当ブログのアクセス統計を観ていたところ、以下の記事へのアクセス数が突出していることがわかりました。



Googleで検索してみたところ、「オオゲツヒメ」で検索した場合の表示では上位100件を見ても見つかりませんが、関連キーワード(サジェスト)の中にある「オオゲツヒメ かわいそう」という候補で検索すると、その結果では6位(2019.10.26現在)に表示されています。

若布彦さんが小躍りしている間に、どうやらネットユーザーにオオゲツヒメ(食物起源神話/穀物起源神話)の情報が必要とされていると考え、参考情報を投稿することとしました。

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さて、オオゲツヒメ神話については、冒頭で紹介の記事「【神話SS】オオゲツヒメ「おぇぇぇ!!!」ゲロゲロー(神逐神話)」をご覧いただくとして、そのあらすじは以下の通り。
・女神が排泄物または吐瀉物を食事として提供する
・それを食べる者が、その排泄シーンを目撃し、怒って女神を殺害する
・女神の死体から穀物が生じ、農耕の起源となる

この神話、実は遠くアメリア大陸や南洋の島々にも似た話が残っており、ドイツ人民俗学者イェンゼン氏によって、このジャンルは「ハイヌウェレ型神話」と命名されている。
*Wikipediaに記事があります。

命名の理由となったインドネシア・ウェマーレ族に伝わる「ハイヌウェレ神話」では、
・女神が排泄によって宝物を提供する
・それを与えらえた者が、その排泄シーンを目撃し、不気味がって女神を殺害する
・女神の死体から芋が生じ、農耕の起源となる
となり、オオゲツヒメ神話に非常に似ていることがわかる。

ハイヌウェレ型神話の生まれた文化圏においては、女性の出産能力を神聖視し、その生命力と農作物を結び付け、農耕の起源を理解したものと考えられる。

ニューギニアの原住民、マリンド・アニム族の「マヨ祭儀」には、ハイヌウェレ型神話の後半部分をなぞって実際に少女を殺害し、その遺体の半分を食べ、残りの半分を地中に埋めるという行事が残っていたという。
(詳細は、後述の参考文献などで確認いただきたい。)

現代文明に生きる我々には受け入れがたい野蛮な風習と思われるのは当然であるが、彼らは、母なる女性を神聖視し、生命や穀物の根源と結び付け、重要な行事として執り行っている。
当然、神聖視された側からすればたまったものではないが…

この神話に関する考察は、
・日本への神話伝搬の経路(南方神話の影響の仕方)
・日本への神話伝搬の時期(稲作の開始時期と他の神話の関係性)
などの民俗学や比較神話学などの学術的研究のテーマとされることもあり、
様々な人の興味を引き付けているようである。

このほか、南方系神話との関連については、
・「海幸山幸」神話
・来訪神(ユネスコ無形文化遺産になったもの)
なども挙げられ、合わせて調べてみるのも面白い。



もう一点ご紹介したいのは、種族文化複合のお話。
日本列島には北方・西方・南方から、様々な種族・文化が絶えず流入してきた過去があり、東洋の端っこから流出することもできずに積み重なり・混ざりあって現在の日本文化が形成されている。
この種族文化複合を、民俗学者・岡正雄氏は以下の5つに分類・検証することを試みている。

(1)母系的・秘密結社的・芋栽培=狩猟民文化
(2)母系的・陸稲栽培=狩猟民文化
(3)父系的・「ハラ」氏族的・畑作=狩猟民文化
(4)男性的・年齢階梯制的・水稲栽培=漁撈民文化
(5)父権的・「ウジ」氏族的・支配者文化

ハイヌウェレ型神話は、南方系の芋を主食とする種族の文化であり、前述の通り、女性の出産能力を中心に社会秩序(神話)が成り立っていることから、上記で言う(1)の層の文化に当てはまる。
日本におけるナマハゲなどに代表される来訪神(=謎の仮装集団による厄除招運行事=男性秘密結社)は、マヨ祭儀を執行する男性秘密結社(男性仮装集団)共通することや、日本においても祭祀行事に芋料理を供えることなどがその名残であるとして、南方文化との関連が指摘される。
(集落の男性が集会所に集合して祭りの準備を行うのは、現代に古代文化が色濃く出ていると言えるかもしれない。)

(2)~(5)についてはストック不足ゆえ、紹介は控えることとして、人々の生活にどのような文化が染み込んでいるか、ということは、実際の暮らしの中では、まぁ感覚的にわかっていれば、困ることはないが、日本の「単一民族」「単一文化」は既に一言で説明がつかないほどには複雑に混ざり合った結果であることがわかる。
これが日本民族が異文化の流入に対して(歴史的には)寛容であるとも、巧みに取り入れているとも言われる理由の一つになるかも知れない。

異文化同士の共存に留まらず、吸収してすっかり同一文化上のものとして使ってしまうこと(自分の文化として取り込んだあとは自分の必要な場面で自然に使えること、自分の文化なので必要に応じた変形も自在にやってしまうこと、おそらく取り込んだ後に合わずに捨てられた文化もあるだろうが)は、これまでの日本の発展方法にも通ずるように思える。
個人的に他所の文化でも、場面ごとに取捨選択して自分の暮らしに使うことが出来ると、今でも色々と得だと思う。

正確な「日本文化」の把握は、本記事で取り上げたルーツ的な問題、仏教等の影響、地域的な特性や疫病・農耕の状況等も含め、その要素の一つ一つを分解する必要がある。
日本の「民俗学」は結構面白そうなので、学んでみるのもおすすめだ。

興味をお持ちの方へのせめてもの情報提供として、参考文献を挙げておきます。

▼比較神話学における日本神話研究の内容を紹介。
 ハイヌウェレ型神話を含め日本神話の流入元についてもっと知りたくなる。
日本神話の源流 (講談社学術文庫) [ 吉田 敦彦 ]
日本神話の源流 (講談社学術文庫) [ 吉田 敦彦 ]

▼「日本神話の源流」の参考元、種族文化複合に関するものを含む岡氏の研究の論文集。
 古い本ではあるが、民俗学の面白さと、岡氏の熱心さが読み取れる。
異人その他―他十二篇 (岩波文庫)
岡 正雄
岩波書店
1994-11-16



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