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[“根の堅洲国神話/後編”の続き]
――ついに八十神を屈服させたオオクニヌシ(元:オオナムチ)への来訪者のお話
<出雲>
スセリビメ「立派な新居ができたねぇ~♪」
オオクニヌシ「そうだな。兄貴たちがしっかり働いてくれて助かったよ」
スセリビメ「親父からパクッてきた太刀と弓で脅されたのがよっぽど怖かったんだろうね」
オオクニ「どちらかと言うとスッチーにビビッてたような……」
スセリビメ「スッチー言うな」
―ピンポーン
オオクニ「ん?早速誰か来たみたいだ。引越し直後だし、受信料の取り立てかな?」
スセリビメ「それならあたしが出てくるよ!」テテテ
オオクニ「恫喝しちゃダメだぞ~」
―――――――
――――
――
<玄関>
スセリビメ「はいはーい!」
―ガチャッ!!
???「こんにちは」ニッコリ
スセリビメ「悪いけど、まだテレビは買ってないんだ。買ったら郵送で手続するから申込書だけ――」
???「いえ、わたくし皆様の受信料で公共放送しに来たわけではありませんの」
スセリビメ「違うの?新聞なら間に合ってるよ」
???「新聞の勧誘でもありませんわ。ティッシュも洗剤も持って来ていませんし」
スセリビメ「まぁ、今どきそんなレトロな販売員いないか……。で、何の用?」
???「オオナムチ様はいらっしゃいますか?」
スセリビメ「はぁ?そんな名前のヤツここにはいねぇよ!」プンスカ
???「えっ?お義兄様たちからこちらにいらっしゃると伺ったのですが……」
スセリビメ「チッ、あのクソ兄貴ども……“オオクニヌシ”だって何度言ったら覚えんだよ」
???「“オオクニヌシ”……?そのようにお名前を変えられたのですか?」
???「オオクニヌシ様……なんて貴い響きなのでしょう!」
スセリビメ「そう思うかい?なかなか話がわかるじゃねぇか!あんた、名前は?」
???「わたくしは因幡のヤガミヒメと申します」
スセリビメ「あたしはスセリビメだよ。それで、今日は何の用だい?」
ヤガミヒメ「はい、実はこの赤子に――」
オオクニ「スッチー、手こずってるみたいだけど、どうかした?」
スセリビメ「あぁ、別に何も――」
ヤガミヒメ「オオクニヌシ様!!」キラキラッ
オオクニ「ヤ……ヤガミヒメ!?」
ヤガミヒメ「お会いしとうございました!」
オオクニ「ど、どうして出雲に!?」
ヤガミヒメ「オオクニヌシ様がついに出雲を平定なさったと伺いましたので、そろそろかと」
スセリビメ「ちょっとちょっと、なに悲願の再会みたいな雰囲気出してんのさ!?」
オオクニ「ス、スッチー……これは、その……」
ヤガミヒメ「こちらの準備も整いましたし、いつでも輿入れできますよ」
ヤガミヒメ「“輿入れ”だぁ……?」ゴゴゴゴゴッ
オオクニ「スッチー!落ち着いて話を聞いてくれ!!」
ヤガミヒメ「あの時授かった子も、ほら!このとおり元気に育っていますよ♪」
スセリビメ「“あの時”……?“子”……?」ゴゴゴゴゴゴッ!!
オオクニ「ち、違うんだ!いや、違くないんだけど……」
ヤガミヒメ「オオクニヌシ様?どうかなさいましたか??」
オオクニ「ヤガミヒメ!逃げろ!!」
ヤガミヒメ「えっ?」
スセリビメ「「「オオクニ、てめぇぇぇ!!!」」」ピシャーン!!
オオクニ「ひぃぃっ!!」ビクッ!!
スセリビメ「あたしという正妻がありながら、浮気たぁいい度胸だな!!」
オオクニ「いや、ヤガミヒメと逢ったのはスッチーと出逢う前で――」
スセリビメ「言い訳なんて聞きたくねぇんだよ!どっちが先だろうが浮気は浮気だ!!」
オオクニ「んな殺生な……」
スセリビメ「その根性叩き直してやる!覚悟しやがれ!!」
オオクニ「か、勘弁してくださいぃ~!!」
スセリビメ「聞く耳持たん!!」ゲシッ!!
―ドガッ!!
―ズルズル…
―バキッ!!
―ガシャーン!!
ヤガミヒメ(あっ……わたくし、オオクニヌシ様にご迷惑を……)
オオクニ「ひゅうひへふらはぃ(許してください)」
スセリビメ「うるせぇ、このケダモノ!!」バチーン!!
