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[“大蛇神話/後編”の続き]
――都牟刈の太刀(草薙剣(天叢雲剣))をアマテラスに奉納してきたスサノオのお話


<出雲:鳥髪>

スサノオ「戻ったぞぉ~」

クシナダ「あっ、スサノオさん。お帰りなさい」


クシナダ「怪しげな太刀なんて持って行って、お姉さま怒りませんでしたか?」

スサノオ「いや、思いのほか歓迎されたぞ」

クシナダ「お姉さまもずいぶん変わり者なのですね」


スサノオ「で、大蛇の死骸の処理は進んでるのか?あの大きさじゃあ首一本焼くにも数日――」

クシナダ「それでしたら、スサノオさんの留守中にお父さまとお母さまが」

アシ&テナヅチ「“全て”処理させていただきました」

スサノオ「この短期間で!?お前ら怖いくらい手際いいな……」

アシナヅチ「そんな作業に尺をとっても仕方ありませんからな」

テナヅチ「どうでもいいところは手短に、ですよ」


スサノオ「……まぁいい。片付けが終わってるなら、早速――」

アシ&テナヅチ(!?)

アシナヅチ「おや、“早速”でございますか!これは気が利かず、申し訳ございません!!」

テナヅチ「私どもは外させていただきますので、どうぞ“早速”ごゆっくり!!」

クシナダ「“早速”……??何をなさるのです?」

アシナヅチ「それはスサノオ様に教えていただきなさい。手取り足取り」

テナヅチ「スサノオ様、クシナダはまだ童女……どうか優しくしてやってくださいまし」

スサノオ「こらこら!真昼間から不穏なことを言うな!!」

アシナヅチ「なるほど、ムードを気にしていらっしゃいましたか!」

テナヅチ「でしたら今は夜という設定にして、私どもは別室で熟睡させていただきますので!」

スサノオ「んなことせんでいい!!ちゃんと最後まで話を聞けよ!」

アシ&テナヅチ「???」
クシナダ「???」



スサノオ「……ゴホン。それじゃあ早速、また出掛けるぞ」

クシナダ「またお出掛けですか?卵の特売日なら明後日ですが……」

スサノオ「買い物じゃねぇよ!」

クシナダ「では、一体何を??」

スサノオ「宮を建てるところを探しに行くんだよ」

クシナダ「お宮……ですか?」

アシナヅチ「なるほど、新しい“愛の巣”を建てようということですな」ニヤニヤ

テナヅチ「確かに、防音設備のしっかりした家が必要になりますものね」ニヤニヤ

スサノオ「そこ!ゲスい目で見るな!!」



クシナダ「家を建てられる開けた場所なら、わざわざ探さなくても川下の方にありますよ?」

スサノオ「いやいや、せっかくならもっと良い気の集まるところの方がいいだろ?」

クシナダ「まぁ、それはそうかもしれませんが……」

テナヅチ「この辺りは済むにもあまり便利とは言えませんしね。イオンもありませんし」

スサノオ「だろぉ?」

アシナヅチ(あれ?我が家の立地、ディスられてる……?)

クシナダ「わかりました。では、どうぞお気を付けて」

スサノオ「待て待て!お前も一緒に来るんだよ、クシナダ!」

クシナダ「私もですか?なぜ?」

スサノオ「それは――」

テナヅチ「SSの都合上、会話相手がいないと物語が進行しないからですね」

スサノオ「こら、変なことを言うな!!」

クシナダ「そういうことでしたら構いませんが、もし遠出されるなら私では足手まといでは?」

スサノオ「それなら問題ねぇよ。お前に苦労をかけるようなことはしねぇから」

クシナダ「……と、仰いますと?」

スサノオ「……スゥー」



スサノオ「夜・露・死・苦!」パチン


―ポンッ!!


