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[“天孫降臨神話/到着編”の続き]
――伊勢・志摩の方へ帰るサルタヒコに付き添ったアメノウズメのお話


<高千穂宮>

ニニギ「さて、立派な宮もできたことだし、当分はここに腰を据えて徐々に勢力拡大を――」

サルタヒコ「あのぉ~、ニニギノミコッ様?」

ニニギ「ん?どうした、サルタヒコ?」

サルタヒコ「ちぃっと相談があんだげんども……」

ニニギ「相談だと?何だ、言ってみろ」

サルタヒコ「いや、実はそろそろおらも自分の里の様子が気になっでなぁ……」

ニニギ「なるほど、地元へ帰りたいということか……」

サルタヒコ「これから忙しくなるってときにここを離れんのも申し訳ねぇんだげんども……」

ニニギ「まぁ、確かに今後ますます労働力が必要になってくるとは思うが――」



ニニギ「それはお主が気にすることではない。帰郷を許そう」

サルタヒコ「本当か!?ありがてぇ!!」パァッ!!

ニニギ「元々お主は国津神だからな、道案内が終わったらすぐに帰らせるつもりだったのだ」

ニニギ「これまでよく働いてくれたな。礼を言うぞ」

サルタヒコ「礼だなんてとんでもねぇ!おらが好きでお仕えしてただげだぁ」

サルタヒコ「里に帰ぇってもニニギノミコッ様への忠義は忘れねぇだ!」

ニニギ「そうか。では餞別として私のブロマイド(非売品)を持って行くといい」スッ

サルタヒコ「それは別に……あっ!いや、ありがてぇ!!」



ニニギ「ところで、お主の地元はここから近いのか?」

サルタヒコ「伊勢とか志摩の方だで、こっからだとだいぶ遠いがなぁ」

ニニギ「遠いのかよ!」

ニニギ「と言うか、なぜわざわざ地元から遠い高千穂に私たちを案内したんだ……?」

サルタヒコ「おらも一度筑紫さ来でみだがったもんで」テヘペロ

ニニギ「観光気分かよ!!」



ニニギ「……まぁ、今さらそんな経緯はどうでもいい」

ニニギ「とりあえず、地元が遠いならばお主を独りで帰すわけにもいかんな。誰か従者を付けよう」

サルタヒコ「いやいや、そこまでしてもらうのは申し訳ねぇ。おらなら道中独りでも大丈夫だぁ」

ニニギ「そういうわけにもいかん。恩神を独りで帰したとあっては、天津神の信用に関わるからな」

サルタヒコ「おらが恩神……?そんな、滅相もねぇ!」

ニニギ「お主がいくら謙遜しようが、世間はそのように見るのだ」

サルタヒコ「はぇ~、そういうもんだか?」

ニニギ「そういうものだ」


ニニギ「近場なら私が直々に送っても良いのだが、さすがに遠方までは同行できん……」

ニニギ「となると……そうだなぁ……」


ニニギ「ウズメ!アメノウズメはいるか!?」

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アメノウズメ「呼んだかい?」ヒョコッ

ニニギ「うむ。お主に任務だ」

アメノウズメ「アタシに任務??……ってことは、もしかして宴かい!?」

ニニギ「いや、私に仕え先導を勤め上げたサルタヒコを、地元まで送り届けてほしいのだ」

アメノウズメ「はぁ!?アタシはダンサーだよ??なんでそんなことしなきゃいけないのさ!?」

ニニギ「単身でサルタヒコに対峙し、その正体を突き止めたお主こそ適任だろう」

アメノウズメ「勝手にアタシをこいつとセットみたいな扱いにしないでおくれよ!」

ニニギ「セット扱い……?なるほど、閃いたぞ!」ピコーン!!

