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[“赤猪神話”の続き]
――大岩に潰されながらも、奇跡的に復活して出雲へ帰って来たオオナムチのお話

ヤソガミーズ「ファーwww」

オオナムチ「何そのリアクション……?って言うか、俺のこと置いて先帰るとか酷くない!?」

八十神A(なんでこいつが生きてんだ……?)

八十神B(こいつは確かに手間山で……)

八十神C(俺たちが落とした大岩に潰されて死んだはず……)

オオナムチ「それで、結局赤い猪はどうなったんすか?」



ヤソガミーズ「……」

ヤソガミーズ「は?」

オオナムチ「いや、兄貴たちは手間山でそいつを見つけたんすよね?」

オオナムチ「俺はそいつと間違えて転がって来た大岩にぶつかって気を失ってたみたいだけど、兄貴たちだけで捕まえられたんすか?」

八十神A(こいつ、もしかして何があったか気付いてないのか?)

八十神B(察しの悪いヤツで良かったぜ)

八十神C(そういうことなら……)

八十神C「あ…あぁ、あいつなら俺らだけで捕まえたぜ。なっ?」チラッ

八十神A「お、おう。ただとにかく重くてな、お前まで引きずってくる余裕がなかったんだ」チラッ

八十神B「悪いな、腹…オオナムチ」チラッ

オオナムチ「そうだったのかぁ~。それで、もう捌いたんすか?」

八十神A「いや、まだ捌いてないんだ」

八十神B「お前が戻ってくるまで待ってようと思ってな」

八十神C「裏の山の木に縛り付けてあるから、見たけりゃ連れてってやるよ」

オオナムチ「見たい見たい!」

八十神A「そうかそうか。でも今日はお前も疲れてるだろうし、明日の朝にしようか?」

オオナムチ「あぁ~、まぁ確かに今日はもう休みたいし、それがいいかなぁ?」

八十神B「よし、じゃあ明日の朝な!」

八十神C「もし寝坊したら俺らだけで食っちまうからな!」

オオナムチ「えぇ…俺の婚約祝いって話じゃ……。まぁ、寝坊しないように気を付けま~す」

ヤソガミーズ「おぅ、ゆっくり休めよ~!」

 ・
 ・
 ・

ヤソガミーズ「よし、今のうちに……」

―――――――
――――
――


<翌日>

オオナムチ「ふぁ~ぁ……。眠い……」

八十神A「おっ、ちゃんと来たな?」

八十神B「じゃあとりあえずコレ付けろよ」スッ

オオナムチ「コレって……格付けチェックとかでお馴染みの目隠しじゃないすか!嫌ですよこんなの!エロ目だし!!」

八十神C「まぁそう言うなって。めちゃくちゃ珍しい猪だから、せっかくだし軽いドッキリ気分で見せてやりたいんだよ」

オオナムチ「う~ん…まぁそういうことなら……」ゴソゴソ



八十神A「どうだ?前見えるか?」

オオナムチ「思ったよりマジで何も見えないっすね……。このまま落とし穴に落とすとかやめてくださいよ?」

八十神B「落とし穴になんて落とさねぇよ(笑」

八十神C「猪がいるところまでは俺が手ぇ引っ張ってやるからな!」

オオナムチ(さすがにこのまま山に行くのは怖いなぁ……)

