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[“火中出産神話”の続き]
――海幸彦と山幸彦が道具を取り替えっこするお話


<漁師小屋>

ホデリ「……よし、準備完了!」

ホデリ「それじゃあ、今日も漁に出るとするか」スクッ


――ガラッ


ホオリ「おーっす、ホ~デリ~♪」

ホデリ「なんだ、ホオリか。私のことは“兄さん”と呼べと言っているだろう」

ホオリ「なんでだよぉ~。誕生日は一緒なのに、“兄さん”なんて変じゃんか!」

ホデリ「誕生日は一緒でも、生まれたのは私が一番早かった。だから私が兄だ!」

ホオリ「そんなの誤差の範囲じゃん!だいたい、ホデリが一番早く生まれた証拠だって無いだろ?」

ホデリ「母上がそう言っている」

ホオリ「そんなの、母さんの勘違いかもしれないじゃん」

ホデリ「ホオリ!!お前、まさか母上のことを疑うのか!?」ギロッ

ホオリ「い、いやいや!!別にそういうつもりは……」アワアワ!!


ホデリ「……まったく、滅多なことを言うんじゃない。もし母上の耳に入ったら大変だぞ?」

ホオリ「また危ない“誓約”を始められたらたまんないもんなぁ……」

ホデリ「そうだ。だから母上が言う以上、私が長男であることは疑いようのない真実なんだ」

ホオリ「う~ん……でも、兄弟なんだから名前で呼んだっていいだろ?」

ホデリ「……公の場以外ならな」ヤレヤレ



ホデリ「それで、わざわざこんな海岸まで何しに来たんだ?」

ホオリ「そうそう!今日はホデリにお願いがあって来たんだった」

ホデリ「お願い……?」


ホオリ「ほら、ホデリって漁が得意だろ?最近は“海幸彦”なんて呼ばれてるし!」

ホデリ「あぁ……どうやらそんな風に噂されているみたいだな」

ホオリ「それで、前々から凄いなぁ~って思ってたんだ。俺は漁なんてからっきしだし///」テヘペロ

ホデリ「その代わり、ホオリには狩りの才能があるだろう?狩りの名手“山幸彦”と言えば有名だぞ」

ホオリ「いやぁ~、それほどでもぉ~///」ニヘラ

ホデリ「私が海幸彦として大小様々な魚を獲り、ホオリが山幸彦として硬い毛皮の獣やもふもふの小動物を狩ってくれば、今後も食べ物に困ることはないな」

ホオリ「いや、確かにそうなんだけど、でもここで俺は考えた!」

ホデリ「???」


ホオリ「俺たちはこのまま、苦手なことを苦手なままにしておいていいのか!?」


ホオリ「将来のためにも、知恵と努力で苦手を克服すべきではないのか!?」


ホオリ「どう思う、ホデリ!!??」ズイッ


ホデリ「お、おぅ……。まぁ、お前の言うことにも一理あるな……」

ホオリ「だろぉ~?っということで――」



ホオリ「俺の狩りの道具とホデリの漁の道具を取り替えっこしよう!!」

ホデリ「はぁぁぁ!?なんでそうなるんだよ??」

ホオリ「いい道具を使えば俺も漁が上手くなるかなぁ~と思って」

ホデリ「素人はまず扱いやすい初心者用の道具で練習した方がいいに決まってるだろ!」

ホオリ「もしかしたら道具とのシナジー効果で才能が開花するかもしれないじゃん!」

ホデリ「そんなわけあるか!お前に道具なんて貸したら、壊れて返ってくるに決まってる!」

ホオリ「ちゃんと大事にするよ~。ちょっとくらいいいだろ?」

ホデリ「ダメだ!とっとと帰れ!!」シッシッ

ホオリ「チェッ、ホデリのケチ!」


―――――――
――――
――




<後日>

ホデリ「はぁ~……(深いため息」

ホデリ「……今日一日だけだぞ?」


ホオリ「やったー♪ようやく俺の熱意が伝わったみたいだな!」

ホデリ「お前の相手するのに疲れただけだよ!毎日毎日来やがって、鬱陶しいったらありゃしない」

