<高天原>

???「ぅ……ん?……ここは……?」

???「やぁ、目覚めたかい?ここは天上界――“高天原”だよ」

???「あなたは……?」

???「私はアメノミナカヌシノカミ。もっとも、まだその名で呼ばれたことはないのだがね」

???「では、アメノミナカヌシノカミ様――」

ミナカヌシ「フフッ、長くて呼びづらいだろう?ミナカヌシでいいよ、“カムムスヒ”」

カムムスヒ「!?なぜ私の名を……?」

ミナカヌシ「さぁ?そういうそなたは、なぜ自分の名が“カムムスヒ”であることを知っているんだい?」

カムムスヒ「言われてみれば…なぜでしょう?ですが、ミナカヌシ様に呼ばれる前からそう決まっていたような気がします」

ミナカヌシ「そうだろうね。私もそうだったし、そこにいる“タカミムスヒ”もそうだった」

タカミムスヒ「……」

カムムスヒ「えっ!?あっ、失礼しました!こんなところにもうお一方いらっしゃったとは……」

タカミムスヒ「……」

カムムスヒ「あ、あの……」

ミナカヌシ「気にする必要はないよ。怒っているわけじゃない。タカミムスヒは無口なんだ」

カムムスヒ「そ、そうですか……」

ミナカヌシ「そなたより先に目覚めたのに、未だに私の名も呼んでくれないんだよ。酷いだろう?(クスクス」

カムムスヒ(……なんだかとても楽しそう)

