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[“沼河比売神話”の続き]
――オオクニヌシの浮気癖にお怒りの正妻・スセリビメのお話


<出雲>

オオクニ(う~ん……どうしたものか……)

スセリビメ「……」ツーン


オオクニ「あのぉ~、スッチー?」

スセリビメ「……」ツーン


オオクニ「スセリビメさ~ん?」

スセリビメ「……」ツーン



オオクニ(ダメだぁぁぁ!!完っ全に怒ってらっしゃる!!)

オオクニ(越から帰ってからというもの、まともに目も合わせてもらえない……)


スセリビメ「……」ツーン


オオクニ(ヤガミヒメのときみたいに殴られたりするかもってのは覚悟してたけど……)

オオクニ(このパターンはこのパターンで精神的にくるわ……)

オオクニ(嫉妬って怖い……)



スセリビメ「……」チラッ

スセリビメ(どうやら“とにかく無視する作戦”はだいぶ効果があったみたいだね)

スセリビメ(あたしという正妻がありながら、よその女に手を出すオオクニが悪いんだ!)プンスカ

スセリビメ(しばらくそうやって反省してろ!)


スセリビメ(……まぁ、今晩には許してやろうかな?)



オオクニ(うぅ~……居心地が悪いなぁ……)

オオクニ(ダメだ!これ以上ここにいたら息が詰まる!!)

オオクニ(ここは一旦距離を置こう。時間が経てばきっと嫉妬も収まるだろうし)



オオクニ「ゴホン……あのぉ~、スッチー?」

スセリビメ「……」ツーン

オオクニ「まぁ、嫌なら返事はしなくてもいいや。とりあえず聞いてくれ」

スセリビメ「……」ツーン

オオクニ「俺はまたちょっと出掛けてくるから」

スセリビメ「……」



スセリビメ「「「はぁっ!!??」」」ガタッ!!



オオクニ「!?」ビクッ!!

スセリビメ「出掛けるってどこに!?」ギロッ!!

オオクニ「えっ!?あの……大和の方に……」オロオロ

スセリビメ「正妻のあたしをほったらかして大和でまた女漁りだぁ!?」

オオクニ「別にそこまで言ってないんだけど……」

スセリビメ「信じらんない!!馬鹿なの?死ぬの?」

オオクニ「す、すみません……」

スセリビメ「……あんたが全っ然反省してないってことはよぉ~くわかったよ」

オオクニ「いえ、そういうわけでは……」

スセリビメ「どうやらきちんと躾けてやらないとダメみたいだね」ゴゴゴゴゴッ!!

オオクニ「えぇっ!?」

スセリビメ「準備してくるからそこで待ってな!!」ドタドタッ!!



オオクニ「マズい!なんかよくわからないけど怒らせてしまった!!」

オオクニ「一刻も早く逃げなきゃ!!」スタコラッ


―――――――
――――
――


<馬小屋>

オオクニ「誰もいない……よな??」キョロキョロ

オオクニ「幸い、ご都合主義的に旅支度もバッチリだし、すぐに出発できるな」

オオクニ「それじゃあ、いざ騎乗――」グッ


―ガシッ


オオクニ「!?」

背後からの声「……こんなとこで何やってんだい、オオクニ?」ゴゴゴゴッ!!

オオクニ「……(蒼白」サァー

スセリビメの声「“待ってろ”って言ったよねぇ……?」ゴゴゴゴッ!!

オオクニ「いや……馬に餌をやり忘れてたのを思い出しまして……」

スセリビメの声「だから、餌をやりに来たと……?」ゴゴゴゴッ!!

オオクニ「そうそう!お腹を空かせてたら可哀想だし……ねぇ?」

スセリビメの声「ほぉ~。それで、どうしてわざわざ鞍に片手を掛けてんだい?」

オオクニ「そ、それは……」

スセリビメの声「餌をやるのに、鐙(あぶみ)に片足踏み入れる必要があるのかい?」

オオクニ「……」

スセリビメの声「あたしには逃げる気満々って感じに見えるんだけど……」

オオクニ(これは……非常にマズい……)アセアセ

スセリビメの声「覚悟はできてるんだろうねぇ……?」

オオクニ「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」


オオクニ「落ち着いて、俺の歌を聞いてくれ!!」



(※以下オオクニヌシの歌 意訳)