―――――――
――――
――


<一方その頃>

サシクニ「あっ、もしもし?サシクニワカヒメですけど……」

???「サシクニ……?おぉ!出雲の嬢ちゃんか!」

サシクニ「はい、ご無沙汰しております」

???「久しぶりだなぁ~。こんな朝っぱらにどうした?旦那がぽっくり逝ったか?」

サシクニ「いえ、旦那ではなく、実は息子が……」カクカクシカジカ

 ・
 ・
 ・

???「そいつはいけねぇ!なんならこっちで匿ってやるよ!」

サシクニ「ありがとうございます!徹夜で住所録探した甲斐がありました!!」

???「ちょっと待て、俺の個神情報は徹夜で探さなきゃ見つからないような杜撰な方法で管理されてんのか!?」

サシクニ「あっ!いえ、決してないがしろにしていたわけでは……」

???「はっはっはっ!冗談だよ冗談!梅干しでも用意して待ってっから早くこっち来な!」

サシクニ「はい!すぐにでも向かわせていただきます。それでは……」ガチャッ



サシクニ「こんなにもあっさり行く当てが決まるなんて、ありがたいわ」

サシクニ「善は急げよ。早くオオナムチを連れ出さないと!」



「「オオナムチ!オオナムチはどこ!?」」

―――――――
――――
――


<山中>

オオナムチ「もうだいぶ歩いた気がするんすけど、まだ着かないんすか……?」

八十神A「いやぁ~、もうすぐそこなんだけどなぁ~」

八十神B「仕方ねぇ、俺らがここまで連れてきてやるから、ちょっと待ってろよ」

八十神C「じゃあ手ぇ離すぞ」パッ

オオナムチ「えっ!?いや、目隠ししたまま一人にされたらめっちゃ怖いんすけど!」

八十神A「そうか?だったら俺もここで一緒に待っててやるよ」

オオナムチ「あ、あざす……」

八十神B「じゃあ俺ら行ってくるわ!」

八十神C「すぐ戻るからな!」

 ・
 ・
 ・

オオナムチ「なぁ兄貴」

八十神A「ん?なんだよ?」

オオナムチ「座りたいんだけど……。ここ足場も悪いし……」

八十神A「いや、あいにく座れるようなとこは無いからそのまま立っててくれ」

オオナムチ「そんな中途半端なとこなのここ!?待つなら座れるとこで待とうよ!」

八十神A「いやいや、もうちょっとの辛抱だからこのまま待っててくれよ。な?」

オオナムチ「うぅ~ん…まぁいいっすけど……」



「「おぉ~い、準備できたぞぉ~!!」」



八十神A「おっ、そうこう言ってる間に準備ができたみたいだぜ?」ニヤニヤ

オオナムチ「準備?近くまで猪が来た気配なんてないですけど……」

八十神A「まぁ気にすんなって。あいつらが“せーの”って言ったら目隠し外していいぞ」

オオナムチ「マジっすか!ようやく例の猪が見れるのかぁ~。ワクワクするなぁ~」



「「こっちも準備はいいぞぉ~!!」」

「「よし!じゃあ一気に行くぜ!!」」



「「「「せーの!!」」」」」



オオナムチ(よし、目隠し外そう)スッ

八十神A「ばぁ~か!!」ニヤニヤ

オオナムチ「なっ!?」



―バチィィィィィィンッ!!!!!!!!

 ・
 ・
 ・

八十神B「よぉ、どうだった?」

八十神C「まぁ、その表情から察するに……」

八十神A「あぁ、お察しのとおりだ。見てみろよ」ニヤニヤ

八十神B「うわぁ~、こりゃあ読者の皆様にお見せできないのが残念だぜ」

八十神C「今度こそペシャンコじゃねぇか!」

八十神A「昨日のうちにせかせか準備した甲斐があったな」

八十神B「まったくだ。このデカい木を真っ二つに割るのの大変さと言ったらもう……」

八十神C「それもそうだけど、割った木を左右に開いて楔で止めるのもなかなか重労働だったよな」

八十神A「割れ目のど真ん中に腹違いを立たせておくのも大変だったし……」

八十神B「まぁ、なんやかんやで“真っ二つに割って左右に開いた木の割れ目に腹違いを立たせてから楔を外して挟み殺す作戦”大成功だな!」

八十神C「俺たちの知略と行動力の勝利だ!」


ヤソガミーズ「ざまぁみろ!はっはっはっ!」

―――――――
――――
――


<午後>

サシクニ(オオナムチがどこにも見当たらない……。まさか、また……)

サシクニ「はっ、あれは!!」カクレンボ



八十神A「いやぁ~、すっきりしたなぁ」

八十神B「今日は一段と飯がうまくなりそうだ」

八十神C「今度こそヤガミヒメに手紙書くとするか!」

ヤソガミーズ「はっはっはっ!」



サシクニ「あの子たち、狩りの道具も持たずに山から帰ってくるなんて不自然だわ……」

サシクニ「行ってみましょう!」ダッ!!

―――――――
――――
――


<山中>

サシクニ(足跡を辿って来たけれど、どこまで続くのかしら……?)

サシクニ「あっ、あれは!!」ダッ!!



