▼神話SSまとめ読みはこちら


[“国譲り神話/建御雷編②”の続き]
――Entire Agreement on the Compensation for Transfer of the Stateのお話


<稲佐の小浜>

オオクニ「高天原の経費で、私の住む宮を新築していただきたいのです!!」

タケミカヅチ「経費でだとぉ!?」



タケミカヅチ「う~む……大人しく国を譲るならある程度の見返りは約束して良いと言付かってはいるが……」

トリフネ「さすがに宮の新築は予算オーバーじゃないっすか、兄貴?」



タケミカヅチ「……一応訊くが、どのような宮を建てろと言うのだ?」

オオクニ「えぇ~と……たぶんですけど、天津神の御子がこの国を継いだら、その記念に宮を建てますよね?」

タケミカヅチ「ん?まぁ、おそらくそうなるだろうな」

オオクニ「イメージ的には、その宮と同じくらい立派なヤツでお願いしたいなぁ~と……」

タケミカヅチ「な、なにぃっ!?」


オオクニ「地中深くの岩に太い柱を立てて……」

タケミカヅチ(こ、こいつ……)ワナワナ…

オオクニ「千木が高天原まで届くくらい大きな宮を建てていただきたいんですが……」

タケミカヅチ(なんて図々しいことを!!)ワナワナ…

オオクニ「今住んでる宮だとまだ高さが足りないんで、建て替えたいんですよねぇ~」



オオクニ「どうでしょう?」

タケミカヅチ「却下だ!!」キッパリ

オオクニ「そんなぁ~!!」ガーン!!