『黒い衣で着飾って、海鳥が胸を見るように腕をはためかせてみたが、どうも似合わない』

『この衣は波打ち際に脱ぎ捨ててしまおう』

『今度はカワセミのような青い衣で着飾って、同じように腕をはためかせてみたが、これも似合わない』

『この衣も波打ち際に脱ぎ捨ててしまおう』

『そこで、山の畑に蒔いた茜草の木の汁で染めた衣で着飾って、同じように腕をはためかせてみたら、これはぴったりだ』

『愛しい我が妻よ、鳥が群れを成して飛んでいくように私が旅立てば、君は「泣いたりしない」と強がりながらも、きっと山の麓の一本のススキのように、首を垂れて泣くだろう』

『その涙が朝雨の霧となって立ち込めるのだろうなぁ、若草のように美しい我が妻よ』



オオクニ「国造りのためには、君以外の女性と関係を持つ必要が出てくることもある」

オオクニ「でも、本当に俺が愛しているのは君だけだ!」

オオクニ「また旅立とうとする俺に対して、君は怒るばかりで寂しがる素振りは見せないけれど、本当は寂しいんだってこともわかっているよ?」

オオクニ「君には申し訳ないと思っているけど、もうしばらく我慢してくれないか……?」

スセリビメの声「……」

オオクニ(越で会得した即興歌詠みスキル……通用してくれ!!)ドキドキ



スセリビメの声「オオクニ、ちょっとこっち向いて……」

オオクニ「えっ?」

スセリビメの声「いいから早く」

オオクニ「わ、わかった……」クルッ



スセリビメ「はい、これ」スッ

オオクニ「これは……杯?」

スセリビメ「スゥッ……」



(※以下スセリビメの返歌 意訳)

『八千矛の神の命様、私の大国主様』

『あなたは男ですから、行く先々の島や岬に若草のような妻をお持ちでしょう』

『ですが私は女ですから、あなた以外に男は……夫はいません』

『綾垣の布帛が揺れる下で、柔らかな絹の布団の下で、コウゾの布団がさやさやと鳴る下で、淡雪のような私の胸を、コウゾの綱のような白い腕を、その手でそっと撫でてください』

『玉のような私の手を枕にして、足を伸ばしてゆっくりお休みください』

『さぁ、おいしいお酒をどうぞ』



スセリビメ「……///」

オオクニ「スッチー……///」

スセリビメ「……はい、これ!」スッ

オオクニ「あっ……えぇ~と……」モタモタ

オオクニ(こんな表面張力ギリギリまで注がれた杯差し出されても……)


スセリビメ「重い、早く!」ズイッ

オオクニ「えぇい!わかったよぉ!!」



オオクニ「っ……っ……」グビグビ



オオクニ「ぷはぁ~!!」カラーン

オオクニ「ス……スッチー!君の愛、ちゃんと、飲み干したぞぉぉ~……ヒック」



スセリビメ「……飲んだね?」ニヤリ

オオクニ「はぇ?……ヒック」

スセリビメ「道路交通法第65条第1項!」

オオクニ「……?」

スセリビメ「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない!」

オオクニ「んん???」


スセリビメ「同法第2条第1項第17号!」

スセリビメ「運転とは、道路において、車両又は路面電車(以下「車両等」という。)をその本来の用い方に従つて用いることをいう!」

オオクニ「あ、あのぉ~……」


スセリビメ「同項第8号!」

スセリビメ「車両とは、自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスをいう!」

オオクニ「スッチー?何を言って――」


スセリビメ「同項第11号!」

スセリビメ「軽車両とは、自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつ、レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)であつて、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のものをいう!」

オオクニ「……」



スセリビメ「つまり、どういうことかわかるよね?」

オオクニ「えぇ~っと……」

スセリビメ「お酒飲んじゃったから、もう馬には乗っちゃダ~メ!!」

オオクニ「なにぃっ!?」ガーン!!

スセリビメ「ほら、わかったらとっととうちに戻るよ!」グイッ

オオクニ「は、謀ったなぁぁぁ!!」ズルズル

スセリビメ「へへっ♪」

オオクニ「いくらスッチーでも、こんな姑息な手を使うなんて許さないぞぉ!!」

スセリビメ「だったらどうだってんだい?あたしとやり合おうってのかい?」ゴゴゴゴゴッ!!

オオクニ「おぅ、望むところだ!」

スセリビメ「えっ、本気?手加減しないよ?」



オオクニ「部屋に戻って、スッチーがつぶれるまで飲み比べ対決といこうじゃないか!!」

スセリビメ「そっちでやり合うのかよwww」

オオクニ「今夜は寝かせないぞぉ~!」

スセリビメ「バ~カ、返り討ちにしてやんよ♪」


※この後めちゃくちゃ仲良く寝落ちした


―完―

【キャスト】
オオクニヌシ
スセリビメ


作:若布彦(なお、馬に乗ろうとしている人に酒を飲ませる行為は道交法第65条第3項違反です)

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