オオナムチ「……(死~ん」

サシクニ「あぁ、オオナムチ!どうしてこんな酷い目に……」

サシクニ「ここは一か八か、きぃ様とうー様から頂いた“ママ上様の乳汁”で……」ヌリヌリ

 ・
 ・
 ・

オオナムチ「ぅ…ぅぅ……」

サシクニ「オオナムチ!!」



オオナムチ「ん、あれ?俺は一体何を……」

サシクニ「あぁ、オオナムチ!良かった!!本当に良かった!!!…のだけど、デジャヴ感が……」

オオナムチ「母上?どうしてここに??」

サシクニ「あなたを迎えに来たのですよ」

オオナムチ「迎えにって……兄貴たちは?」

サシクニ「それは……」



サシクニ「オオナムチ、よく聞いて。あなたはその兄たちに殺されたの」

オオナムチ「殺された?何の冗談だよ、俺はちゃんと生きてるだろ?」

サシクニ「それは天津神様の御加護で生き返ったからよ」

オオナムチ「嘘っ!?そんなことあり得るのか??」

サシクニ「ゆーたらこれで二回目よ」

オオナムチ「二回目!?ってことは、もしかして一回目は……」

サシクニ「えぇ、手間山の時よ。あの時、あなたは八十神たちが“わざと”落とした大岩にぶつかって死んだの」

オオナムチ「そんな……」

サシクニ「いい?オオナムチ、あなたはこのままここにいたら必ずまた八十神たちに殺される」

サシクニ「今回はまだ天津神様から頂いた薬が残っていたから良かったけれど、次はもう生き返らせることはできないの」

オオナムチ「それじゃあ俺は一体どうすれば……」

サシクニ「私に考えがあるわ。これから木の国へ逃げましょう」

オオナムチ「“木の国”……?そんなエルフとかが住んでそうな感じの国があるのか?」

サシクニ「えぇ。もう話は付けてあるから、すぐにでも行くわよ」

オオナムチ「ちょっと待って、行くにしても準備が……」

サシクニ「そんな悠長なことは言ってられないわ!早く!!」

オオナムチ「で、でもパンツが――」

サシクニ「パンツなんて!!」



サシクニ「……パンツは大事よね。一旦取りに戻りましょう」

―――――――
――――
――


<木の国>

サシクニ「さぁ、急いでオオナムチ!」

オオナムチ「ハァ…ハァ……。ちょっと休もうよ……」

サシクニ「何甘ったれたこと言ってるの!追手が来るかもしれないんだから黙って歩きなさい!」

オオナムチ「母上、いい歳なのになんでパシり慣れしてる俺より体力あるんだよ……」

サシクニ「高天原までの道のりに比べたらこのくらい楽勝よ♪」

オオナムチ(高天原ってどんな僻地にあるんだ……?)

オオナムチ「って言うか、命狙われてるのは俺だけなんだから、母上まで一緒に来なくても……」

サシクニ「何言ってるの?このポンコツわかめがあなた一人だけで話を進められるわけないでしょ?」

オオナムチ「いや、何の話だよ……?」

サシクニ「だいたい、あなたのせいで急ぐ羽目になったんだから文句言わないの!」

オオナムチ「うっ、それは……」

―――――――
――――
――


<回想>

オオナムチ(よし、誰もいない。今のうちにパンツを……)コソコソ



八十神A「あぁ~、いい湯だった!」

八十神B「やっぱり仕事(弟殺し)終わりの風呂は最高だなぁ~」

八十神C「そうだなぁ~……って、おい!!そこにいるのは誰だ!?」



オオナムチ「あ、いや……その……」

八十神A「んだよ、腹違いかよ」

八十神B「チッ、呑気に荷詰めなんてしやがって。どっか行くのか?」

オオナムチ「ちょっと木の…じゃなくて、黄泉の国に……」

八十神C「そっか、お前死んだもんな。じゃあ風呂掃除してから行けよ」

オオナムチ「あ~、はい……。ハハハ……」



八十神A「……」
八十神B「……」
八十神C「……」



ヤソガミーズ「ファーwww」



―――――――
――――
――


<木の国>

サシクニ「あなたが見つかったりしなければ、生き返ったことを知られずに逃げられたのに」

オオナムチ「し、仕方ないだろ!あんなタイミングで風呂から出てくるなんてわかるわけないし!」

サシクニ「とにかく、いつ八十神たちが追って来るかわからないんだから急ぐわよ」

オオナムチ「へぇ~い……」

 ・
 ・
 ・

サシクニ「どうやらここみたいね」

オオナムチ「でっかい木だなぁ~。根元に扉があるぞ」

サシクニ「インターホンはこれね……」ピンポーン



???「あぁん!?新聞なら間に合ってるぞ」

サシクニ「あっ!お忙しいところすみません。先日お電話したサシクニワカヒメです!」

???「おぉ、嬢ちゃんか!ちょっと待ってな!」



―ガタガタガタッ!!