タケミカヅチ「当たり前だろう!そんな国立競技場建設レベルの公共事業できるか!」

オオクニ「建てていただければ私は大人しくこの世界の片隅でひっそりと隠居しますからぁ」

タケミカヅチ「ダメだ。そこまでするくらいなら、貴様を殺して国を奪った方が早い」

オオクニ「でも、それだと国津神たちの信用を得られなくて困るんじゃないですか?」

タケミカヅチ「うっ……」

オオクニ「もしかすると友好国が離反するかもしれませんし、最悪クーデターなんてことも……」

タケミカヅチ「ぐぬぬ……」



オオクニ「そうだ!宮を建てていただけるなら、コトシロヌシを天津神の御子に仕えさせましょう」

オオクニ「そうすれば、私の子らも誰一柱として天津神の御子に背くことはないはずです」

オオクニ「労せずして私の百八十(ももやそ)の子らを配下にできるのですよ?」

タケミカヅチ「う~む……」

オオクニ「どうでしょう?長期的に見れば、そう悪い話でもないと思いますが……?」



トリフネ「どうします、兄貴!?」

タケミカヅチ「……いや、やはりダメなものはダメだ。そんな大事業、我の一存では許可できん」

オオクニ「えぇ~!」

タケミカヅチ「……が、アマテラス嬢に貴様の要望を伝えるくらいはしてやってもいい」

オオクニ「おっ!やったぁ~♪」

トリフネ「兄貴ぃ、本当にそんな稟議上げちゃっていいんすか!?」

タケミカヅチ「稟議として承認を求めるわけではない。どこまで要望を汲むか意見を請うだけだ」

タケミカヅチ「簡素な宮程度なら許可が下りるかもしれんからな」

オオクニ「いやぁ~……簡素な宮で妥協なんてしたらスッチーになんて言われるか……」

タケミカヅチ「贅沢を言うな。この場で切り捨てるぞ?」ギロッ

オオクニ「ヒェッ……」


タケミカヅチ「……少し待て、電話する」ポチポチ


――プルルルルルル

――ガチャッ


アマテラスの声『もしもし?』

タケミカヅチ「アマテラス嬢か。タケミカヅチだ」

アマテラスの声『あら、タケミカヅチさん。どうされたのです?中つ国平定の任務は順調ですか?』

タケミカヅチ「そうだな、9割方話はついたところだ」

アマテラスの声『えぇっ!?もうですか??』

タケミカヅチ「うむ。オオクニヌシもその息子も、少し脅したらすんなりと国譲りに同意した」

アマテラスの声『それは朗報ですね!では早速オシホミミにも報告を――』

タケミカヅチ「いや、待ってくれ。まだ話が全てまとまったわけではなくてだな……」

アマテラスの声『どういうことです?』

タケミカヅチ「国譲りにあたって、オオクニヌシが見返りを求めてきた」

アマテラスの声『ふぇ?見返りでしたら、与えて構わないと言いましたよね?』

タケミカヅチ「いや、求めてきた見返りの規模がだな――」

 ・
 ・
 ・

タケミカヅチ「カクカクシカジカ……というわけなのだ」

アマテラスの声『何ですかそれは!却下です、却下!!』キッパリ

タケミカヅチ「やはりそうだろうな」

アマテラスの声『当たり前ではありませんか!オシホミミと同等の立派な宮を建てろだなんて、図々しい!!』

タケミカヅチ「では、オオクニヌシへの見返りはどのように?」

アマテラスの声『床面積20平米くらいの平屋でも与えておけば十分です!』

タケミカヅチ「承知した。そのように伝えよう」


――ガチャッ


タケミカヅチ「……だそうだ。平屋で我慢しろ」

オオクニ「いやいや、それじゃ困るんですって!!」

タケミカヅチ「貴様の事情など知ったことではない。アマテラス嬢の決定は絶対だ、大人しく従え」

トリフネ「そうっすよ!兄貴の御父上なんてもっと狭い天岩屋に住んでるんすから!」

タケミカヅチ「……それは関係ないだろう」


オオクニ「困ったなぁ……。平屋に引越しなんて、絶対スッチーに許してもらえないよ……」

オオクニ「スサノオさんから直々に、大きな宮に住むよう言われてるってのに……」


タケミカヅチ「うだうだと文句を言うな。切り捨てるぞ」ギロッ


――プルルルルルル!!!!


タケミカヅチ「むっ?着信……アマテラス嬢からか?」

トリフネ「何か言い忘れたことでもあったんすかね?平屋は木造か鉄骨か~とか」


――ガチャッ


タケミカヅチ「こちらタケミカ――」


アマテラスの声『『タ、タケミカヅチさん!!!!』』キィィィーン!!


タケミカヅチ「っ……あまり大きな声を出さないでくれ、耳が痛い」

アマテラスの声『今しがた、“スサノオ”の名前が出ませんでしたか!?』

タケミカヅチ「スサノオ殿の名か?確かに出たが、なぜそれを知って――」

アマテラスの声『やはり!!わたくしのスサノオセンサーもまだまだ現役ですね!!』

タケミカヅチ(なんだ、そのセンサーは……?)

アマテラスの声『それで、スサノオがどうしたのです??』

タケミカヅチ「いや、どうもオオクニヌシの要求内容はスサノオ殿の指示によるものだとかで――」


アマテラスの声『『それを早く言ってください!!!!』』キィィィーン!!


