきませんよ!」

ホオリ「サメにしがみついてずぶ濡れになりながら帰るよりはマシですよ!」

ワタツミ「なんと!?空津彦殿は海水に濡れるのが苦手でいらっしゃるのですか??」

ホオリ「当たり前でしょ!!俺のこと何だと思ってるんですか!?」

トヨタマ「でも、船でお帰りになるというのはあまりに無謀ですわ!」

ホオリ「いや、だからサメにしがみついて帰る方が無謀だってば!」

トヨタマ「でも、上つ国まではあなたがここへいらっしゃる際にお乗りになった海流に逆らって進む必要があるのですよ?」

ワタツミ「そうです!船で漕ぎ出でたとしても、たちまち海流に押し戻されてしまいますぞ!」

ホオリ「うっ……それは確かに……」

トヨタマ「まぁ、そうしてあなたがいつまでも帰れない方が私は嬉しいですけどね♪」

ワタツミ「これこれ、おトヨ。空津彦殿はお前にぞっこんLOVEなのだから、お前が引き止めたら帰れなくなってしまうだろう?」

トヨタマ「そ、そうでした……。ここは気持ちをグッと堪えることにいたしますわ……」


ヒトヒロワニ「なぁ、お客神」

ホオリ「ん?」

ヒトヒロワニ「こういうのは一か八かチャレンジする心意気ってもんが大事だと思うぜ?」

ホオリ「いや、そう言われても……」

ヒトヒロワニ「安心しなって。もし途中であんたが落ちても、大海原に置いてきぼりにはしねぇよ」

ヒトヒロワニ「そんときは、この口にあんたをくわえて上つ国まで運んでやるさ」

ホオリ「いや、その方が余計に怖いんですけど!!」

ヒトヒロワニ「そんならしっかり掴まっとくこったな!漢を見せなよ、お客神!」

ホオリ「う~ん……」



ホオリ「わかった。じゃあ、お言葉に甘えて送ってもらうことにするよ……」

ヒトヒロワニ「よし、そうこなくっちゃな♪」

ホオリ「できるだけ安全運転で頼むね……?」

ヒトヒロワニ「お安い御用さ。さぁ、乗りな!」


――ヒョイッ


ホオリ「じゃあ、長い間ありがとうございました!さようなら!!」バイバーイ

ワタツミ「空津彦殿!お達者でぇ~!!」バイバーイ

トヨタマ「またいつでもこちらへいらしてくださいね!!」バイバーイ

ヒトヒロワニ「それじゃあ行くぜ!しっかり掴まってな!!」


――バビューーーーン!!


