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[“根の堅洲国神話/中編”の続き]
――スサノオに火攻めを受けてもなんやかんや生還したオオナムチのお話


<スセリビメの家>

スセリビメ「さて、オオナムチも試験に合格したことだし……」

スセリビメ「これでもうあたしたちの結婚に文句は無いよな?親父♪」

スサノオ「ぐぬぬ……」

オオナムチ(ようやく命を狙われ続ける生活ともおさらばかぁ~)ホッ



スサノオ「……そうだな、シコオが俺のシラミ取りをしっかりできたら考えてやってもいいぞ」

オオナムチ「えっ、また試験みたいなことやるんすか?」

スセリビメ「往生際が悪いぞ、親父!」

スサノオ「うるせぇ!義理の父親への思いやりも見せられねぇヤツに娘をやれるか!!」

オオナムチ「まぁ、親の立場からすると老後の介護問題も心配なのはわかりますけど……」

スサノオ「ごちゃごちゃ言ってねぇで、いいからやれ!!」キッ

オオナムチ「は、はいぃっ!!」ビクッ!!

 ・
 ・
 ・

スサノオ「準備できたぞ。一応確認しとくが、やり方はわかるよな?」

オオナムチ「えぇ~と、髪に付いてるシラミを取って、噛み潰せばいいんですよね?」

スサノオ「そうだ。潰したシラミはこの桶に吐き捨てりゃいいからな」

オオナムチ「わかりました。それじゃあ始めますから、動かないでくださいね~」

スサノオ「おぅ、頼むぜ」ニヤリ

スセリビメ(ん?親父、なんかまた悪い顔を……)


―ゴソゴソ


オオナムチ(うわぁ~、でっかいシラミがうじゃうじゃと……)

オオナムチ(って言うか、これってもしかして“シラミ”じゃなく……)

オオナムチ(ムカデ!?)

スセリビメ「!!」

オオナムチ「……」ゾゾッ

スサノオ「どうした、シコオ?手が止まってるぞ?」ニヤニヤ

オオナムチ「す、すみません!慣れてないもんで……」



オオナムチ(たぶん普通に『ムカデ付いてますよ!』ってツッコんじゃダメなんだろうな……)

オオナムチ(かと言って、こんなの噛み潰そうとしたら逆にこっちが噛まれそうだし……)

スセリビメ「……」ソデクイー

オオナムチ「?」

スセリビメ「オオナムチ、これを使いな(小声」スッ

オオナムチ(これは……)



スサノオ「おい、シコオ!さっさとしねぇか!まさか、できねぇってんじゃ――」

オオナムチ「いえ、やります!是非やらせてください!!」

スサノオ「お、おう……そうか。別に無理はしなくていいんだぞ?」

オオナムチ「大丈夫です!!」



オオナムチ(まずゴム手袋でムカデを取って……)

スサノオ(おっ、ムカデを掴む度胸はあるみたいだな。とは言え、さすがにそれ以上は……)

オオナムチ(取ったムカデはバレないように静かに踏み潰す!)クシャッ

オオナムチ(そして代わりにスッチーから貰ったこの椋の実と赤土を噛んで……)クチャクチャ

スサノオ(うおっ!?マジでムカデ噛み潰してんのか、こいつ!?)

オオナムチ「ペッ」


―ベチャッ!!


スサノオ(この赤黒い色……どうやらムカデの残骸で間違いねぇな……)

オオナムチ「まだ何匹か残ってるみたいなので、もう少し続けますね」

スサノオ「お、おぅ……よろしく頼む」

オオナムチ(良かったぁ~!!バレてないっぽい!!)