タケミカヅチ「っ……だからあまり大きな声を出さないでくれと……」

アマテラスの声『そういうことなら話は早いです。オオクニヌシの宮の建設を認めましょう!!』

タケミカヅチ「け、建設を認めるだと!?」

オオクニ&トリフネ「えぇっ!?」

タケミカヅチ「待ってくれ!本当にそんなことに高天原の経費をつぎ込んでいいのか?」

アマテラスの声『何を言うのです!スサノオの意思を尊重することこそジャスティスに決まっているではないですか!!』

タケミカヅチ「なっ……!?」

アマテラスの声『予算に糸目はつけません!必要ならば宮大工も高天原から派遣しましょう!』

タケミカヅチ「いや、なにもそこまで……」

アマテラスの声『口出しは許しません!』

アマテラスの声『これはわたくしとスサノオの、壮大な愛のプロジェクトなのです!!』

タケミカヅチ「えぇ……」ドンビキー

アマテラスの声『とにかく!スサノオに見せても恥ずかしくない、立派な宮を建てるのですよ!良いですね!?』

タケミカヅチ「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

アマテラス『では、そういうことで!』


――ガチャッ


タケミカヅチ「……」ワナワナ…

トリフネ「あの……兄貴?」

タケミカヅチ「くっ……納得はできんが、アマテラス嬢の決定は絶対だ……」

オオクニ「……ということは??」

タケミカヅチ「貴様の要望どおり、天高くそびえる宮を建設してやろう……」


―――――――
――――
――


<多芸志の小浜>

オオクニ「いやぁ~、壮観だなぁ~!」

トリフネ「よくこの短期間でこんな超高層社殿建てられたもんっすねぇ~」

オオクニ「高天原の全面協力のおかげだよ、ありがとう!」

トリフネ「まぁ、俺っちはガヤ担当として居ただけっすけどねwww」

オオクニ「何言ってるんだよ!物資の運搬で大活躍してくれたじゃないか!」

トリフネ「へへっ///運び屋の俺っちにはそれくらいしか協力できないんで」

オオクニ「今日は竣工祝いにご馳走の用意もしてるんだ。君も“功労者”として、是非宴を楽しんでくれよ!」

トリフネ「おっ!いいっすねぇ~♪」



オオクニ「それじゃあクシヤタマ、よろしく頼むよ!」

クシヤタマ「ガッテンでぃ!!」

クシヤタマ「オラオラオラオラオラオラァッッッ!!!」シュババババッ!!



トリフネ「うひゃ~!あの膳夫、物凄い手際っすね!」

オオクニ「クシヤタマは水戸(ミナト)神の孫で、海鮮料理に関しては右に出る者がいないんだ」

トリフネ「それは楽しみっすねぇ~♪」ジュルリ



クシヤタマ「オラァッ!!これで完成……っといけねぇ!皿を出し忘れてたぜぃ!!」

オオクニ「あぁ、それなら誰かに取って来させるよ」

クシヤタマ「いやいや、それには及ばねぇよ旦那!ちょいと待っててくんな!」


クシヤタマ「パラリルパラリル……あらよっと!」プワプワー


――ポンッ


鵜シヤタマ「グァーグァー!!」

トリフネ「ファッ!?膳夫さんがメルヘンな感じの祝詞(?)を唱えたと思ったら、鳥の姿に!?」

鵜シヤタマ「そんじゃ、ちょっくら海の底まで行ってくらぁ!」ザブーン!!

トリフネ「えぇっ!?わざわざ鳥になったのに海に潜るんすか!?」

オオクニ「海鵜は潜水が得意なんだよ。鵜飼に使われるのも海鵜なんだってさ」

トリフネ「はぇ~、ただの鳥かと思ったら、鵜だったんすね」



鵜シヤタマ「お待ちどぉーっ!!」ザパァッ!!

トリフネ「って、帰ってくるの早っ!!」

鵜シヤタマ「ペッペッ!!かぁ~~、埴(はに)なんてうめぇもんじゃねぇな!!」

オオクニ「埴……って粘土か?そんなもの取ってきてどうするんだ??」

クシヤタマ「おぅ!こりゃあな、こうするんでぃ!!」シュバババババッ!!

トリフネ「あっ!しれっと元の姿に戻ったと思ったら、勢いよく粘土を捏ねだしたっすよ!」

オオクニ「こ、この平たいフォルムはまさしく……!!」


クシヤタマ「ぅっし!天の皿、完成でぃ!!」バァーン!!

トリフネ「この短時間でこんなにたくさんのお皿を!?物凄い手際っす!!」

オオクニ「あまりの手際に、いつ焼いたのかすらわからなかったよ!」


クシヤタマ「さぁ~て、この皿にさっきの料理を盛り付けて……」

トリフネ「おぉっ!めちゃくちゃ豪華っすよ、オオクニヌシさん!!」

オオクニ「いいねいいねぇ~♪SNS用に写真撮っておこう!」

クシヤタマ「おぉっと!そいつぁ~ちょいとばかし待ってくんな、旦那」

オオクニ「えっ?これで完成じゃないの??」

クシヤタマ「バカ言っちゃいけねぇよ!まだ“SNS映え”に必要なアレが足りてねぇでしょうが!」

オオクニ「……アレ???」

クシヤタマ「まぁまぁ見ときな!」


クシヤタマ「まず、さっき海の底で刈ってきたこの海草の茎で燧臼(ひきりうす)を作るだろ?」

オオクニ&トリフネ(どうやって!?)

クシヤタマ「んで、こっちの海草の茎で燧杵(ひきりぎね)を作る」

オオクニ&トリフネ(だから、どうやって!?)

クシヤタマ「あとはこいつらをうまいこと擦り合わせてやれば……」


――ボッ!!


