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[“八上比売神話”の続き]
――耳寄り情報を聞きつけて越の国を訪れたオオクニヌシのお話


<出雲>

八十神A「おいおい、聞いたか?例の噂!」

八十神B「聞いた聞いた!」

八十神C「アレだろ?越の国で話題の……」

八十神A「かしこい!」

八十神B「かわいい!」

八十神C「ヌナカワヒメ!!」



オオクニ(ん?兄貴たちがなんかデジャヴ感のある会話を……)



八十神A「会ってみたいよなぁ~」

八十神B「俺らでもワンチャンあるかなぁ~?」

八十神C「せっかくだし、越まで口説きに行っちゃう??」



オオクニ「なぁ兄貴たち!」

八十神A「げっ、腹違……じゃなくてオオクニヌシ!」

八十神B「バカっ!“さん”を付けろよデコ助野郎!」

八十神C「口の利き方に気を付けないとスセリビメさんに殺されるぞ!」

オオクニ「呼び方とかはどうでもいいからさ、今の話、ちょっと詳しく聞かせてもらえないか?」

八十神A「今の話……?」

八十神B「ヌナカワヒメのことですか?」

オオクニ「そうそう、それ!一体どんな娘なんだ?」

八十神C「越の国の姫君で、賢く美しいと評判みたいですけど……?」

オオクニ「ふぅ~ん、そっかぁ~……」ジュルリ

八十神A「ま、まさかヌナカワヒメを娶りに行こうなんていう気じゃ……」

オオクニ「やだなぁ~、そんなこと全っ然考えてないって!」

八十神B「で、ですよね~。そんなことしたらスセリビメさんに何をされるか……」

オオクニ「うっ……」ゾクッ

八十神C「まぁ、さすがに夫の命までは取らないでしょうけどね」

オオクニ「そ、そうだよな……?大丈夫、大丈夫……」



オオクニ「それじゃあ、俺はちょっと用事があるからもう行くよ!」

ヤソガミーズ「行ってらっしゃーい」


―――――――
――――
――


<越の国>

オオクニ「さて、結局越の国まで来てしまったわけですが……」

オオクニ「これは決して俺の意思ではないのです!」

オオクニ「俺の中のもう一つの神格“ヤチホコ”がどうしてもと言うから、仕方なく来たまでのこと」

オオクニ「つまり、今日の俺は“オオクニヌシ”じゃなくて“ヤチホコ”!」

ヤチホコ(オオクニ)「ヤチホコとしてなら、よその女に手を出してもセーフ!」

ヤチホコ「これで理論武装は完璧!ということで、早速夜這いにレッツゴー♪」ルンルン


―――――――
――――
――


<ヌナカワヒメの家>

ヤチホコ「ここがヌナカワヒメの家だな」

ヤチホコ「この戸の向こうに、賢い可愛いヌナカワヒメが……グフフ」ニヤァ

ヤチホコ「それでは謹んで、おっじゃまっしま~~~す♪」


―ガタッ


ヤチホコ「あれ?戸が開かない!?」ガタガタッ

ヤチホコ「鍵がかかっている……だと……!?」ガーン!!

ヤチホコ「まさか留守なのか??せっかくここまで来たってのに……」

ヤチホコ「仕方ない、明日また出直そう……」


―――――――
――――
――


<数日後>

ヤチホコ「……」ガタッ

ヤチホコ「……」ガタガタッ

ヤチホコ「今日もまた戸が開かない……。一体いつまで留守にしてるんだ!?」

ヤチホコ「待てよ?もしかしたら、単に建て付けが悪いだけかもしれない!」

ヤチホコ「きっともう少し強く引けば……」ガタガタッ!!



声「毎晩毎晩、ガタガタとうるさいですねぇ……。通報しますよ?」



ヤチホコ(家の中から若い娘の声が!留守じゃなかった!!)