ミナカヌシ「今、私が“楽しそう”だと思ったかい?」

カムムスヒ「!?」

ミナカヌシ「楽しいに決まっているじゃないか。ようやく話し相手ができたのだから」

カムムスヒ「ミナカヌシ様は、ずっとここでお一柱(ひとり)だったのですか?」

ミナカヌシ「“ずっと”ではないかな?私もまだ目覚めたばかりだよ。それから立て続けにタカミムスヒとそなたが目覚めたんだ」

カムムスヒ「では、目覚めてからの時間は私とさほど変わらないのですね?」

ミナカヌシ「そうだね。私たちはほぼ同時に目覚めた、三つ子のようなものだと言えるだろう」

カムムスヒ「それにしては、私に比べてずいぶんといろいろなことをご存知のようですが……」

ミナカヌシ「フフッ、“早起きは三文の徳”というやつだよ。そなたもいずれ、他の者の名や考えていることくらい聞かずともわかるようになるさ」

カムムスヒ「そういうものでしょうか……?」

ミナカヌシ「そういうものだよ」

ミナカヌシ「実際、そろそろタカミムスヒの言うこともわかるようになったんじゃないか?」

カムムスヒ「いや、さすがにそんなすぐには――」チラッ

タカミムスヒ「……」

カムムスヒ「えっ……?“下を見てみろ”……?」

ミナカヌシ「~♪」ニコニコ



カムムスヒ「靄がかかったようで、あまりよく見えませんね……」

ミナカヌシ「まだ天と地が別れたばかりで不安定だからね、境が曖昧なんだ。よく目を凝らして見てごらん?」

カムムスヒ「あれは……水?その上に浮かんでいるのは、脂……いえ、クラゲでしょうか?」

ミナカヌシ「あれはね、葦原の中つ国だよ」

カムムスヒ「葦原の中つ国?」

ミナカヌシ「正確には、“いずれ葦原の中つ国になるもの”と言った方が良いかな?」

カムムスヒ「どういうことですか?」

ミナカヌシ「これから私たちが、あの葦原の中つ国を含めた全てを――世界を作るのさ」

カムムスヒ「世界を……?」

ミナカヌシ「そうだよ。私たちはこの世界の造物主として生まれてきたんだ」

カムムスヒ「私たちが造物主……なんだか少しくすぐったいですね///」

ミナカヌシ「フフッ、そんなに恥ずかしがらず、堂々としていなさい。いずれは“神スリー”とか“造化三神”とか呼ばれて崇められることになるのだから」

カムムスヒ「……そこは“造化三神”の方でお願いします」

ミナカヌシ「そうかい?では、これから生まれる者には私たちを“造化三神”と呼ばせよう」

カムムスヒ「それで、その“これから生まれる者”はどのようにして生まれるのでしょう?」

ミナカヌシ「なぁに、気にしなくてもそのうち勝手に生まれるよ」

カムムスヒ「そういうものでしょうか……?」

ミナカヌシ「そういうものだよ。――こうして話しているうちにも、ほら」

カムムスヒ「!?」



???「はっ!こ、ここは!?」ガバッ

ミナカヌシ「やぁ、よく生まれてきてくれたね」

タカミムスヒ「……」

カムムスヒ「は、はじめまして」

???「あなた方は……?」

ミナカヌシ「私たちは“造化三神”――この世界の造物主だよ」

???「ぞ、造物主様!?」

ミナカヌシ「そなたはまるで葦の芽が萌え出るように生まれてきたね。ということは……はい、カムムスヒ!」

カムムスヒ「えっ!?あの……“ウマシアシカビヒコヂ”でしょうか?」

ミナカヌシ「~♪」ニコニコ

アシカビヒコヂ「“ウマシアシカビヒコヂ”……立派な名を付けていただき、光栄です!」

ミナカヌシ「それは少し違うな。カムムスヒは名を“付けた”わけじゃない。“知っていた”んだ」

アシカビヒコヂ「どういうことですか?」

カムムスヒ「えぇと……つまり、君は生まれてきたときからアシカビヒコヂだったわけで……」

アシカビヒコヂ「???」

ミナカヌシ「カムムスヒは説明が下手だね(クスクス」

カムムスヒ「ミナカヌシ様に言われたくありません」

ミナカヌシ「フフッ、まぁいい。アシカビヒコヂ、これからよろしく頼むよ」

ミナカヌシ「そなたは生命力の根源たる存在だ。これから生まれる全ての者たちに活力を与えてやってくれ」

アシカビヒコヂ「はい!気合入れて頑張ります!!」



タカミムスヒ「……」

ミナカヌシ「ん?どうかしたかい、タカミムスヒ?……あぁ、また新しい神が生まれたようだね」

???「う~ん……」モゾモゾ

カムムスヒ「ごきげんよう」

???「…あと5分……」モゾモゾ

カムムスヒ「二度寝すなっ!」コツン!!

???「ぅぅ……」

ミナカヌシ「まぁまぁ。そんなに怒らなくてもいいじゃないか、カムムスヒ(クスクス」

カムムスヒ「ですが……」

ミナカヌシ「やぁ、寝心地はどうだい?“アメノトコタチ”」


アメノトコタチ「最高ですぅ~……。いつまででも眠っていられますぅ~……」

ミナカヌシ「それは良かった。どうやら高天原もずいぶん安定したようだね」

カムムスヒ「確かに、先ほどより天と地の境がくっきりしてきた気がします」

ミナカヌシ「きっと天上界の永遠の存立を司るアメノトコタチが生まれてきたおかげだね」

カムムスヒ「ですが、一向に起きる気配がありませんよ?」

ミナカヌシ「フフッ、それで良いのさ」

カムムスヒ「そういうものでしょうか……?」

ミナカヌシ「そういうものだよ。さて、アメノトコタチ」

アメノトコタチ「むにゃ……?」

ミナカヌシ「そなたが安心して眠っていられるように、これからもしっかり天を支えていておくれ。いいね?」

アメノトコタチ「ふぁ~い……。おやすみなさぁ~い……」スヤァ

カムムスヒ(寝ちゃった……)