クシヤタマ「ほぉ~れ、火がついた!」

トリフネ「おぉっ!!凄いっす!!」

オオクニ「何をどうやったのか全然わかんなかったけど!!」

クシヤタマ「あとはこの火をシャレオツなキャンドルにでも灯してやりゃあ……」


――ポワァーーー


トリフネ「うぉぉぉ~!!これは間違いなく“映える”っすよ、オオクニヌシさん!!」

オオクニ「なんて完璧なテーブルメイキングなんだ!」

クシヤタマ「へっ、どんなもんでぃ!!やっぱ“映え”にゃあ火が不可欠だよな!」


クシヤタマ「ついでにでっかいキャンプファイヤーも灯して……っと!」

トリフネ「一気に宴感がでてきたっすね!」

オオクニ「空間ごとコーディネートするなんて、さすがクシヤタマ!」

クシヤタマ「さぁ~て、飯の準備も整ったところで、いっちょ祝詞でも唱えたろうじゃねぇか!!」



『おいらが起こしたこの炎』

『高天原でカムムスヒの御祖さんが誂えたご立派な新築のお宮にも、煤が溜まって垂れ下がるくらい、盛大に焚き上げよう!』

『それから地下深く、地底の岩をも焼き固めるくらい、力強く焚き上げよう!』

『楮の長い縄を使って漁師が釣り上げた、でっかいスズキを引き上げて』

『載せた祭壇がたわむくらい豪勢に盛り付けりゃあ準備は万端!』

『極上の魚料理を、さぁ――』



クシヤタマ「おあがりよ!!」


クシヤタマ「……ってな!」ドヤァ!!

トリフネ「ウェーイwww燃えろ燃えろ~~っす!!」

オオクニ「よし!それじゃあ満を持して始めますか!」



オオクニ「せーのっ!」



一同「いただきます!!」


―――――――
――――
――


<高天原>

タケミカヅチ「……ということで、葦原の中つ国の平定は完了した」

アマテラス「ご苦労様でした、タケミカヅチさん」



アマテラス「それで……そのぉ……///」モジモジ

タケミカヅチ「ん?何か報告に不備でもあったか?」

アマテラス「いえ……ですから……先の報告にあった……///」モジモジ

タケミカヅチ「報告にあった……何だ?気になることがあるならハッキリ言ってくれ」

アマテラス「ぅぅ……///」モジモジ


トリフネ「もぉ~、兄貴は女心ってヤツがわかってないっすね!」

タケミカヅチ「む?どういうことだ、トリフネよ?」

トリフネ「安心してください!俺っちがちゃんと、アマテラス様の分も確保してきましたよ!」

アマテラス「ト、トリフネさん!!」パァッ!!


――パカッ


トリフネ「クシヤタマさんのご馳走、スペシャルお弁当エディションっす!!」バァーン!!

アマテラス「素晴らしい働きですよ、トリフネさん♪♪」ルンルン

トリフネ「さすがに生ものは厳しかったんで、日持ちしそうなヤツだけっすけどねぇ~」

タケミカヅチ「ハァ……(ため息」



???「君たち、ちょっといいかい?」

トリフネ「何すか?今ちょっと取込み中――」

カムムスヒ「忙しいところすまないね」

トリフネ「って、カムムスヒ様!?」

タケミカヅチ「これは御祖殿、お久しゅう……」

アマテラス「カムムスヒ様、何のご用でしょうか?」

カムムスヒ「いや、少し厄介なことになってね。君たち、良かったら手を貸してくれないか?」

タケミカヅチ「うむ。御祖殿の頼みとあらば、喜んで引き受けよう」

トリフネ「俺っちもお手伝いするっすよ!」

アマテラス「わたくしも協力いたしましょう!」

カムムスヒ「ありがとう、助かるよ」


アマテラス「それで、一体何があったのですか?」

カムムスヒ「実は、先日新しく宮を建てたのだけれど、早速煤だらけになってしまってね」

トリフネ「!?」

カムムスヒ「掃除するのを手伝ってほしいんだ」

アマテラス&タケミカヅチ「……」

カムムスヒ「ちょうど、“燃えろ燃えろ~~”と騒いでいた誰かさんもいることだしね♪」ニコッ

トリフネ「え、えぇ~っと……」

アマテラス「トリフネさん……」



アマテラス「お一柱(ひとり)で掃除していらっしゃい!!」

トリフネ「ファーーーwww」


―完―

【キャスト】
オオクニヌシ
タケミカヅチ
アメノトリフネ
アマテラス
クシヤタマ
カムムスヒ


作:若布彦(都政は都民ファースト、高天原政はスサノオファーストですっ!)

・・・次のお話はこちら⇒“天降り未遂神話

▼神話SSまとめ読みはこちら