スサノオ(シコオの野郎……なかなか肝っ玉据わってるじゃねぇか……)

スサノオ(こんなことまでやってのけるなんて、可愛いヤツだ……)

スサノオ(こんなヤツが息子になるなら……)

スサノオ(それも…悪く……ねぇ………かも…………)


―――――――
――――
――


<しばらく後>

オオナムチ「よし!お義父さん、終わりましたよ!!」

スサノオ「……」

オオナムチ「ん?お義父さん??」

スセリビメ「シッ!!オオナムチ、静かに!」

オオナムチ「???」


スサノオ「……」Zzz

スセリビメ「親父のヤツ、眠りこけてやがる!チャンスだ、オオナムチ!」

オオナムチ「チャンスって……まさか寝首を!?」

スセリビメ「バカ!いくらあたしでもそこまでしねぇよ!」

オオナムチ「じゃあ一体何の……?」

スセリビメ「だ~か~ら~!駆け落ちするチャンスだって言ってんの///」カァッ

オオナムチ「か、駆け落ち!?」

スセリビメ「いつまでもここにいて、親父から嫌がらせ受け続けるのなんて嫌だろ?」

オオナムチ「確かに……このままここにいたら死ぬかも……」

スセリビメ「だったら二人で逃げよう!!」

オオナムチ「でも、お義父さんに断らなくて本当に大丈夫かなぁ……?」グズグズ



スセリビメ「はぁ……」ヤレヤレ



スセリビメ「……あたしと二人っきりじゃ、嫌?」ウルウル

オオナムチ「!?」ズキューン!!

オオナムチ「そんなことないさ!スッチーとの愛の逃避行なら大歓迎だよ」キリッ!!

スセリビメ「だからスッチー言うな」

オオナムチ「そうと決まったら、早速脱出の準備だ!」

スセリビメ「準備なんてしてる暇ないってば!一刻も早く逃げよう!」

オオナムチ「でも、逃げ切る前にお義父さんが起きちゃったら困るじゃん?」

スセリビメ「う~ん……親父めちゃくちゃ足速いからなぁ……」

オオナムチ「でしょ?だったら、起きても追って来られないようにすればいいんだよ!」

スセリビメ「なるほど、つまり……」



スセリビメ「どういうこと??」

オオナムチ「だからさ、こうしてお義父さんの髪を部屋の垂木に結び付けて……」キュッキュッ

スセリビメ「うわぁ……これは無理に動いたら髪が抜けて禿げるかもな……」

オオナムチ「扉は一般人なら五百人がかりでようやく動かせるくらいの大岩で塞いで……」ドスッ

スセリビメ「あんたって意外と力持ちなんだね」

オオナムチ「これだけやればある程度の時間稼ぎにはなるだろ!」

スセリビメ「そうだね!じゃあそろそろ行こうか!」

オオナムチ「あっ!ちょっと待って、荷物持たなきゃ……」ズッシリ

スセリビメ「あらあら、荷物が多くて大変そうだねぇ。半分持ってやろうか?」

スセリビメ「……って、なんでそんなにたくさん荷物持ってんだよ!逃げるんだから身軽にしとけよ!」

オオナムチ「いやぁ~、やっぱり不安だし、護身用に太刀くらい拝借して行こうかと……」

スセリビメ「なるほど、それはわかった。……で、その弓と天詔琴(あめののりごと)は?」

オオナムチ「これはそのぉ~……せっかくだし?」

スセリビメ「アホかwww戻してきなさい!」

オオナムチ「いや、でももう扉塞いじゃったし、ちょっとくらいいいじゃん」

スセリビメ「う~ん……まぁ、嫁入り道具代わりってことにすりゃいいか」

オオナムチ「へへっ、ありがとう♪」



オオナムチ「それじゃあスッチー、背中におぶさって!」

スセリビメ「えっ!?別に自分で走れるからいいよ///」

オオナムチ「いいから、いいから!俺がおぶった方が速いし、愛の逃避行っぽさも出るじゃん?」

スセリビメ「えっと……それじゃあ///」ヒョイッ

オオナムチ「首絞めない程度にしっかり掴まっててね!」

スセリビメ「……うん///」ギュッ

オオナムチ「いっくぞぉ~!!」



「「「ビィィィィィィン!!!!」」」



オオナムチ&スッチー「!!??」

スセリビメ「ちょっ、何の音!?」

オオナムチ「やべ、琴の弦が木の枝に引っ掛かったっぽい……」

スセリビメ「はぁっ!?何やってんの!?こんな大きい音出したら親父が――」



スサノオ「「なんじゃこりゃー!!!!」」ドンガラガッシャーン



スセリビメ「起きちゃったじゃん!!」

オオナムチ「だ、大丈夫!すぐには追って来られないはずだから、ダッシュで逃げよう!!」ダッ!!