オオクニ「グェッ!!」
ヤガミヒメ「あの!スセリビメ様!!」
スセリビメ「あぁん!?女狐が口挟むんじゃねぇ!!殺されてぇのか!?」ギロッ
ヤガミヒメ「何か誤解されていませんか!?」
スセリビメ「誤解だぁ!?」
ヤガミヒメ「はい!わたくしとオオクニヌシ様とは、恋仲などではございません!!」
スセリビメ「……は?」
ヤガミヒメ「以前、わたくしは望まぬ相手からしつこく結婚を迫られておりました」
ヤガミヒメ「そこにオオクニヌシ様が颯爽と現れ、その者たちを退けてくださったのです!」
ヤガミヒメ「つまりオオクニヌシ様はわたくしの恩神(人)で、それ以上でも以下でもありません!」
スセリビメ「そ、そうなのか……?」
オオクニ「いや……その……」
ヤガミヒメ「それで、ようやく他の方との結婚が決まったので、今日はそのご報告に参ったのです」
スセリビメ「つまり、オオクニに嫁ぎに来たわけじゃなくて……」
ヤガミヒメ「滅相もありません!オオクニヌシ様にはもう心に決めたお相手がいらっしゃるようですし」チラッ
オオクニ(ヤガミヒメ……)
ヤガミヒメ「できればオオクニヌシ様からこの赤子に名を付けていただきたかったのですが……」
ヤガミヒメ「なんだかご迷惑をおかけしてしまったようですね、申し訳ございません」
スセリビメ「いや、こちらこそ……なんかごめん……」シュン…
ヤガミヒメ「では、わたくしはこれで失礼いたします」ペコリ
スセリビメ「えっ!?名前はいいのか……?」
ヤガミヒメ「えぇ、もう結構です」ニコッ
ヤガミヒメ「それでは、さようなら……」クルッ
オオクニ「「ミ……ミイノカミっ!!」」
ヤガミヒメ「!?」
オオクニ「”御井神(ミイノカミ)”……なんて、どうかな?」ゼェゼェ…
ヤガミヒメ(後ろ姿)「ミイノカミ……ですか。一応候補に入れておきます。それでは……」ダッ!!
スセリビメ「あぁっ、ちょっとあんた!!」
オオクニ(ヤガミヒメ……ごめん……)
―――――――
――――
――
<山中>
ヤガミヒメ「はぁ……はぁ……」
ヤガミヒメ「結局逃げ帰ってきてしまいました……お父様に合わせる顔もありません……」
ヤガミヒメ「ですが、オオクニヌシ様のためにはこうするしか……」
ヤガミヒメ「うっ……ぅぅ……」グスッ…
赤子「オギャー、オギャー!!」
ヤガミヒメ「……」
赤子「オギャー、オギャー!!」
ヤガミヒメ「……」
ヤガミヒメ「ごめんなさい、私の可愛い子。あなたはもう因幡には連れて帰れないの……」
ヤガミヒメ「父親のいない子として連れ帰っても、今の因幡ではきっとつらい思いをする……」
ヤガミヒメ「それならば、いっそ……」スッ
ヤガミヒメ「あなたの名前は、今から“木俣(コノマタ)”……」
ヤガミヒメ「木の俣に差し挟んで捨てられた、可哀想な子……」
ヤガミヒメ「こんなところにあなたを置いていく罪深い母を恨むなとは言いません……」
ヤガミヒメ「だけど、お父さんのことはどうか許してあげて……」
ヤガミヒメ「彼はこの世で唯一、わたくしが心から愛した殿方だから……」
ヤガミヒメ「なんて……わがままが過ぎますよね……」
コノマタ「オギャー、オギャー!!」
ヤガミヒメ「さようなら!!」ダッ
・
・
・
・
・
コノマタ「オギャー、オギャー!!」
コノマタ「オギャー、オギャー!!」
コノマタ「オギャー……オギャー……」
コノマタ「オギャー…………オギャー…………」
ヤガミヒメ「はぁっ……!はぁっ……!」ゼェゼェ
ヤガミヒメ「良かった!まだ生きていてくれて……」ギュッ
ヤガミヒメ「ごめんなさい!オオクニヌシ様から逃げて、あなたからも逃げようとするなんて……」
ヤガミヒメ「父親がいないからって何よ!わたくしがしっかりすれば良いのでしょう?」
ヤガミヒメ「大丈夫、あなたはわたくしが立派に育て上げて見せます!!」
ヤガミヒメ「片親だからって不幸になるわけじゃないってこと、一緒に証明してみせましょう」
ヤガミヒメ「ねっ、“ミイ”?」ニコッ
ミイ「オギャー、オギャー!!」
―完―
【キャスト】
・オオクニヌシ
・スセリビメ
・ヤガミヒメ
・コノマタ(ミイ)
作:若布彦(児童遺棄はダメ。ゼッタイ。)
・・・次のお話はこちら⇒“沼河比売神話”
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[“根の堅洲国神話/後編”の続き]
――ついに八十神を屈服させたオオクニヌシ(元:オオナムチ)への来訪者のお話
<出雲>
スセリビメ「立派な新居ができたねぇ~♪」
オオクニヌシ「そうだな。兄貴たちがしっかり働いてくれて助かったよ」
スセリビメ「親父からパクッてきた太刀と弓で脅されたのがよっぽど怖かったんだろうね」
オオクニ「どちらかと言うとスッチーにビビッてたような……」
スセリビメ「スッチー言うな」
―ピンポーン
オオクニ「ん?早速誰か来たみたいだ。引越し直後だし、受信料の取り立てかな?」
スセリビメ「それならあたしが出てくるよ!」テテテ
オオクニ「恫喝しちゃダメだぞ~」
―――――――
――――
――
<玄関>
スセリビメ「はいはーい!」
―ガチャッ!!