アシナヅチ「おぉっ!また謎のダサい呪文!!」
テナヅチ「そしてまたクシナダが湯津爪櫛(ゆつつまぐし)の姿に!!」

スサノオ「あぁ?今ダサいっつったか??」

アシナヅチ「いいえ、滅相も無い」

スサノオ「……まぁいい」



櫛nada「まさかまたこの姿になるとは……」

スサノオ「手足が無くて不便だとは思うが、これなら俺と一緒にどこへでも行けるだろ?」

アシナヅチ「確かに、これならスサノオ様がロリコンなのがバレません!」

テナヅチ「誘拐犯と間違われる心配もありませんね!」

スサノオ「お前ら喧嘩売ってんのか!?」

アシ&テナヅチ「いいえ、滅相も無い!」

スサノオ「……まぁいい」



スサノオ「とにかく、そうと決まったら早速出発だ!」


―――――――
――――
――


<出雲:須賀>

スサノオ「ふぅ……こんなもんだろう」

クシナダ「お疲れさまでした。ずいぶん立派なお宮になりましたね」

スサノオ「だろ?なんせお前の両親を呼ぶことも見越して、二世帯仕様にしたからな!」

クシナダ「えっ、お父さまとお母さまも呼んで良いのですか?」

スサノオ「まぁ、この“須賀の宮”を俺たちで独占するってのもちょっと贅沢すぎんだろ?」

クシナダ「その“須賀の宮”っていう呼び名はもう正式決定なのですか?」

スサノオ「ん?不満でもあんのか?」

クシナダ「不満というか……そんな安直でいいのかなぁ~と」

スサノオ「言うほど安直かぁ??」

クシナダ「ここに来たとき心が清々しくなる感じがしたから、地名を“須賀”にしたんですよね?」

スサノオ「おう。“清々しい”土地だから“須賀”!洒落が利いてていいだろ?」

クシナダ「安直ですよ」

スサノオ「うっ……。でも、お前も“清々しい”と思うだろ?」

クシナダ「……まぁ、いいところだとは思いますけど」

スサノオ「気に入ってるなら名前なんてどうでもいいじゃねぇか」

クシナダ「う~ん……」

スサノオ「そんなことより見てみろよ!雲が立ち昇ってきたぞ!」

クシナダ「あー、モクモクですね」



クシナダ「……って、話の逸らし方が雑ですよ」

スサノオ「きっと“出雲”って地名も、こんな景色を見たヤツがサクッと決めたんじゃねぇか?」

クシナダ「地名って、そんな感じで良いものなのでしょうか……?」

スサノオ「この景色見てたら、なんかインスピレーション湧いてきたぞ!!」

クシナダ「えっ、そんな唐突に???」

スサノオ「……スゥー」



『八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を』



スサノオ「ふぅ……思わず一首詠んじまったぜ///」

クシナダ「なんと言うか……リズミカルなポエムですね」

スサノオ「だろ?今即興で考えたんだが、このリズムの詩を“和歌”と名付けて流行らせよう!」

クシナダ「流行りますかね?」

スサノオ「絶対流行るって!そんで、今のが和歌第一号として後世に語り継がれるんだぜ、きっと」

クシナダ「語り継ぐ聴衆がいませんけど……?」

スサノオ「そこはほら、ご都合主義的に誰かが語り継ぐだろ」

クシナダ「そううまくいきますかね……?」

クシナダ「ところで、そもそも今のはどういう意味の和歌だったのですか?」

スサノオ「!?」


スサノオ「いや、それは……///」
アシナヅチ「私めが説明いたしましょう!!」


スサノオ「うおっ!?いつの間に現れた、じじい……じゃなくて…義親父(おやじ)!!」

テナヅチ「ちょうど今しがた着いたところですよ」

スサノオ「なんで夫婦揃ってしれっと来てんだよ!?」

クシナダ「私が先ほど電話で呼んだのですが、いけませんでしたか?」

クシナダ「宮が完成したらお父さまとお母さまも招こうとスサノオさんも仰っていたので」

スサノオ「いや、確かに招くつもりではあったけど……いくらなんでも早すぎだろ!?」

アシナヅチ「“たまたま”夫婦旅行で近くまで来ていたもので」

テナヅチ「本当に、“たまたま”近くまで来ていて好都合でしたね」

スサノオ(怪しすぎる……)