―ガッシャーン!!

―イッテェェェ!!

―ドタドタドタ!!



???「おぅ、待たせたな」ガチャッ

サシクニ「お久しぶりです、オオヤビコおじさま」

オオヤビコ「いやぁ~、しばらく見ない間にすっかり大きくなったなぁ、嬢ちゃん!」

サシクニ「そんな、オトナの魅力溢れる美神だなんて……///」

オオナムチ「いや、そこまで言われてないぞ」

オオヤビコ「そっちの坊主が例の息子かい?」

サシクニ「えぇ、オオナムチと申します。ほらオオナムチ、ご挨拶なさい」

オオナムチ「ど、どうも……。で、おっさんは一体何者なんすか?」

サシクニ「こら!失礼でしょ!!」

オオヤビコ「はっはっはっ!構わねぇよ、若ぇもんからしたら当然の反応だ!」

オオヤビコ「しかし、俺が何者かってのは難しい質問だな」

オオナムチ「いや、自分が何者かくらいわかるだろ!」

オオヤビコ「そりゃあ俺は俺が何者だかくらい重々承知してるさ。でもな、わかってりゃあ言っていいってもんでもないんだよ」

オオナムチ「どういうことっすか?」

オオヤビコ「例えば、かの有名な彌彦神社の祭神は俺の妹のガキだって話がある」

オオナムチ「彌彦神社???」

オオヤビコ「一方で、そいつは実は俺のガキだって話もあるし、俺自身だって話もある」

オオナムチ「つまり……どういうことだってばよ?」

オオヤビコ「要するに、後世の人間が俺のことをどう伝えてるかは俺にはわからねぇ。だから俺の口から下手なことは言えねぇんだ」

オオナムチ「何その配慮?真面目か!」

オオヤビコ「一つ言えるのは、お前さんの遠縁の親戚だってことくらいだな」

オオナムチ「うぅ~ん……よくわからんけど、もうどうでもいいや」

オオヤビコ「まぁ、とりあえず座って梅干しでも食いねぇ。クエン酸は疲れに効くぜぇ?」

サシクニ「是非いただきます!おじさまの作る梅干しは絶品ですものね!」

オオヤビコ「がっはっはっ!嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!これから毎日食わせてやっからな!」

オオナムチ「毎日って……いつまでここにいるつもりなんだ?」

サシクニ「まぁ、少なくとも八十神たちが追って来るまでかしら?」

オオナムチ「それって、わりと時間なくない?」

オオヤビコ「なぁに、心配ねぇって。こんな山奥、そうそう辿り着かねぇよ」

サシクニ「そうよ、それこそ住所でも知らなきゃ――」



―ピンポーン



オオヤビコ「お、また誰か来たか?大方新聞の勧誘だと思うが……。ちょっと待ってくれな」ガチャッ



オオヤビコ『新聞なら間に合ってるぞ』

???『あっ!お世話になっております、私ども“八十神”と申しますが、こちらにオオナムチさんいらしてないでしょうか?』


オオヤビコ『オオナムチ!?し、知らんなぁ……』

八十神A『そうですかぁ~』

オオヤビコ『用が無いんならとっとと帰んな!俺も暇じゃねぇんだ!』

八十神A『あぁっ、お待ちください。せめてお話だけでも!』

オオヤビコ『お、おぅ……。ちょっと待ってな、すぐ行くからよ』ガチャッ



オオヤビコ「うん、来たわ」

オオナムチ「いくらなんでも早すぎだろ!」

オオヤビコ「まぁ、来ちまったもんは仕方ねぇ。俺が時間稼ぐから、お前ら裏口から逃げな!」

サシクニ「そんな、それではおじさまは……」

オオヤビコ「心配ねぇって。さっきも言ったとおり、どれが正確かはともかく、俺の話は後世まで伝わってんだ。こんなとこでくたばったりしねぇよ」

オオナムチ「おっさん……ありがとう。達者でな!」ダッ!!