『ギャアアアアアアアアッ!!!!!!』


―――――――
――――
――




<数時間後>

ヒトヒロワニ「ほら、着いたぜ、お客神」

ホオリ「ウプッ……オェッ……」フラフラ…

ヒトヒロワニ「おいおい、ずいぶん情けねぇじゃねぇか」

ホオリ「あんなの酔うなって方が無理だよ……。むしろ、よく振り落とされなかったと褒めてほしいくらい……」

ヒトヒロワニ「そりゃあ振り落とさねぇように加減してたからな」

ホオリ「えぇっ!?あれで加減してたのぉっ!?」

ヒトヒロワニ「おぅ、俺の本気はあんなもんじゃないぜ?体感してみるかい?」

ホオリ「いえ……結構です!!」

ヒトヒロワニ「そうかい、そりゃ残念だ」クスクス



ヒトヒロワニ「それじゃあ、俺はワタツミの旦那のとこに帰るとするぜ」

ホオリ「あっ、ちょっと待って!」

ヒトヒロワニ「なんだ?旦那に何か伝言かい?」

ホオリ「いや、せっかく送ってもらったし、君にお礼をしようと思って」

ヒトヒロワニ「ハハッ、気遣いは必要ねぇよ。あんたは旦那のお客神なんだ、送るくらい当然だろ?」

ホオリ「そうはいかないよ。はい、これ」スッ

ヒトヒロワニ「ん?首に何か回してくれたみたいだが、こりゃ何だい?」

ホオリ「あぁ、首に引っ掛けちゃうと見えないよね、ごめんごめん。紐付きの小刀だよ」

ヒトヒロワニ「あぁ、あんたがずっと腰に帯びてたヤツか。こんなもん貰っちまっていいのかい?」

ホオリ「うん。それを持って戻れば、お義父さんも俺が無事日向に着いたってわかるだろ?」

ヒトヒロワニ「なるほど、到着のサインの代わりってことか。そりゃあ助かる」

ホオリ「サメの身体じゃ小刀は使えないだろうから、役に立たないお土産で悪いけど……」

ヒトヒロワニ「そんなこたぁねぇよ。帯刀したワニなんて、最高にクールじゃねぇか」

ホオリ「そう?それなら、これから“サイモチ”の神とか名乗ってみたら?」

ヒトヒロワニ「“サイモチ”……刀を持った神ってことか。そりゃいいや!」


ホオリ「じゃあ、お義父さんやトヨタマビメによろしくね、サイモチ君!」

サイモチ「おう!あんたも達者でな!」


―――――――
――――
――




<三年後>

ホデリ「くっそぉ~……なんで私の田んぼだけこうも干害に見舞われるんだ……」

ホデリ「相変わらず漁もうまくいかないし、このままで飢え死にしてしまう……」

ホデリ「それもこれも、全部ホオリのヤツが帰ってきてからだ……」

ホデリ「きっとあいつの策略に違いない!こうなったらあいつを襲って、食糧を奪ってやる!!」

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

ホデリ「おい、ホオリ!」

ホオリ「ホ、ホデリ!?どうしたんだ、そんなにやつれて……??」



ホデリ(“どうしたんだ”だと……?お前が仕組んだクセに、白々しい!!)イラッ

ホオリ(うわぁ……お義父さんに言われたとおりに釣り針を返したら、本当にホデリが貧しくなっちゃった……)ソワソワ



ホデリ「今日はお前に用があって来たんだ」

ホオリ「用って?」

ホデリ「お前の……」



ホデリ「「お前の食糧を全部よこせ!!!!」」グワッ

ホオリ「うわぁっ!!」

ホオリ(助けて!潮満珠!!)スッ


――ザバーン!!


ホデリ「うわっ、なんだなんだ!?急に波が押し寄せてきたぞ!!」

ホオリ(凄い!ホントに潮が満ちてきた!)

ホオリ「って、このままじゃ俺も溺れちゃうじゃん!!」



???「よぉ、兄ちゃん。乗ってくかい?」

ホオリ「!?」



ホオリ「き、君は――サイモチ君!!」

サイモチ「そろそろ頃合いかと思って、念のため様子を見に来たんだ」

サイモチ「潮満珠であんたまで溺れちゃ意味ないだろ?さぁ、乗りなよ」

ホオリ「助かるよ、ありがとう!」スチャッ


サイモチ「さて、あんたの兄貴の方は……っと」


ホデリ「ウプッ……カハッ……」バシャバシャ


サイモチ「あ~あ、ざまぁねぇな。海幸彦が聞いて呆れるぜ」

ホオリ「元々ホデリは泳ぎが得意だったはず……これもまじないの効果なのかな?」


ホデリ「ホ……オリ……ウプッ……」バシャバシャ

ホデリ「た……助け……ゴボッ!!」バシャバシャ


ホオリ「ホデリ……」

ホオリ「サイモチ君、もうこのくらいでいいよね……?」

サイモチ「そうかい?もう少し懲らしめてやった方がいいんじゃねぇか?」

ホオリ「いや、もう十分苦しんだと思う。これ以上放っておいたら、ホデリが死んじゃうよ」

サイモチ「まぁ、判断はあんたに任せるよ。もし足りなけりゃ、もう一回潮満珠を使えばいいさ」

ホオリ「うん、わかった」

ホオリ「それじゃあ、潮乾珠を使うよ!」スッ


――ズゴゴゴゴゴゴッ!!!


ホオリ(凄い!どんどん潮が引いていく!!)

サイモチ「おっと!潮が引ききる前に俺は海に帰らせてもらうぜ!」

ホオリ「あぁ、ありがとう!このくらいの水位なら俺ももう大丈夫だよ」

サイモチ「また何かあれば、いつでも呼んでくれよな!」キラーン♪

ホオリ「うん、また今度ね!」バイバーイ


――ズゴゴゴゴゴゴッ!!!


ホデリ「ゲホッ……ゲホッ……」

ホオリ「ホデリ……あの……大丈夫?」

ホデリ「くっ……ホオリぃぃぃ!!」ギロッ

ホオリ(ヤバい!めっちゃ怒ってる!!)ビクビク!!



ホデリ「「すみませんでしたぁぁぁっ!!!!」」ドゲザー



ホオリ「えぇっ!?」

ホデリ「これまでのことは全部私が悪かった!どうか許してくれ!!」ペコペコ

ホオリ「いや、そんな土下座までしなくても……」

ホデリ「今後私はお前……いや、あなた様の護衛として、昼夜問わずお仕えします!!」

ホオリ「護衛!?別に兄弟として仲良くしてくれればいいんだけど……」

ホデリ「とんでもない!あなた様にはこれまでの罪滅ぼしと、たった今命を救われた恩返しをしなければ!!」

ホオリ「う~ん……まぁそれはそれで良好な関係だからいいっちゃいいか……」

ホデリ「ありがとうございます!!」


ホデリ「この主従関係は、子々孫々まで受け継ぐことをお約束いたしましょう!!」

ホオリ「えっ!?代々俺の家系に仕えてくれるってこと!?」

ホデリ「はい!私の子孫、隼人一族には必修科目として今日の出来事を語り継ぎ、あなた様への忠誠を叩き込みます!!」

ホオリ「それはありがたいけど……さすがにちょっとやりすぎじゃ……」

ホデリ「いいえ、このくらいは当然のことです!」


ホデリ「ついでに、溺れながらあなた様に助けを乞う私の見苦しい姿を皆に演じさせ、道化の一族としてお仕えいたします!!」

ホオリ「いや、そんなの別にいいから!面白くもないだろうし!!」

ホデリ「面白いかどうか、早速実演してご覧に入れましょう!」


ホデリ「アップ……アップ……」フニャフニャ


ホオリ「ちょっ!やめてよ、ホデリ!誰かに見られたら恥ずかしいから!!」アワアワ!!


―完―

【キャスト】
ホオリ
ホデリ
ワタツミ
トヨタマビメ
ヒトヒロワニ(サイモチ)
ワニ


作:若布彦(負け組一族として貶められる薩摩隼人、可哀想……)

・・・次のお話はこちら⇒“豊玉毘売神話

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