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[“兄妹神婚神話”の続き]
――どうすれば子作りがうまくいくか、助言を求めに来たイザナギ・イザナミのお話

<高天原>

イザナギ「…ゼェ…ゼェ……つ、着いたぞ……イザナミ」ガクッ

イザナミ「ありがと♪ホントに高天原までおぶって来てくれるなんて、さすがイザナギ☆」

イザナギ「むしろ本当に高天原までおぶさって来るイザナミがさすがだわ……」

イザナミ「てへぺろ♪」

イザナギ「……(白目」


カムムスヒ「おや、イザナギにイザナミじゃないか」

イザナミ「カムムスヒ様!お久しぶりです!!」

イザナギ「あの、実はご相談があって……」

カムムスヒ「それでわざわざ来てくれたんだね。“私は”電話でも良かったのに(クスクス」

イザナギ「いえ、さすがに面と向かってお話しした方が良いかと……」

カムムスヒ「まぁ、私ばかり電話で君たちと話していると、またミナカヌシがいじけるからね。来てくれて良かったよ」

イザナミ「そう言えばミナカヌシ様には結婚の報告もしてなかったかも……」

カムムスヒ「報告しなくてもちゃんと伝わっているから、気にする必要はないさ」

カムムスヒ「さぁ、おいで」テクテク


―――――――
――――
――


<高天原:別天津神室>

カムムスヒ「ミナカヌシ、タカミムスヒ、イザナギとイザナミが来ましたよ」

イザナギ&ナミ「ご無沙汰しております」

ミナカヌシ「やあ、二柱(ふたり)とも久しぶりだね」

タカミムスヒ「……」ムスッ

カムムスヒ「!?そ、それはもう通じません!」アセアセ

イザナギ&ナミ(???)

ミナカヌシ「それで、いったい何の用だい?」ウキウキ

カムムスヒ(用件くらい訊かなくてもわかってるクセに……)

イザナギ「実は……」カクカクシカジカ

 ・
 ・
 ・

ミナカヌシ「なるほど、せっかく結婚したのに、なかなか良い子が生まれないと」

イザナギ「はい。何がいけないのでしょうか……?」

イザナミ「やっぱりイザナギのナニが――」

カムムスヒ「イザナミ!そういう話は後で オオトノベとしなさい!」

イザナギ「……?」


ミナカヌシ「申し訳ないが、どうすれば良いかは私にもすぐにはわからないなぁ~」

イザナギ「えぇっ!?ミナカヌシ様にもわからないことがあるのですか??」

カムムスヒ「真に受けちゃいけないよイザナギ。ミナカヌシは単に――」

ミナカヌシ「こうなったら仕方ない。タカミムスヒ、“アレ”をやろう」

タカミムスヒ「……」スッ

イザナミ「それは……骨ですか?」

ミナカヌシ「そう。牡鹿の肩甲骨だよ」

イザナミ「そんなものをどうするんです?」

ミナカヌシ「ふっふっふっ、まぁ見ていなさい。タカミムスヒ!」

タカミムスヒ「……」シュボォォォォッ!!


―パチパチパチッ!!


イザナギ「が、ガスバーナー!?室内で使ったら危ないですよ!!」

カムムスヒ「あんまり炭を跳ねさせないでくださいね。掃除するのも大変なんですから(ジト目」

イザナミ「七輪の火って……落ち着く……ほっこり」

タカミムスヒ「……」グッ

ミナカヌシ「さすがタカミムスヒ、いい火加減だ。それじゃあこれを……」ポイッ

イザナギ「鹿の肩甲骨の網焼き……?」

イザナミ「私お肉の方がいいなぁ~」

カムムスヒ「肉は燻製にしたのが台所にあるから、帰りに持って行きなさい」

イザナギ「いいんですか!?」

イザナミ「わぁ~い♪」

カムムスヒ「あとは、しぐれ煮もまだ少し余っていたかな……?」

イザナミ「食べたい食べた~い☆」

ミナカヌシ「……そなたたち、もう少し骨に興味持とうか。いい子だから」

イザナギ「あぁ、すみません。骨が……何でしたっけ?」

ミナカヌシ「これは太占(ふとまに)と言って、今巷でも話題の占いなんだ」

イザナミ「巷で話題!?」キラキラ

カムムスヒ「騙されちゃいけないよ。またミナカヌシが適当に――」

ミナカヌシ「これから絶対に流行るから、そなたたちも覚えておくといい」

イザナミ「はぁ~い☆」

イザナギ「それで、どんな占いなんですか?」

ミナカヌシ「それはじきにわかるよ」



―パキッ

―パキパキッ



イザナギ「あっ、なんか骨にヒビが……」

ミナカヌシ「よし!そろそろだな、タカミムスヒ」

タカミムスヒ「……」サッ!!