オオヤビコ「あぁ、待て待て!うちの裏口は開け方にコツがあるんだ」

オオナムチ「コツ?」

オオヤビコ「おぅ。なんたって、裏口には扉が無いからな」

オオナムチ「扉が無い!?それ裏口って言えるのか?」

オオヤビコ「それがな、一見すると通れっこないくらい狭い木の割れ目なんだが、あることをするとそこが開くんだ」

オオナムチ「何それ、カッコイイ!」

オオヤビコ「じゃあ開け方教えるぞ。まず手を握る」ギュッ!!

オオナムチ「手を握る!」ギュッ!!

オオヤビコ「次に手を開く」パッ

オオナムチ「手を開く!」パッ

オオヤビコ「そんで手を叩く」パンッ!!

オオナムチ「手を叩く!」パンッ!!

オオヤビコ「そんでさらに手を握る」ギュッ!!

オオナムチ「手を握る!」ギュッ!!

オオヤビコ「そしたら裏口が開くから、もう一遍手を叩いから、上にあげて通ればOKだ」

オオナムチ「えっ、どういう理屈!?」

オオヤビコ「まぁ、とにかくそういうことだから、間違えるんじゃねぇぞ!」

オオナムチ「うぅ~ん…自信ないなぁ……」

サシクニ「私がちゃんと覚えたから大丈夫よ」

オオヤビコ「それじゃあ、俺は来客対応してくるから、ちゃんと逃げろよな!」ダッ!!

―――――――
――――
――


<玄関>

オオヤビコ「お、おぅ!待たせたな!」ガチャッ

八十神A「手を挙げろ!」

八十神B「言うこと聞かないとこの弓矢で射るぞ!」

八十神C「さすがにこの距離なら外さねぇからな!」

オオヤビコ「おぉっと!兄ちゃんたち、こりゃ何の真似だい?」

八十神A「ここにオオナムチが来てることはわかってんだよ」

オオヤビコ「だから俺は知らねぇって。だいたい、何を根拠にそんなこと言ってんだ?」

八十神B「とぼけたって無駄だぜ。ここの連絡先のとこにドッグイヤーした住所録がほっぽってあったからな!」

オオヤビコ(嬢ちゃん……せっかく徹夜で探した住所録をほっぽっとくなよ……)

八十神C「とにかく、中を検めさせてもらうぜ!」

オオヤビコ「まぁ待ちな。疲れてんだろ?まずは梅干しでも食えよ」スッ

八十神A「へっ、梅干しなんて食ってる暇は――」
八十神B「じゃあ一粒いただくぜ!」ヒョイパクー

八十神A「って、食ってんじゃねぇよ!」

八十神B「うっ……!?」

八十神C「おい、どうした!?てめぇ何か仕込みやがったな!!」

オオヤビコ「人聞きの悪いこと言うな!俺は何があっても梅干しにだけは小細工なんかしねぇ!!」

八十神B「うまい!!!このとろけるような口当たりと濃厚な梅の風味!そして何より、思わず顔をしかめてしまうようなしっかりとした酸味と塩味が、何でもかんでも“甘くて食べやす~い♪”感じにすりゃあいいみたいな昨今の風潮に対するアンチテーゼを唱えるかのように、俺の舌…いや、心に訴えかけてくる!」

八十神B「おっさん、もう一粒!」ヒョイパクー

オオヤビコ「ほぅ、兄ちゃんわかってんじゃねぇか」


八十神A&C「……(ゴクリ」


オオヤビコ「それで、お前らはどうすんだ?梅干しはまだまだあるぞ?」



八十神A「……まぁ、一粒だけなら」ヒョイパクー
八十神C「お、俺も!」ヒョイパクー



八十神A「何だこの旨味!?これが本物の梅干しなのか!!??」

八十神B「だろ!?だろ!?」

八十神C「もう一粒……もう一粒食べたら中を検めさせてもらうからな!」ヒョイパクー

ヤソガミーズ「梅うめぇ~!!!!」



オオヤビコ(坊主、もう行ったか……?)


―――――――
――――
――


<オオヤビコ家:裏口>

オオナムチ「裏口って、たぶんここのことだよな?」

サシクニ「そうね。じゃあ早速――」

オオナムチ「手を……どうするんだっけ?」

サシクニ「忘れるの早すぎよ!いい?私の言うとおりにして!」

オオナムチ「さすが母上!オトナの魅力溢れるうえに知性にも秀でたほんまもんの女神!」

サシクニ「…///そ、それじゃあ行くわよ?手を……結んで」ギュッ!!