ホオリ「まぁ、何度も足を運ぶのは営業の基本だし」

ホデリ「普通は三回断られたあたりで諦めるだろ!」

ホオリ「そこで四度目の正直を期待するのが俺のスタンスなんだよ」

ホデリ「ったく、めんどくさい弟だ……」ヤレヤレ



ホデリ「今回は特別に道具を交換してやるが、絶対に壊したり無くしたりするなよ?」

ホオリ「大丈夫だって♪ホデリは心配性だなぁ~」

ホデリ「私が心配性なんじゃない、お前が危なっかしすぎるんだ!」

ホオリ「いやいや、こう見えても俺ってば結構しっかりしてっからね!」

ホデリ「そう言って、いつも口先だけだろう……。本当に気を付けろよ??」

ホオリ「大丈夫、大丈夫♪それじゃ、行って来ま~っす!」ルンルン♪



ホデリ「不安だ……」モヤモヤ


―――――――
――――
――




<船の上>

――ユラユラ


ホオリ「……」


――ユラユラ


ホオリ「……」


――ユラユラ


ホオリ「……」


ホオリ「……一匹も……釣れん!!」

ホオリ「わざわざ船で漕ぎ出してきたのにコレかよ……」

ホオリ「あ~ぁ、やっぱり俺って釣りの才能無いのかなぁ~?」

ホオリ「次は釣り竿じゃなくて網を借りてみるか」


――クイックイッ


ホオリ「ん?これはもしかして……?」


――ググッ


ホオリ「か、掛かった!この手ごたえは間違いなく大物だ!!」


――ググググッ!!


ホオリ「くそっ、負けるか!」ギリギリ


ホオリ(船の上……不安定な足場……こういうときは、昔空手教室で教わったアレを……!)

ホオリ(足を八の字にして膝を軽く曲げ、踏ん張る……これが、三戦(さんちん)!!!)


ホオリ「ナルホドね。たしかにいいわ、これ!」ズッシリ

ホオリ「このまま一気に釣り上げてやるぞぉ~!!」



ホオリ「そりゃあぁぁぁぁぁっ!!」グイッ!!


――ブチッ!!


ホオリ「おわっ……とっとっ!!」フラッ

ホオリ「くっそぉぉぉ!!逃げられたかぁ~……」ションボリ

ホオリ「でも諦めないぞ!餌を付けなおしてリベンジだ!!」



ホオリ「……」



ホオリ「……あれ?」



ホオリ「……無い……無いっ!?」



ホオリ「釣り針が、付いてない!!!!」

ホオリ「ど、どうしよう!?釣り針を無くしたなんて言ったら、ホデリに怒られる!!」

ホオリ「でも、海に潜って探すわけにもいかないし……」

ホオリ「知らんぷりして竿だけ返してみる……?いや、さすがにバレるよなぁ……」



ホオリ「……考えても仕方ない。正直に謝ろう」


―――――――
――――
――




<夕方>

ホオリ「……」ズーン…

ホデリ「おぅ、ホオリ。もう戻っていたのか」

ホオリ「あ、あぁ……」


ホデリ「いやぁ~、結構頑張ったつもりなんだが、やはり私には狩りの才能はないみたいだな」

ホデリ「お前の方はどうだったんだ?何か釣れたか?」

ホオリ「いや……一匹も……」

ホデリ「だろうな。やはり山の幸はお前が、海の幸は私が、各々の道具を使って獲るべきなんだ」

ホデリ「ということで、道具を元に戻そう」


ホオリ「えぇ~っと……そのことなんだけどさ……」

ホデリ「なんだ?まさかもう一日試してみたいなんて言うんじゃないだろうなぁ……?」

ホオリ「いや、そうじゃなくて……」



ホオリ「ごめん!実は、あの釣り針……無くしちゃったんだ!!」

ホデリ「……は?」

ホオリ「魚を釣り上げようとしたら、糸が切れて……そのまま海に……」

ホデリ「……」ワナワナ

ホオリ「どうお詫びをすればいいか……」



ホデリ「「ばっかも~~~ん!!!!」」



ホオリ「ヒィッ!!」ビクッ!!