???「こんにちは」ニッコリ
スセリビメ「悪いけど、まだテレビは買ってないんだ。買ったら郵送で手続するから申込書だけ――」
???「いえ、わたくし皆様の受信料で公共放送しに来たわけではありませんの」
スセリビメ「違うの?新聞なら間に合ってるよ」
???「新聞の勧誘でもありませんわ。ティッシュも洗剤も持って来ていませんし」
スセリビメ「まぁ、今どきそんなレトロな販売員いないか……。で、何の用?」
???「オオナムチ様はいらっしゃいますか?」
スセリビメ「はぁ?そんな名前のヤツここにはいねぇよ!」プンスカ
???「えっ?お義兄様たちからこちらにいらっしゃると伺ったのですが……」
スセリビメ「チッ、あのクソ兄貴ども……“オオクニヌシ”だって何度言ったら覚えんだよ」
???「“オオクニヌシ”……?そのようにお名前を変えられたのですか?」
???「オオクニヌシ様……なんて貴い響きなのでしょう!」
スセリビメ「そう思うかい?なかなか話がわかるじゃねぇか!あんた、名前は?」
???「わたくしは因幡のヤガミヒメと申します」
スセリビメ「あたしはスセリビメだよ。それで、今日は何の用だい?」
ヤガミヒメ「はい、実はこの赤子に――」
オオクニ「スッチー、手こずってるみたいだけど、どうかした?」
スセリビメ「あぁ、別に何も――」
ヤガミヒメ「オオクニヌシ様!!」キラキラッ
オオクニ「ヤ……ヤガミヒメ!?」
ヤガミヒメ「お会いしとうございました!」
オオクニ「ど、どうして出雲に!?」
ヤガミヒメ「オオクニヌシ様がついに出雲を平定なさったと伺いましたので、そろそろかと」
スセリビメ「ちょっとちょっと、なに悲願の再会みたいな雰囲気出してんのさ!?」
オオクニ「ス、スッチー……これは、その……」
ヤガミヒメ「こちらの準備も整いましたし、いつでも輿入れできますよ」
ヤガミヒメ「“輿入れ”だぁ……?」ゴゴゴゴゴッ
オオクニ「スッチー!落ち着いて話を聞いてくれ!!」
ヤガミヒメ「あの時授かった子も、ほら!このとおり元気に育っていますよ♪」
スセリビメ「“あの時”……?“子”……?」ゴゴゴゴゴゴッ!!
オオクニ「ち、違うんだ!いや、違くないんだけど……」
ヤガミヒメ「オオクニヌシ様?どうかなさいましたか??」
オオクニ「ヤガミヒメ!逃げろ!!」
ヤガミヒメ「えっ?」
スセリビメ「「「オオクニ、てめぇぇぇ!!!」」」ピシャーン!!
オオクニ「ひぃぃっ!!」ビクッ!!
スセリビメ「あたしという正妻がありながら、浮気たぁいい度胸だな!!」
オオクニ「いや、ヤガミヒメと逢ったのはスッチーと出逢う前で――」
スセリビメ「言い訳なんて聞きたくねぇんだよ!どっちが先だろうが浮気は浮気だ!!」
オオクニ「んな殺生な……」
スセリビメ「その根性叩き直してやる!覚悟しやがれ!!」
オオクニ「か、勘弁してくださいぃ~!!」
スセリビメ「聞く耳持たん!!」ゲシッ!!
―ドガッ!!
―ズルズル…
―バキッ!!
―ガシャーン!!
ヤガミヒメ(あっ……わたくし、オオクニヌシ様にご迷惑を……)
オオクニ「ひゅうひへふらはぃ(許してください)」
スセリビメ「うるせぇ、このケダモノ!!」バチーン!!
