▼神話SSまとめ読みはこちら


[“国譲り神話/天若日子編①”の続き]
――音信不通のアメノワカヒコに業を煮やした天津神による偵察作戦のお話


<天安之河原>

――ザワザワ
――ザワザワザワ


アマテラス「三度目ともなると、さすがに集合もスムーズになってきましたね」

アマテラス「皆さんお揃いのようですので、そろそろ始めましょう……」



アマテラス「第3回!」ドドドドドドドドッ



アマテラス「葦原の中つ国をオシホミミに治めさせるにはどうすればいいか会議ぃ~!!」バーン!!

モブ津神A&B「わぁ~~」パチパチ

タカミムスヒ「……♪」

オモイカネ「そういうノリはもういいので、早く始めませんか……?」

アマテラス「そうですか……」シュン…
タカミムスヒ「……」シュン…



アマテラス「コホン……」

アマテラス「えぇ~、8年前葦原の中つ国に派遣したアメノワカヒコですが、未だに連絡を寄こしません」


――ザワザワ


アマテラス「もちろん、単に彼が慎重に事を進めているが故のことだと信じたい気持ちもあります」

アマテラス「ですが、さすがにそろそろ“裏切り”の可能性も考慮せねばなりません」


――ザワザワザワ!?


アマテラス「そこで、アメノワカヒコがこうも長く中つ国に留まる理由について問いただそうと思います」

アマテラス「それにあたり、どの神を遣わすのが良いか?……というのが今回の議題です」

タカミムスヒ「……」コクコク



アマテラス「では、例によってオモイカネさん、ご意見をどうぞ」

オモイカネ「えぇっ!?また私ですか!?」

アマテラス「一番信頼のおける方のご意見から先に伺った方が手っ取り早いではないですか」

オモイカネ「えぇ……」

アマテラス「ちなみに、パッと行ってサッと帰って来られるような使者が望ましいです」

オモイカネ「いやいや、そんなコンビニ感覚で中つ国へ行くなんて、それこそ翼でも――」


――ザワザワ


オモイカネ「翼……そうか!翼があればいいんだ!」

アマテラス「オモイカネさん、何を仰っているのです??」

オモイカネ「アマテラス様、ここは雉の鳴女(なきめ)を遣いにやりましょう!」

アマテラス「雉ですか?この場合、アメノワカヒコより位の高い神を遣わした方が良いのでは……??」

オモイカネ「いえ、ここは鳴女が適任です。翼を持つ雉なら、中つ国へ行くのも苦になりませんから」

アマテラス「なるほど!確かに雉ならパッと行ってサッと帰って来られますね!」

タカミムスヒ「……♪」



アマテラス「では、どなたか鳴女さんをこちらへ!」

モブ津神A&B「はっ!我らにお任せを!!」シュババッ!!

オモイカネ「あれ?今回は採決は行わないんですか?」

アマテラス「えっ!?あ~……まぁ、細かいことはどうでも良いではありませんか」

オモイカネ「いや、会議の採決って全然“細かいこと”ではないと思いますが……」

アマテラス「こんなふざけたSSにそんな真面目なツッコミを入れてどうするのです?」

タカミムスヒ「……」コクコク

オモイカネ「えぇぇ……」

アマテラス「とにかく、もう決定ということでサクサク進めますよ」

オモイカネ(これでいいのか高天原……?)



モブ津神A「アマテラス様~!!」スタタッ!!

モブ津神B「鳴女を連れて参りました~!!」スタタッ!!

鳴女「ケーン、ケーン!!」



アマテラス「ご苦労さまです。早かったですね」

モブ津神A「はい。ちょうどすぐそこでばったり出くわしまして」

モブ津神B「あたかも呼ばれるのを見越してスタンバっていたかのようでしたよ」

オモイカネ(なんという雑なご都合主義……)


アマテラス「では鳴女さん、よく聞いてください」

鳴女「ケーン??」

アマテラス「そなたにはこれから葦原の中つ国へ降りていただきます」

鳴女「ケーン」

アマテラス「そしてアメノワカヒコにこう問うのです……」


アマテラス「『そなたを葦原の中つ国に遣わしたのは、国津神たちを説き伏せ、平定するためです。それなのに、なぜそなたは8年もの間、何の連絡も寄こさないのですか?』……と」