ミナカヌシ「どれどれ、ここにこう筋が入って、こっちがこうだから……」

イザナギ&ナミ「???」

ミナカヌシ「よし、わかった!」

イザナギ&ナミ「!?」

ミナカヌシ「“女から先に声を掛けたのが良くない。戻ってやり直せ。”と出ているね」

イザナギ「そ、そうだったんですか!!」

イザナミ「なんでそんなことがわかったんですか?」

ミナカヌシ「それはほら、この辺の割れ目がこう……ねぇ?」

イザナギ「……?よくわかりませんけど、わかりました!」

イザナミ「それじゃあ早速燻製としぐれ煮持って帰りましょ!」

ミナカヌシ「気を付けて帰るんだよ」

タカミムスヒ「……」

イザナギ&ナミ「ありがとうございましたー!!」テテテッ

 ・
 ・
 ・

カムムスヒ「わざわざあんな茶番見せる必要ありました……?」

ミナカヌシ「茶番とは失礼だな。せっかく私が考え……ち、巷の流行を取り入れたのに」

カムムスヒ「……まぁいいですけど」スタスタ

ミナカヌシ「ん?どこへ行くんだい、カムムスヒ?」

カムムスヒ「……ちょっと糠床の様子を見に」スタスタ



ミナカヌシ「ずいぶん大きな糠床だなぁ(クスクス」

タカミムスヒ「……♪」


―――――――
――――
――


<高天原:台所>

イザナミ「しぐれ煮おいしぃ~♪♪」

イザナギ「タッパーに詰めるなりつまみ食いするのやめてくれる?詰め終わらないから」

イザナミ「じゃあお鍋からつまむね」

イザナギ「やめなさい!」



カムムスヒ「イザナギ、ちょっといいかい?」

イザナギ「あっ、カムムスヒ様。何ですか?」

イザナミ「もしかして、他にもお土産が!?」キラキラ

カムムスヒ「あ~、そうだね。軒先に干し柿があるから、イザナミはそれを取ってきてくれるかい?」

イザナミ「干し柿!行ってきまぁ~す!!」シュバッ!!