アメノウズメ「……はぁ?」

ニニギ「この際だ、ウズメよ、お主はサルタヒコから名を受け継いで仕えるといい!」

アメノウズメ「いや、良くねぇよ!勝手に決めんな!!」


サルタヒコ「あのぉ~……娘っ子も嫌がっとることだし、おらやっぱり独りで……」

ニニギ「いや待て!そういうわけにはいかん!」

ニニギ「ウズメよ、耳を貸せ」チョイチョイ

アメノウズメ「あぁ??何だよ、まったく……」スススッ



ニニギ(いいか、これはサルタヒコの地元と同盟を結ぶチャンスなんだ)コソコソ

アメノウズメ(同盟?どういうことだい?)コソコソ

ニニギ(お主がサルタヒコを丁重に送り届けて名を受け継げば、友好の証になるだろう?)コソコソ

アメノウズメ(まぁ、確かにそうかもしれないけど……)コソコソ

ニニギ(何も一生向こうで暮らせとまでは言わん。肌に合わなければ戻って来てもいい)コソコソ

アメノウズメ(う~ん……そういうことなら……)コソコソ



アメノウズメ「わかったよ。サルタヒコ、アタシがあんたを送り届けてやる」

ニニギ「よし!頼んだぞ、ウズメ!」

サルタヒコ「いやぁ~、こんなめんこい娘っ子さ付けてもらって申し訳ねぇなぁ」

アメノウズメ「めんこいってねぇ……あんた、初対面の時アタシを“どこの馬の骨とも知れねぇ小娘”呼ばわりしてただろ!覚えてんだかんね!」

サルタヒコ「あん時は実際どこの馬の骨とも知れねぇ小娘だったんだがら仕方ねぇべ」

アメノウズメ「失礼なヤツだね、まったく……」

ニニギ「ふむ、やっぱりなかなか相性が良さそうじゃないか」

アメノウズメ「良くない!!」

ニニギ「まぁ、そういうことでサルタヒコよ、ウズメに名をやってくれるか?」

サルタヒコ「もちろんだぁ。おらの名から“猿”を取って、“猿女(サルメ)”ってのはどうだろか?」

ニニギ「ふ~ん、サルメか。まぁいいんじゃないか?」

アメノウズメ「他神事(ひとごと)だと思って、反応が適当すぎないかい……?」

ニニギ「では改めて……頼んだぞ、サルメ!」


サルメ(アメノウズメ)「……はいはい、わかったよ」


―――――――
――――
――


<後日>

サルメ「ニニギ坊~、今帰ったよぉ~!」ガラッ



ニニギ「なんだサルメ、もう帰って来たのか?」ヒョコッ


ニニギ「つまり、サルタヒコの地元は長居できないほど酷いところだったと……」

サルメ「いやいや、別にそういうんじゃないよ!一応報告に戻って来ただけさ」

ニニギ「そうなのか。では、悪いところではなかったのだな?」

サルメ「むしろ、アタシはめちゃくちゃ気に入ったよ!伊勢湾の海産物も絶品だったしね♪」

ニニギ「なるほど、海の幸に恵まれたところなのかぁ」

サルメ「ああ。それにサルタヒコの仲間たちもみんな友好的で、天津神に従うってさ」

ニニギ「それは良かった!では今後ともサルタヒコとは連絡を取り合って――」


――ドタドタドタドタッ!!


モブ津神A「たたた、大変ですニニギ様!!」ワタワタ!!

モブ津神B「いいい、一大事です!!」ワタワタ!!



ニニギ「騒がしいな、一体何事だ!?」

モブ津神A「たった今、伊勢志摩オフィスから連絡が入ったのですが……」

サルメ「えっ!?アタシも今帰って来たばかりだってのに、もう遣いが来たのかい??」

モブ津神B「いえ、普通に電話で」

サルメ「いや、普通に電話すんな!!」



ニニギ「それで、用件は何だったんだ?」

モブ津神A「それが……サルタヒコ様が阿邪訶(あざか)へ漁に出掛けたところ――」

モブ津神B「比良夫貝(ひらぶがい)に手を挟まれ、海に沈んで溺れたと……!!」

サルメ「!?」

ニニギ「なんだって!?」


モブ津神A「そして、海の底に沈んでいた時に現れた御魂の名を底度久御魂(ソコドクミタマ)」

モブ津神B「海水につぶつぶと泡が立った時に現れた御魂の名を都夫多都御魂(ツブタツミタマ)」

モブ津神A「その泡がはじけた時に現れた御魂の名を阿和佐久御魂(アワサクミタマ)」


モブ津神B「……と、それぞれ名付けたとのことです!」

ニニギ「いや、冷静に名前なんて付けてる場合か!!」

サルメ「サルタヒコ……そんな……」フルフル…



サルメ「……くそっ!!」ダッ!!