―――――――
――――
――


<黄泉比良坂>

スサノオ「くっそ、部屋の屋根引っ張り倒して垂木から髪をほどいてたら遅くなっちまった!!」

スサノオ「シコオとスッチーは……もう坂を登り切るところか」

スサノオ「これ以上追いかけてもさすがに追いつかねぇな……」ヤレヤレ

スサノオ「いい加減結婚を認めてやろうと思ってたんだが、しょうがねぇ……」



スサノオ「「おい、シコオぉぉぉ!聞こえるかぁぁぁ!?」」



スサノオ「「てめぇが持ち逃げしたもんはくれてやる!!」」



スサノオ「「その太刀と弓でてめぇの腹違いの兄貴どもを坂の峰なり川の瀬なりに追い詰めて、ぎゃふんと言わしてやれぇぇぇ!!」」



スサノオ「「それからてめぇは“オオクニヌシ”か、“ウツシクニタマ”とでも名乗るといいぜ!!」」



スサノオ「「スッチーとの結婚は認めてやる!ただし、あくまで“正妻”としてだからな!!」」



スサノオ「「新居を建てるなら宇迦山の麓がオススメだぞぉぉぉ!!」」



スサノオ「「地中深い岩にぶっとい柱をおっ立てて、とにかくでっかい宮を建てろよぉぉぉ!!」」



スサノオ「「千木が高天原に届くくらい、でっかい宮にするんだぞぉぉぉ!!」」



スサノオ「「わかったか、この野郎ぉぉぉ!!!!」」






オオナムチ(お義父さん……ありがとう……)


―――――――
――――
――


<後日>

スセリビメ「おぅ、あんたたち覚悟はできてんだろうねぇ……?」ゴゴゴゴゴッ!!

八十神A「ひ、ひぇぇ~!!」

八十神B「降参!もう降参だ!!」

八十神C「命だけは勘弁してくれぇぇぇ~!!」

スセリビメ「ふぅ~ん、勘弁するのは“命だけ”でいいんだね?」ニヤリ

ヤソガミーズ「ひぃっ!!」ビクッ!!



オオクニヌシ「なぁスッチー、もうそんなもんでいいんじゃないか?」

八十神A「オオナムチ、助けてくれ!!」

八十神B「俺たちが悪かった!!」

八十神C「これからはお前の言うことを何でも聞くから!!」

ヤソガミーズ「頼む、オオナムチ!!」

スセリビメ「オ・オ・ナ・ム・チぃぃぃ!!??」ギロッ

ヤソガミーズ「失礼しました、“オオクニヌシノカミ”様!!」ドゲザー

ヤソガミーズ「……と、その唯一無二の正妻でいらっしゃるスセリビメ様!!」ドゲドゲザー

スセリビメ「声が小さい!!誠意が足りない!!」プンスカ!!

オオクニヌシ「だから、もういいって。坂の峰やら川の瀬やらまで追い回して俺も疲れたし」

スセリビメ「あんたはホントに甘いねぇ。その太刀と弓でとことんいたぶってやればいいのに」

ヤソガミーズ「ひぃぃっ!!!」ビクッ!!

オオクニヌシ「いや、別に俺ドSとかじゃないし……」

オオクニヌシ「それに、兄貴たちには頼みたいこともあるから、怪我されちゃ困るんだ」

スセリビメ「頼みたいこと?」

ヤソガミーズ「何なりとお申し付けください!!」

オオクニヌシ「それじゃあさ、俺たちのために宮を建ててよ!」



オオクニヌシ「高天原まで届くくらい最っ高にでっかいヤツ、よろしくね!!」



八十神A「……」
八十神B「……」
八十神C「……」



ヤソガミーズ「ファーwww」


―完―

【キャスト】
オオナムチ(アシハラシコオ、オオクニヌシ、ウツシクニタマ)
スセリビメ
スサノオ
八十神


作:若布彦(捨て台詞が長いことに定評のあるスサノオさん……)

・・・次のお話はこちら⇒“八上比売神話

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