ミナカヌシ「さて、アシカビヒコヂ、アメノトコタチが加わって、私たち天上界の神――“天津神”も五柱になったね」

カムムスヒ「そうですね」

タカミムスヒ「……」

ミナカヌシ「では、この五柱を“神ファイブ”と――」

カムムスヒ「それは無しです!!」

―――――――
――――
――


<高天原:しばらく経って…>

カムムスヒ「ミナカヌシ、タカミムスヒ、また新たな神が生まれましたよ」

ミナカヌシ「おや、わざわざ連れてきてくれたのかい?ありがとう」

タカミムスヒ「……」

カムムスヒ「ほら、ご挨拶なさい」

イザナギ「ミナカヌシ様、タカミムスヒ様、お初にお目にかかります。イザナギノカミと申します」
イザナミ「私はイザナミノカミと申します」

ミナカヌシ「もちろん知っているよ。けれど、やはり実際に顔を見せに来てくれると嬉しいものだね」

カムムスヒ「ミナカヌシは寂しがり屋ですからね(クスクス」

ミナカヌシ「私が寂しがり屋?そんなことはないだろう」

カムムスヒ「私が目覚めたとき、タカミムスヒが名を呼んでくれないからといっていじけていたのは誰でしたっけ?」

ミナカヌシ「いじけてなどいないさ。なぁ、タカミムスヒ?」

タカミムスヒ「……」

ミナカヌシ「むっ……」

カムムスヒ「ほら、やっぱり(クスクス」


イザナギ「???」
イザナミ「???」

ミナカヌシ「ほら、カムムスヒが変な話をするからイザナギとイザナミが困っているじゃないか」

カムムスヒ「あぁ、ほったらかしてすまなかったね、二柱(ふたり)とも」

ミナカヌシ「せっかくだし、何か私たちに訊きたいことは無いかい?」

イザナギ「では、私たちをお生みになったのは造化三神の皆様なのですか?」

ミナカヌシ「そうとも言えるし、そうでないとも言えるね」

カムムスヒ「私たちが直接君たちを産んだわけではないけれど――」

ミナカヌシ「私たちがいなければそなたたちが生まれなかったのも事実だから」

イザナギ「???」



ミナカヌシ「フフッ、他には何かあるかい?」

イザナミ「では、他の“別天津神”様たちはどちらにいらっしゃるのですか?」

ミナカヌシ「“別天津神”……?あぁ、“神ファイ――」

カムムスヒ「アシカビヒコヂとアメノトコタチのことだね」

イザナミ「はい。皆様ご一緒ではないのですか?」

ミナカヌシ「まぁ、アシカビヒコヂはいつもどこかを駆け回っているし、アメノトコタチはいつも奥で眠っているからね」

カムムスヒ「活力溢れるアウトドア派と、安定主義に振り切ったインドア派なんだよ」

ミナカヌシ「とは言え、彼らの神気はここにも満ちているから、一緒にいるのと変わらないよ」

イザナミ「そういうものでしょうか……?」

カムムスヒ「そういうものだよ」



ミナカヌシ「他に質問は?」

イザナギ「……」
イザナミ「……」

ミナカヌシ「すぐには思い浮かばないかな?」

カムムスヒ「それじゃあ、君たちはもう下がって構わないよ」

イザナギ「はい。それでは失礼いたします」ペコリ
イザナミ「何か御用がございましたらいつでもお呼びください」ペコリ

 ・
 ・
 ・

ミナカヌシ「カムムスヒもだいぶ堂々としてきたね」

カムムスヒ「まぁ、アメノトコタチの次に生まれたクニノトコタチから数えて、もう七代目ですから」

ミナカヌシ「一代目のクニノトコタチと二代目のトヨクモノは私たちと同じ“独神(ひとりがみ)”だったね?」

カムムスヒ「はい。その後、“性別”というものを創ってからは五代続けて男女一対の神です」

ミナカヌシ「三代目がウヒヂニ・スヒチニ、四代目がツヌグイ・イクグイ」

カムムスヒ「五代目がオオトノヂ・オオトノベ、六代目がオモダル・アヤカシコネ」

ミナカヌシ「そして七代目が先ほどのイザナギ・イザナミか」

カムムスヒ「これだけ下ができれば、さすがに造物主らしさも出てきますよ」
カムムスヒ(目下の者の前ではミナカヌシの喋り方を真似ているだけですけど……)


ミナカヌシ「そうだね。私に対しても“様”付けじゃなくなったし」

タカミムスヒ「……」

ミナカヌシ「“それはナメられているだけだ”って?おいおい、それはないだろう」

カムムスヒ「……(クスクス」



ミナカヌシ「それにしても、七代十二柱の神か……」

タカミムスヒ「……!?」

カムムスヒ(まさか!?)

ミナカヌシ「よし、思いついた!彼らのことは“神セブ――」

カムムスヒ「“神世七代”と名付けましょう!!」

タカミムスヒ「……♪」


―完―

【キャスト】
カムムスヒ
アメノミナカヌシ
タカミムスヒ
ウマシアシカビヒコヂ
アメノトコタチ
イザナギ
イザナミ

作:若布彦(別天津神は出雲大社本殿内御客座、神世七代は物部神社末社等に祀られているそうです)

・・・次のお話はこちら⇒”国土修理固成神話

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