ホデリ「扱いには気を付けるよう、さんざん言って聞かせただろう!!」

ホオリ「べ、別に雑に扱ったわけじゃないんだよ?ただ、とんでもない大物が掛かっちゃって……」

ホデリ「それをお前が強引に釣り上げようとしたから糸が切れたんだろう!このド下手くそ!!」

ホオリ「うっ……それはそうかもしれないけど……」

ホデリ「とにかく、海に潜ってでも探し出して釣り針を返せ!」

ホオリ「探せって……さすがにそれは無茶だよぉ!!」

ホデリ「うるさい!あの釣り針を返すまで絶対に許さないからな!!」

ホオリ「そんなぁ……」



ホオリ「うぅ……どうしよう……」シュン…


―――――――
――――
――




<後日>

ホオリ「ホデリ~!ホデリ~!」タッタッタッ


ホデリ「なんだ?ようやく釣り針が見つかったか?」

ホオリ「えっと……あの後、俺もいろいろ考えたんだ!」


ホオリ「俺が持ってる十拳剣……山での狩りにも時々使う、すごく大事なものなんだけどさ……」

ホオリ「でも、俺にとってはホデリの方がもっと大事なんだ!」

ホオリ「だから……」



ホオリ「剣を潰して、釣り針を五百個作ってきた。俺の誠意だと思って、受け取ってくれ!!」



ホデリ「いらん。帰れ」キッパリ

ホオリ「えぇっ!?」ガーン!!

ホデリ「私はあの釣り針を返せと言ったんだ。お前が適当に量産した釣り針などいらん!」

ホオリ「だって、あれは魚に取られて海に――」

ホデリ「言い訳など聞きたくない!あの釣り針を返せ!!」

ホオリ「じゃあさ、仕様書とかもらえれば全く同じスペックのものを作るよ!だから――」

ホデリ「そういう問題じゃない!あの釣り針そのものでなければダメなんだ!!」

ホオリ「そんなこと言われても……」

ホデリ「あれが返せないならもう二度と私の前に姿を見せるな!とっとと帰れ!!」



ホオリ「うぅ……」グスン…


―――――――
――――
――




<さらに後日>

ホオリ「ホデリ~!ホデリ~!」タッタッタッ


ホデリ「なんだ?ようやく釣り針が見つかったか?」

ホオリ「いや、今度は釣り針を千個作ってきたんだ!これだけあればきっと気に入るヤツも――」

ホデリ「またか!?だからあの釣り針でなければダメだと言っただろう!!」

ホオリ「でもでも!一般的な鉄製、鋼製、ステンレス製に加えて貝殻製や骨製の原始的なモデルまで各種取り揃えたんだよ!?」

ホデリ「種類が多ければいいというものではない!あくまであの釣り針がいいんだ!!」

ホオリ「そんなこと言わずに、試しに使ってみてくれって!」

ホデリ「しつこい!あの釣り針が返せないなら二度と姿を見せるなと言ったはずだ!!」

ホオリ「兄弟なんだから、いい加減許してくれよぉ~!」ヒシッ!!

ホデリ「やめろ!しがみついてくるな!!」バシバシ!!

ホオリ「ホデリが許してくれるまでもう離れない~!!」ギューッ!!

ホデリ「暑苦しい!離れろ!!」バシバシ!!

ホオリ「頼むよ~!許してくれよぉ~!」ギューッ!!

ホデリ「……!」カチン



ホデリ「い・い・か・げ・ん――」



ホデリ「「帰れぇぇぇぇぇ!!!!」」


―完―

【キャスト】
ホデリ
ホオリ


作:若布彦(ホスセリはどこへ……?)

・・・次のお話はこちら⇒“海幸山幸神話②

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