ニニギ「あっ、サルメ!どこへ行くんだ!?」



ニニギ(ま、まさか!サルタヒコを亡くしたショックで……!!)


ニニギ「やめろサルメ!早まるなぁぁぁぁっ!!!!」


―――――――
――――
――


<海岸>

――ザパーン!!

――ザパーン!!


サルメ「……」

サルメ「海がどこまでも続いているんなら……」

サルメ「この日向の海とサルタヒコの沈んだ海も、繋がってるんだよね……?」

サルメ「だったら……」スタスタ…


――ジャブジャブ


サルメ「こうしてアタシも海に入れば、サルタヒコにも弔いの気持ちくらいは届くかな……?」


サルメ「ねぇ……この海を泳ぐ、大小様々な魚たち……」





サルメ「「「てめぇら全員集まりやがれぇぇぇぇぇっ!!!!」」」ゴゴゴゴゴッ!!


魚たち「ひ、ひぇぇっ!!!」ゾワゾワッ!!



魚A「い、一体何ですか急に!?」ビクビク

魚B「私たち、何かお気に障ることでも!?」ビクビク

サルメ「おぅ、てめぇらの仲間がアタシのツレに手ぇ出しやがったらしいじゃねぇか。あぁん?」

魚A「えぇっ!?し、知りませんよそんなこと!」

魚B「ちなみに、その“ツレ”というのはどこのどなたですか?」

サルメ「サルタヒコだよ、サ・ル・タ・ヒ・コ!!」

魚A「サルタヒコ……?聞き覚えの無い名前ですね……」

魚B「ひょっとして、この辺りの神ではないのでは……?」

サルメ「“知らねぇ”で済む問題じゃねぇ!あいつに手ぇ出すってのは、天津神に喧嘩売るようなもんなんだよ!!」

魚A「そ、そうなんですか!?」

魚B「そんな畏れ多いことを、一体誰が……??」

サルメ「やったのは阿邪訶の比良夫貝とかいうヤツだって話よ」

魚A「いや、阿邪訶なんて遠すぎて私たちとは関係ありませんよ!!」

魚B「それに、魚類と貝類ではコミュニティも別々ですし!!」

サルメ「知るか!海はぜ~んぶ繋がってんだ!海の仲間は皆仲間!」

サルメ「だったら当然、連帯責任だろうが!!」

魚A「そんな無茶苦茶な……」

魚B「八つ当たりですよぉ……」


サルメ「八つ当たりだってことくらい……アタシもわかってんだよ……」ギリッ…


サルメ「あ~もう!とにかくアタシは今気が立ってんだ!」

サルメ「この海の生き物を、皆殺しにしてやりたいくらいにな!!」ガオー

魚A「そ、それは勘弁してくださいぃっ!!」

魚B「何卒、ご容赦をっ!!」

サルメ「ほぉ~ん、命乞いするか。そっちから喧嘩売っといて図々しいな、おい」

魚A「ですから喧嘩なんて売ってませんって!!」

魚B「阿邪訶の比良夫貝なんて私たちとは無関係ですよ!!」


サルメ「なら訊くが、てめぇらは天津神の御子に仕える気があんのか?あぁん?」

魚A「も、もちろんです!!」

魚B「謹んで、お仕え申し上げます!!」

サルメ「なるほどなぁ~」


サルメ「じゃあ、そこのてめぇはどうだ?」

ナマコ「……」

サルメ「あぁ?シカトぶっこいてんじゃねぇぞ、コラ!!」

ナマコ「……」

魚A「無理ですよ。そいつは何を言っても応えないんです」

魚B「と言うか、応えられないんですよ。口が無いので」

サルメ「口が無いぃ?んなわけねぇだろ!」


サルメ「おらおら、早く応えろよ!!」チャキッ

ナマコ「……」

魚A「いや、ですからそんな小刀を突き付けて脅しても無駄ですって……」

魚B「そいつにできるのはせいぜいうねうね動くくらいです」


サルメ「応えねぇのはこの口か?あぁん?この口が悪ぃのか??」グリグリ

ナマコ「……」アセアセ

魚A「あぁっ!危ないですよ!!」

魚B「そんなに強く小刀を押し付けたら……!!」


――ザシュッ!!