ヤチホコ「夜分遅くに申し訳ない。君がヌナカワヒメかい?」

声「だったら何だと言うのですか?」

ヤチホコ「俺……じゃなくて、私は出雲のヤチホコノカミという者だ」

声「なるほど、出雲のヤチホコさんですね。通報させていただきます」

ヤチホコ「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

声「今にも不法侵入しようとしている不審者に与える時間はありません」

ヤチホコ「君に話があるんだ、頼むから聞いてくれ!!」

声「お話なら弁護士を通してお願いします」

ヤチホコ「いや、そういう示談交渉的な話じゃなくて……」

声「そうですか。示談にする気が無いのでしたら、取り急ぎ警察沙汰にしますね」

ヤチホコ「わわっ!待って待って!!」

声「うるさいですねぇ……」

ヤチホコ「わかった、示談金でも何でも払う!だから通報はしないでくれ!!」

声「ダメです、認められません」

ヤチホコ「えぇっ!?示談交渉なら聞いてくれるんじゃなかったのか!?」

声「気が変わりました」

ヤチホコ「気が変わるの早すぎない!?」

声「女心と秋の空は移ろいやすいものです。常識ですよ?」

ヤチホコ「そうは仰いますがね、お嬢さん……」



声「そうですねぇ……どうしても通報しないでほしいなら、素敵な歌でも詠ってみせてください」

ヤチホコ「歌を詠めばいいんだな?それじゃあこの季節の山の美しさを詠った歌を――」

声「あっ、お題は“今のあなたの心境”でお願いします」

ヤチホコ「なっ……!(先週考えた力作で手堅くいく算段だったのに!!)」

声「はい、どうぞ」

ヤチホコ「ちょちょっ、ちょっと待って!!」

声「即興で歌も詠めないんですか?」

ヤチホコ「いやいや、そんなわけないだろう!」アセアセ

ヤチホコ「ただ、まだ旅の荷物も持ったままだし、せめてもう少し落ち着いてから……」

声「ふ~ん。まぁ別に時間稼ぎしてくださっても構いませんけど、困るのはそちらですよ?」

ヤチホコ「ん?どういうことだ?」

声「早くしないと夜が明けますからね。ほら、鶏も起き始めましたよ」


―ガサガサッ


ヤチホコ「うわっ、ホントだ!!」

声「この調子なら、私が通報しなくてもどなたかが通報してくださりそうですね」クスクス

ヤチホコ(マズい、早く歌を詠まないと……)


―ヒィーーーー

―ケンケェーーーン

―コッコッコッ


ヤチホコ(あぁ~、もう!集中したいのに鳥の鳴き声がうるさい!!)

ヤチホコ(夜に鳴く鵺だけならまだしも、雉と鶏まで鳴くな!まだ朝が来ちゃ困るんだ!!)

声「ふわぁ~……。もう諦めて帰ったらどうですか?私も眠いですし……」

ヤチホコ「いや!ちょうど今思いついたところなんだ!聞いてくれ――」



(※以下ヤチホコの歌 意訳)

『八千矛の神の命は、八洲国(やしまのくに)中で妻を探し求めたが、なかなか相応しい女性が見つからない』

『そんなとき、遠い遠い越の国に賢く美しい乙女がいると聞き、その乙女を妻にしようと旅に出て、求婚するため何度も家に通った』

『太刀の緒も解かず、上着も脱がずに、乙女の眠る部屋の板戸を押し揺さぶってみたり、強く引いてみたりしながら私が立っていると、青い山では鵺が鳴き、野では雉が鳴き、庭では鶏が鳴く』

『忌々しい鳥どもめ、あの鳥どもを打ち叩いて鳴くのをやめさせてくれ』

『この夜が明けないように……』



ヤチホコ「ふぅ……これが今の正直な心境だ。さぁ、戸を開けてくれ!」

声「嫌ですよ」

ヤチホコ「えぇっ!?」ガーン!!

声「“歌を詠ったら戸を開ける”なんて言っていないでしょう?」

ヤチホコ「でもさ、せっかくこんな情熱的な恋の歌を詠ったんだから、こう……何かあるだろぉ?」

声「そうですねぇ……。それなら私からも歌をお返ししましょう」



(※以下ヌナカワヒメの返歌 意訳)

『八千矛の神の命様、私はか細い草のような、弱々しい女の身です』

『それゆえに私の心は浦洲で餌を探す鳥のように落ち着かず揺れ動いています』

『とは言え、今は我儘に振る舞っている鳥も、いずれあなたの鳥になりましょう』

『ですからこの鳥の命は奪わないでください』


『また青い山に日が陰れて夜がやってきたら、そのときはきっとあなたを出迎えましょう』

『あなたは朝日のような明るい笑みを浮かべていらっしゃり、私の白い腕や淡雪のような若い胸をその手で撫で、その手で抱いて、やがて玉のような私の手を枕に、足を伸ばしてゆっくりとお休みになるのです』

『ですから、今はそんなに恋を焦らないでください、八千矛の神の命様』



声「ふぅ……」

ヤチホコ「!?それって、つまり……」

声「話はもうおしまいです。今日はもうお引き取りくだ――」

ヤチホコ「う……」



ヤチホコ「「うぉぉぉっ!!やったぁぁぁぁぁっ!!!!」」

声「騒がないでください!通報しますよ?」

ヤチホコ「えぇっ!?求婚を受けてくれるんじゃ……」

声「女心と秋の空は移ろいやすいものです」

ヤチホコ「そんなぁ……」

声「わかったらもういい加減お引き取りください」


声「私の気が変わる前に」

ヤチホコ「はい!お邪魔しましたぁぁぁっ!!」スタコラー


―――――――
――――
――


<翌日>

ヤチホコ(やっと夜が来た)

ヤチホコ(今日は……今日こそは……)ドキドキ



ヤチホコ「……」コンコン

ヤチホコ「ヌナカワヒメ!私だ、ヤチホコノカミだ!!」

ヤチホコ「約束どおり会いに――」


――ガラッ


ヌナカワヒメ「いらっしゃい♪」ニコッ


―完―

【キャスト】
ヤチホコノカミ(オオクニヌシ)
ヌナカワヒメ
八十神


作:若布彦(糸魚川にあるヌナカワヒメの産所にはまた行かなきゃなぁ)

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