鳴女「ケンケーン!!」

オモイカネ「あのぉ~……鳴女は雉ですし、言葉を覚えさせるより手紙を持たせた方が――」

鳴女「『そなたを葦原の中つ国に遣わしたのは、国津神たちを説き伏せ、平定するためです。それなのに、なぜそなたは8年もの間、何の連絡も寄こさないのですか?』」

オモイカネ「えぇっ!?まさかの完コピ!?」

アマテラス「上出来です!さすが鳴女さん!」

タカミムスヒ「……♪」



アマテラス「それでは鳴女さん、よろしくお願いしますよ!」

鳴女「ケーン!!」バサバサー


―――――――
――――
――


<アメノワカヒコの家>


――ヒューーーーン

――ピトッ


アメノワカヒコ「……ん?」

アメノサグメ「ワカヒコ様、どうかなさいましたか?」

アメノワカヒコ「いや……今、門のところの桂の木に何かとまったような気がして……」



鳴女「ケーン、ケーン」



アメノワカヒコ「なんだ、ただの雉か」

アメノサグメ(むむっ!?何か嫌な予感が……)

アメノワカヒコ「気にせず筋トレを続けるとしよう。イッチ、ニッ……」

アメノサグメ「ワカヒコ様!鍛錬はそこまでにして、もうお部屋に戻られてはいかがですか?」

アメノワカヒコ「いや、まだ今日のノルマが残ってるから――」



鳴女「ケーン……」
アメノサグメ「!?」


鳴女「『そなたを葦原の中つ国に遣わしたのは、国津神たちを説き伏せ、平定するためです』」
アメノサグメ「「「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~っ!!!!」」」



アメノワカヒコ「うわぁっ!!」ビクッ!!


アメノワカヒコ「い、いきなり大声出してどうしたんだよ!?」

アメノサグメ「あっ……これはそのぉ~……」アセアセ



鳴女「『それなのに、なぜそなたは8年もの間、何の連絡も寄こさないのですか?』」
アメノサグメ「「「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~っ!!!!」」」



アメノワカヒコ「だ、大丈夫か……?サグメこそ、ちょっと部屋で休んだ方が……」

アメノサグメ「い、いえ!私は大丈夫です!!」アセアセ


アメノサグメ(あの雉、どうやら高天原の回し者のようですね。何とかしなくては……)



鳴女「『繰り返します。そなたを葦原の中つ国に遣わしたのは――』」
アメノサグメ「「「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~っ!!!!」」」



アメノワカヒコ「おい、サグメ!今日のお前はどこかおかしいぞ?」

アメノサグメ「ワカヒコ様!!き、聞いてください!!」ハァハァ…

アメノワカヒコ「お、おぅ……」


アメノサグメ「実は私、雉の鳴き声恐怖症なのです!!」

アメノワカヒコ「何だよそれ!?雉の鳴き声なんていつも平気で聞いてるだろ??」

アメノサグメ「それはその……雉の鳴き声の中でも、ある特定のものだけがダメなのです!」

アメノワカヒコ「特定の鳴き声だけって……そんなことあるのかぁ??」

アメノサグメ「あるのです!具体的には、そこの桂の木にとまっているあの雉!!」

アメノワカヒコ「ん~?見たところ普通の雉みたいだけど……」

アメノサグメ「とんでもない!!あの雉の鳴き声は、それはもうおぞましい限りです!!」

アメノワカヒコ「それでさっきから奇声を上げていると……?」

アメノサグメ「はい!あの鳴き声が耳に入らないよう、自己防衛本能で叫んでいるのです!!」

アメノワカヒコ「なるほど……サグメがそこまで言うなら……」



アメノワカヒコ「ちょっと気になるし、耳をすませて鳴き声をよく聴いてみよう!」

アメノサグメ(アカ~~ン!!)



鳴女「『もう一度言います。そなたを葦原の中つ国に――』」
アメノサグメ「「「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~っ!!!!」」」



アメノワカヒコ「おい!鳴き声が聞こえないじゃないか!」

アメノサグメ「聞いてはなりません!聞いたら耳が腐りますよ!!」ハァハァ…

アメノワカヒコ「いや、それはさすがに言いすぎだろう……」

アメノサグメ「とにかく、あの雉の鳴き声はヤバいのです!!マジで!!(迫真」

アメノワカヒコ「お、おぅ……」タジッ…


アメノサグメ「あんな雉、早く射殺(いころ)してしまいましょう!!」

アメノワカヒコ「いや、そんな急に言われても準備が……」

アメノサグメ「そこに立派な弓矢があるではないですか!それを使って早く!!」

アメノワカヒコ「立派な弓矢って……この“天之波士弓”と“天之加久矢”か?」

アメノサグメ「はい」

アメノワカヒコ「これ貰い物なんだよなぁ……。結構貴重っぽいし、たかが雉狩りに使うのは……」

アメノサグメ「つべこべ言わずに早くしてください!!あの雉がまた鳴く前に!!」

アメノワカヒコ「あぁ~もう、わかったよ!射ればいいんだろ?射れば!!」



アメノワカヒコ「……」グググッ!!