オオナムチ「結んで!」ギュッ!!

サシクニ「開いて」パッ

オオナムチ「開いて!」パッ

サシクニ「手を打って」パンッ!!

オオナムチ「手を打って!」パンッ!!

サシクニ「結んで」ギュッ!!

オオナムチ「結んで」ギュッ!!



―ゴゴゴゴゴゴゴッ!!



オオナムチ「おぉっ!木の股が開いた!」

サシクニ「そしたら手をうって」パンッ!!

オオナムチ「手をうって!」パンッ!!

サシクニ「その手を上に」スッ

オオナムチ「その手を上に!」スッ

サシクニ「完璧ね!このまま通り抜けるわよ!」スタスタ

オオナムチ(忘れないように歌にでもして覚えておこうかな……)スタスタ

―――――――
――――
――


<オオヤビコ家:裏庭>

―ゴゴゴゴゴゴゴッ!!

オオナムチ「おぉっ!手を下げたら股が閉じたぞ!」

サシクニ「こんな仕掛けを考えるなんて、さすが木の国の支配者オオヤビコおじさまね」

オオナムチ「それで、これからどうするんだ?」

サシクニ「そうね……おじさまのところもダメとなると、あと頼れるのは……」

オオナムチ「頼れるのは?」

サシクニ「大おじさまくらいね」

オオナムチ「大おじさまって誰だよ?聞いたことないぞ」

サシクニ「大おじさまは、黄泉比良坂の先にある“根の堅洲国”という、とても遠いところにいらっしゃるの」


オオナムチ「また長旅かぁ……」

サシクニ「えぇ。そして、申し訳ないけどそこまでは私も一緒には行けないわ」

オオナムチ「えっ!?俺一人で行くの??」

サシクニ「あなた、“母上まで一緒に来なくても~”とか言ってたじゃない!」

オオナムチ「いやぁ~、なんやかんや俺って助けてくれる女性がいないとダメな気がして……」

サシクニ「そんなのそこら辺で適当に見つけなさい」

オオナムチ「いやいや、無茶言うな!」

サシクニ「とにかく、あなたは急いで“根の堅洲国”へ向かいなさい!いいわね!?」

オオナムチ「うぅ~ん…わかったよぉ……」

―――――――
――――
――


<オオヤビコ家:裏口>

八十神A「隅々まで探したけど、見当たらないぞ?」

八十神B「もうどっかへ逃げたんじゃ……」

八十神C「おい、ここに怪しい割れ目があるぞ!」

オオヤビコ「!?」

八十神A「おっ、これはもしかして……」

オオヤビコ「ははっ、バカ言っちゃいけねぇ。そんな狭い割れ目、通れるわけねぇだろ?」

八十神B「いや、アレをやればあるいは……」

八十神C「木の国に伝わるという例のアレ、試してみるか!」

オオヤビコ「い、いやいや!やめといた方が……」



八十神A「む~す~ん~で♪」ギュッ!!

八十神B「ひ~ら~い~て♪」パッ

八十神C「手~を~うって♪」パンッ!!

八十神A「む~す~んで~♪」ギュッ!!

ヤソガミーズ「ま~たひらいて~♪」



―ゴゴゴゴゴゴゴッ!!



八十神A「やっぱり、思ったとおりだ!」

八十神B「股が開きやがった!」

八十神C「よし!手~を~うって♪」パンッ!!

ヤソガミーズ「そ~の~手~を~う~え~にぃ~~♪」スッ

八十神A「よし、通るぞ!」ダッ!!
八十神B「今ならまだ追いつくはずだ」ダッ!!
八十神C「覚悟しろよ、腹違い!」ダッ!!



―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!!!!



八十神A「うわっ、何だ何だ!?」
八十神B「木の股が閉じ始めたぞ!?」
八十神C「お前ら早く行け!このままじゃ潰される!!」



オオヤビコ「ばぁ~か、2番は“その手を下に”なんだよ(クスクス」



八十神A「……」
八十神B「……」
八十神C「……」



ヤソガミーズ「ファーwww」

―完―

【キャスト】
オオナムチ
サシクニワカヒメ
八十神
オオヤビコ

作:若布彦(脚色が激しすぎるのを気にし始めた)

・・・次のお話はこちら⇒”根の堅洲国神話/前編"

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