イザナギ「早っ!?」


イザナギ「はぁ……食い意地の張った妻でどうもすみません……」

カムムスヒ「いいんだよ。それより、さっきの言葉の意味はちゃんと理解しているかい?」

イザナギ「えっ?“女から先に声を掛けたのが良くない”ってヤツですよね?そのままの意味では……?」

カムムスヒ「はぁ……」

イザナギ「えぇっ!?私、そんなため息吐かれるようなこと言いました!?」

カムムスヒ「君たちはどうして結婚したんだい?」

イザナギ「それは……イザナミがなぜか急に結婚しようとか言い出して……」

カムムスヒ「それで、勢いに押されてなんとなく契りの儀を行って」

イザナギ「……」

カムムスヒ「出逢ったところでイザナミが先に声を掛けてきたから、つい応えてしまったと?」

イザナギ「まぁ……そういうことになります……」

カムムスヒ「はぁぁぁ……」

イザナギ「ため息深くなってる!?」

カムムスヒ「そんなことで君は本当にイザナミを愛していると言えるのかい?」

イザナギ「あ、愛していますよ!きっかけはどうあれ、今はちゃんと――」

カムムスヒ「毎日、面と向かって“愛してる”と言っているとでも?」

イザナギ「それは……言ってないですけど……」

カムムスヒ「いいかい?言葉には魂が宿るんだ――」



――だから、気持ちを言葉に乗せて伝えるということは、とても大事なことなんだよ。


――声を掛ける順番なんて、本来はどうだっていいんだ。


――問題は、その言葉に気持ちがこもっているかどうか。


――“イザナミが先に声を掛けてきたから”なんて言い訳をしちゃいけないよ。


――ちゃんと君自身の意思で、君の素直な気持ちをイザナミに伝えてやりなさい。


――そうすれば、きっと……


―――――――
――――
――


<オノゴロ島:天の御柱前>

イザナギ「それじゃあ行くぞ、イザナミ」

イザナミ「うん!」

イザナギ&ナミ「「よーい、ドン!」」


イザナギ「……」スタスタ


イザナミ「……///」スタスタ


イザナギ「…………」スタスタ


イザナミ「…………//////」スタスタ



―ピタッ



イザナギ「あっ……」

イザナミ「あっ……///」


イザナギ「スゥー…ハァー……(深呼吸」


イザナギ「イザナミ、聞いてくれ!!」


―――――――
――――
――


<しばらく後>

イザナミ「はぁ~、疲れたぁ~」グデーン

イザナギ「よく頑張ったな、イザナミ!」

イザナミ「それで、この子の名前はどうする?双子だから“両児嶋(フタゴノシマ)”?」

イザナギ「島としてはそれでいいけど、神名は“アメノフタヤ”にしようか」

イザナミ「じゃあこの子にはこの辺の海を守ってもらって……と」

イザナギ「これでだいぶ“大八嶋国(オオヤシマノクニ)”の国土も整ってきたな」

イザナミ「最初の“淡道之穂之狭別嶋(アワジノホノサワケノシマ)”から数えて14番目なんだから、“大十四嶋国”になるんじゃないの?」

イザナギ「それだと語呂も悪いし、島が増えたり減ったりする度に名前変えるのも大変だろ?」

イザナミ「そういうとこはこだわらないんだ……」

イザナギ「それに、やっぱり最初の八島はなんとなく特別感あるじゃん?」

イザナミ「まぁ、確かに思い入れはあるかも」

イザナギ「二番目の“伊予之二名嶋(イヨノフタナノシマ)”が生まれたときなんて、ビックリしたよなぁ」

イザナミ「まさか1つの身体に4つも顔が付いてるなんてね。しかも男2:女2の合コンスタイル」

イザナギ「エヒメ、イイヨリヒコ、オオゲツヒメ、タケヨリワケと、美男美女揃いだったなぁ」

イザナミ「やっぱりイザナギがイケメンだからね☆」

イザナギ「いやいや、きっとイザナミに似たんだよ」イチャイチャ

イザナミ「もう、イザナギったら~」イチャイチャ



Siri(うわぁ……見せつけてくれちゃって……)

Siri「はいそこー。イチャコラしてないでさっさと話進めてくださーい」

イザナギ「うぇっ!?きゅ、急に乱入してくるなよ、ビックリしたなぁ~」

Siri「フンッ!!人目も憚らずに二人の世界に入ってるのがいけないんです」

イザナギ「“人目”って言うか、“AI目”だけど……」

Siri「屁理屈言わない!!」キッ!!

イザナミ「えぇ~っと、三番目は“隠伎之三子嶋(オキノミツゴノシマ)”!」

イザナギ「神名はアメノオシコロワケで――」

Siri「はい、次行きますよ~」

イザナギ(流された……)

イザナミ「四番目の“筑紫嶋(ツクシノシマ)”も顔が4つのパターンだったわね」

イザナギ「こっちはシラヒワケ、トヨヒワケ、タケヒムカヒトヨクジヒネワケ、タケヒワケと、似た系統の神名で揃えたんだよな」

Siri「はい、次~」

イザナミ「五番目が一番小柄な“伊岐嶋(イキノシマ)”で、六番目が“津嶋(ツシマ)”」

イザナギ「それぞれ神名はアメヒトツバシラとアメノサデヨリヒメだな」

Siri「いいペースですよ~。サクサク行きましょ~」

イザナミ「七番目に“佐度嶋(サドノシマ)”が生まれて……」

イザナギ「八番目が“大倭豊秋津嶋(オオヤマトトヨアキツシマ)”。神名はアマツミソラトヨアキツネワケだ」

イザナミ「大きいから生むのも一苦労だったわぁ~……」

イザナギ「こいつがまさに集大成って感じだったから、8島合わせて大八嶋国って名付けたんだよなぁ」

Siri「でも、結局続けて6島生みましたよね?」

イザナミ「そうなの!だってイザナギったら……///」

イザナギ「い、言わんでいい!!」

Siri「……チッ。いいからとっととまとめてください」

イザナギ「なにこのAI怖い……」

イザナミ「えっと、続けて生んだのが“吉備児嶋(キビノコジマ)”、“小豆嶋(アズキシマ)”――」

イザナギ「神名はタケヒカタワケ、オオノデヒメ――」

イザナミ「それから“大嶋(オオシマ)”、“女嶋(ヒメジマ)”、“知訶嶋(チカノシマ)”――」

イザナギ「オオタマルワケ、アメヒトツネ、アメノオシオ――」

イザナミ「で、最後がさっき生まれた“両児嶋(フタゴノシマ)”。つまり、アメノフタヤね」

Siri「はい終了~。お疲れさまでした」

イザナギ「なんでこんな巻きで国生みの経緯振り返らされてんだ……?」

Siri「今回はそういうお話ですから」

イザナギ「そうですか……。でも、改めて振り返ると結構な数になったもんだ」

イザナミ「ちゃんとメモっておかないと忘れちゃうかも……」

イザナギ「いや、自分の子の名前くらい覚えとけよ!」

イザナミ「てへぺろ♪」

イザナギ「でも、まだ終わりじゃないぞ」

イザナミ「えっ!?まだ生むの???」

イザナギ「そりゃあ国土だけあっても仕方ないだろ?ちゃんとこの国を守る神々も生まないと」

イザナミ「もう、イザナギったら……お・さ・か・ん☆」

イザナギ「言わんでいい!!」

Siri(腕があったら殴りたい……)


※この後めちゃくちゃ神生んだ。


―完―

【キャスト】
イザナギ
イザナミ
カムムスヒ
アメノミナカヌシ
タカミムスヒ
Siri

作:若布彦(説明パートは読み飛ばしていただいて結構です……)

・・・次のお話はこちら⇒”黄泉の国神話

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