鳴女「ケ…ケーン!?」ビクッ

アメノワカヒコ「それっ!!」ビュッ!!


――ズブシュッ!!


――ドサッ!!


鳴女「……(死~ん」

アメノサグメ「お見事です!一発で胸を射抜くとは、さすがワカヒコ様♪」

アメノワカヒコ「やべっ、力入れ過ぎた!矢が貫通してどっか飛んでっちゃったよ……」

アメノサグメ「矢の一本くらい、どうでも良いではありませんか♪」

アメノワカヒコ「だから貰い物で、結構貴重っぽい矢だったんだって!」

アメノサグメ「女々しいですねぇ。ワカヒコ様は矢をケチる小さい男だと言いふらしますよ?」

アメノワカヒコ「小さい男って……貰い物を大事にするのは当たり前だろう?」

アメノサグメ「フンッ、どうせ誰から何のために貰ったかも覚えてないクセに」

アメノワカヒコ「失礼だな!それくらいちゃんと覚えて――」



アメノワカヒコ「あれ?誰から貰ったんだっけ……?」


―――――――
――――
――


<天安之河原>

アマテラス「鳴女さんはいつ戻りますかねぇ~?そろそろですかねぇ~?」ワクワク

オモイカネ「いや、さすがにそんなに早くは戻らないと思いますけど……」

アマテラス「そうですか……」シュン…



アマテラス「……」ソワソワ



アマテラス「……」ウズウズ



アマテラス「……そろそろですかねぇ~??」ワクワク

オモイカネ「いや、まだ5分も経ってませんから!!」

アマテラス「うぅ……時間が経つのはこんなにも遅いものなのですね……」

オモイカネ「気にしすぎるからそう感じるのです。こういう時はどっしり構えて待っていれば良いのですよ」

オモイカネ「ですよね、御祖様?」



タカギさん「……♪」ワクワク



アマテラス「ほら、タカミムスヒ様だってウキウキの“タカギさんモード”で鳴女さんの帰りを待っていらっしゃるではありませんか!」

オモイカネ「“タカギさんモード”って何ですか!?変な設定作らないでください!」

アマテラス「別にわたくしが作ったわけではありませんよ。古事記にそう書いてあるのです」

オモイカネ「そんなの知りません!とにかく、読者が混乱するので名前は元に戻してください!!」

オモイカネ「そもそも、造化三神の身分を忘れてはしゃぎすぎです!もっと堂々としていてください!」

タカミムスヒ「……」シュン…


――ヒューーーーン


アマテラス「はっ!この飛来音は、もしかして鳴女さんでは!?」

オモイカネ「えっ!?」


――ヒューーーーン

――ポトッ


アマテラス「鳴女さん……?」

オモイカネ「……ではなさそうですね。ただの矢のようです」ヒョイッ

アマテラス「矢ですか……期待して損しました!」

タカミムスヒ「……」カムカム

オモイカネ「えっ?“その矢をよく見せろ”って……?」



オモイカネ「はい、どうぞ」スッ

タカミムスヒ「……」ジー

アマテラス「タカミムスヒ様、何か気になるところでもありましたか?」

タカミムスヒ「……」

オモイカネ「えっ?“矢羽に血が付いてる”??」

アマテラス「どれどれ……確かにこれは血のようですね。鳥か何かを射たのでしょうか?」

タカミムスヒ「……」ジー



タカミムスヒ「……!」ガタッ!!

アマテラス「ふぇっ!?きゅ、急に立ち上がってどうなさったのです?タカミムスヒ様??」

タカミムスヒ「……!!」

オモイカネ「“これはアメノワカヒコに与えた矢だ”……って、えぇっ!?」

アマテラス「な、なんですってぇぇぇ!!??」


―完―

【キャスト】
アマテラス
オモイカネ
タカミムスヒ
鳴女
アメノワカヒコ
アメノサグメ
モブ津神


作:若布彦(アメノサグメって誰なんだ……?)

・・・次のお話はこちら⇒“国譲り神話/天若日子編③

▼神話SSまとめ読みはこちら