魚A&B(さ、裂けちゃったぁぁぁ!!!)



ナマコ「ぐぁぁっ!!いってぇぇぇぇっ!!!!」

サルメ「ほ~ら、やっぱり喋れるじゃねぇか♪」

魚A&B(喋れるようになった!?)

サルメ「そんじゃ改めて訊くが、てめぇは天津神の御子に――」

ナマコ「仕えます仕えます!!そりゃあもう誠心誠意仕えさせていただきます!!!!」


ナマコ「ですからこれ以上私の口を裂かないでください!!(迫真」


サルメ「フンッ、そうかい。だったらこのくらいで勘弁してやるよ」

ナマコ「あ、ありがとうございます!!」

魚A&B「Oh……」ドンビキー



サルメ「さて、あんたら全員忠誠を誓ったからには、今後はアタシに協力してもらうよ」

魚A「えぇ~っと……協力とはどういうことですか?」

サルメ「あぁ~……ちょっと長くなるけど、順を追って話すよ」

魚B「はぁ……」


サルメ「まず、さっき言ったアタシのツレ、サルタヒコは伊勢志摩を拠点にしていた国津神なんだ」

サルメ「そんで、アタシは天津神配下の日向と伊勢志摩との友好の証としてサルタヒコから名を受け継いだ」

ナマコ「政略結婚的な感じってことでしょうか?」

サルメ「まぁそんなとこだね」

サルメ「で、サルタヒコ亡き今、アタシが代わりに伊勢志摩を治めて、日向との友好関係も維持しなきゃいけない」

魚A「それは大変そうですねぇ……」

サルメ「そうなんだよ。当分は内政の安定化に忙しくて、日向への献上品の準備もままならないんじゃないかと思うんだ」

魚B「かと言って何も献上しないとなると、友好国としての立場が危うくなるんじゃないですか?」

サルメ「そう。やっぱり日向には定期的に何かしら献上するようにしたい」


サルメ「そこで、あんたたちの出番だ!」

ナマコ「……どういうことです?」

サルメ「伊勢志摩からの献上品として、毎年初物の海産物を日向に贈るんだよ!」

海産物たち「えぇっ!?」ビクッ!!

サルメ「あんたたちの協力で常に一定の漁獲量が確保できれば、献上品に困ることも無いだろう?」

魚A「ちょ、ちょっと待ってください!」

魚B「それってつまり、私たちに自ら命を差し出せと、そういうことですか!?」

ナマコ「そんなのあんまりです!!」

サルメ「いやいや、あんたたちは伊勢志摩の魚介類に話を付けてくれるだけでいいよ」

魚A「なぁ~んだ、私たち日向の魚介類は助かるんですね。それなら安心……なわけないでしょ!!」

魚B「私たちから伊勢志摩の同胞に“犠牲になってくれ”なんて言えませんよ!」

ナマコ「海の仲間は皆仲間ですから!!」

サルメ「ほぉ~ん、そうかい……」



サルメ「今さら協力を断ったら、どうなるかわかってんだろうねぇ……?」ゴゴゴゴゴッ!!

海産物たち「……っ!!」ゴクリ…

サルメ「天津神への忠誠心の無い不届き者どもは……」ゴゴゴゴゴッ!!



サルメ「み・な・ご・ろ――」

海産物たち「失礼いたしました!!仰せのとおりにさせていただきます!!!!」



サルメ「フンッ、わかればいいんだよ♪」

海産物たち「いや~、天津神様に仕えられるなんて光栄だなぁ~!!ハハハー」



魚A(すまん、伊勢志摩の魚介類たち……)

魚B(世界の海の平和のために……)

ナマコ(天津神の御子にその命を捧げてくれぇ~!!)


―完―

【キャスト】
ニニギ
サルタヒコ
アメノウズメ(サルメ)

ナマコ
モブ津神


作:若布彦(夫を亡くした直後なら、荒れて八つ当たりしても仕方ありませんよね……)

・・・次のお話はこちら⇒“短命起源神話

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