オオクニ「グェッ!!」
ヤガミヒメ「あの!スセリビメ様!!」
スセリビメ「あぁん!?女狐が口挟むんじゃねぇ!!殺されてぇのか!?」ギロッ
ヤガミヒメ「何か誤解されていませんか!?」
スセリビメ「誤解だぁ!?」
ヤガミヒメ「はい!わたくしとオオクニヌシ様とは、恋仲などではございません!!」
スセリビメ「……は?」
ヤガミヒメ「以前、わたくしは望まぬ相手からしつこく結婚を迫られておりました」
ヤガミヒメ「そこにオオクニヌシ様が颯爽と現れ、その者たちを退けてくださったのです!」
ヤガミヒメ「つまりオオクニヌシ様はわたくしの恩神(人)で、それ以上でも以下でもありません!」
スセリビメ「そ、そうなのか……?」
オオクニ「いや……その……」
ヤガミヒメ「それで、ようやく他の方との結婚が決まったので、今日はそのご報告に参ったのです」
スセリビメ「つまり、オオクニに嫁ぎに来たわけじゃなくて……」
ヤガミヒメ「滅相もありません!オオクニヌシ様にはもう心に決めたお相手がいらっしゃるようですし」チラッ
オオクニ(ヤガミヒメ……)
ヤガミヒメ「できればオオクニヌシ様からこの赤子に名を付けていただきたかったのですが……」
ヤガミヒメ「なんだかご迷惑をおかけしてしまったようですね、申し訳ございません」
スセリビメ「いや、こちらこそ……なんかごめん……」シュン…
ヤガミヒメ「では、わたくしはこれで失礼いたします」ペコリ
スセリビメ「えっ!?名前はいいのか……?」
ヤガミヒメ「えぇ、もう結構です」ニコッ
ヤガミヒメ「それでは、さようなら……」クルッ
オオクニ「「ミ……ミイノカミっ!!」」
ヤガミヒメ「!?」
オオクニ「”御井神(ミイノカミ)”……なんて、どうかな?」ゼェゼェ…
ヤガミヒメ(後ろ姿)「ミイノカミ……ですか。一応候補に入れておきます。それでは……」ダッ!!
スセリビメ「あぁっ、ちょっとあんた!!」
オオクニ(ヤガミヒメ……ごめん……)
―――――――
――――
――
<山中>
ヤガミヒメ「はぁ……はぁ……」
ヤガミヒメ「結局逃げ帰ってきてしまいました……お父様に合わせる顔もありません……」
ヤガミヒメ「ですが、オオクニヌシ様のためにはこうするしか……」
ヤガミヒメ「うっ……ぅぅ……」グスッ…
赤子「オギャー、オギャー!!」
ヤガミヒメ「……」
赤子「オギャー、オギャー!!」
ヤガミヒメ「……」
ヤガミヒメ「ごめんなさい、私の可愛い子。あなたはもう因幡には連れて帰れないの……」
ヤガミヒメ「父親のいない子として連れ帰っても、今の因幡ではきっとつらい思いをする……」
ヤガミヒメ「それならば、いっそ……」スッ
ヤガミヒメ「あなたの名前は、今から“木俣(コノマタ)”……」
ヤガミヒメ「木の俣に差し挟んで捨てられた、可哀想な子……」
ヤガミヒメ「こんなところにあなたを置いていく罪深い母を恨むなとは言いません……」
ヤガミヒメ「だけど、お父さんのことはどうか許してあげて……」
ヤガミヒメ「彼はこの世で唯一、わたくしが心から愛した殿方だから……」
ヤガミヒメ「なんて……わがままが過ぎますよね……」
コノマタ「オギャー、オギャー!!」
ヤガミヒメ「さようなら!!」ダッ
・
・
・
・
・
コノマタ「オギャー、オギャー!!」
コノマタ「オギャー、オギャー!!」
コノマタ「オギャー……オギャー……」
コノマタ「オギャー…………オギャー…………」
ヤガミヒメ「はぁっ……!はぁっ……!」ゼェゼェ
ヤガミヒメ「良かった!まだ生きていてくれて……」ギュッ
ヤガミヒメ「ごめんなさい!オオクニヌシ様から逃げて、あなたからも逃げようとするなんて……」
ヤガミヒメ「父親がいないからって何よ!わたくしがしっかりすれば良いのでしょう?」
ヤガミヒメ「大丈夫、あなたはわたくしが立派に育て上げて見せます!!」
ヤガミヒメ「片親だからって不幸になるわけじゃないってこと、一緒に証明してみせましょう」
ヤガミヒメ「ねっ、“ミイ”?」ニコッ
ミイ「オギャー、オギャー!!」
―完―
【キャスト】
・オオクニヌシ
・スセリビメ
・ヤガミヒメ
・コノマタ(ミイ)
作:若布彦(児童遺棄はダメ。ゼッタイ。)
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