アシナヅチ「それはそうと、先ほどの和歌!感動いたしましたよ」

スサノオ「そ、そうか……?///」

クシナダ「結局、どういう意味だったのです?」

アシナヅチ「わかりやすく言うなら――」



『この出雲の地に雲が立ち昇り、幾重にも連なる垣のようになっている』

『そうだ、愛する妻がどこへも行かぬよう、この宮に八重の垣を作ろう』

『あの雲のような、見事な八重の垣を……』



アシナヅチ「といったところですかな?」ニヤニヤ

スサノオ「……言わんでいい///」

テナヅチ「スサノオ様も意外とロマンチストなのですね」ニヤニヤ

クシナダ「要するに、幾重にも垣を巡らして私を閉じ込めようということですか?」

アシナヅチ「いやいや、そういうDV的なニュアンスではなくて……」

テナヅチ「誰にも渡さないよう、大切に守りたいということですよ」

クシナダ「う~ん……そう言われると、少しこそばゆいですね……///」

スサノオ「だぁぁぁ~っ!!もうこの話は終わりだ、終わり!!」



スサノオ「おい、義親父!」

アシナヅチ「はい、何か?」

スサノオ「お前をこの須賀の宮の管理責任者に任命する!」

アシナヅチ「私がですか!?そんな急に……」

スサノオ「ついでに、今日から“稲田宮主須賀之八耳神(いなだのみやぬしすがのやつみみのかみ)”を名乗れ!」

テナヅチ「あらあら、ずいぶん立派な名前までいただいちゃって」

クシナダ「長くて呼びにくくなりますね」

ヤツミミ「いや、そこはこれまでどおり“お父さま”と呼んでおくれ……」

スサノオ「それじゃあヤツミミ、早速だが俺はちょっと出掛けてくっから、ここは任せたぞ」

ヤツミミ「おや、どちらへ?」

スサノオ「ホームセンターに決まってんだろ!」

クシナダ「お宮は完成したのに、今さらホームセンターに何のご用ですか?」

スサノオ「……」



スサノオ「八重垣作るんだよ!!」


―――――――
――――
――


<エピローグ>


ヤツミミ「その後、いつしかスサノオ様とクシナダの間には元気な男の子が生まれました」

テナヅチ「名をヤシマジヌミノカミと申します」

ヤツミミ「後にヤシマジヌミはオオヤマツミの娘、つまり家系図的には私の妹に当たるコノハナノチルヒメと結婚」

テナヅチ「そしてコノハナノチルヒメとの間にフハノモヂクヌスヌノカミを儲けます」

ヤツミミ「さらにフハノモヂクヌスヌはオカミノカミの娘ヒカワヒメと結婚したりなんだりして――」

テナヅチ「結局スサノオ様とクシナダの昆孫(6代後の子孫)として生まれたのが、オオクニヌシノカミでございます」

ヤツミミ「もっとも、生まれた当初はオオナムチと呼ばれていましたがね」

テナヅチ「他にもアシハラシコオ、ヤチホコ、ウツシクニタマ等の異名もありますが、それはまた別のお話」



ヤツミミ「えっ?スサノオ様はクシナダが成人するまで待ったのかって?」←誰も訊いてない

テナヅチ「それは私たちの口からは明言致しかねます」ニヤニヤ

ヤツミミ「ご参考までに、ヤシマジヌミが生まれた後、スサノオ様がどうしたかと言うと――」

テナヅチ「なんと、子育てに奮闘中のクシナダを置いて浮気三昧!」

ヤツミミ「しかも相手はオオヤマツミの娘、つまり私の妹に当たるカムオオイチヒメ!!」

テナヅチ「そして、オオイチとの間にオオトシノカミとウカノミタマという子を儲けます」

ヤツミミ「まぁ、この時代複数の妻をとること自体は珍しくもないわけですが……」

テナヅチ「よほど“お盛ん”でもない限りそんなことをする必要はないわけで……」

ヤツミミ「そんな“お盛ん”な方が未成年の妻に手を出すのを我慢できたかどうかは……」

テナヅチ「ご想像にお任せいたします」


―完―

【キャスト】
スサノオ
クシナダヒメ(櫛nada)
アシナヅチ(ヤツミミ)
テナヅチ


作:若布彦(お稲荷さんの扱い、雑過ぎ問題……)

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