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[“白兎神話”の続き]
――因幡のヤガミヒメを口説きに行った帰り

八十神A「おい腹違…オオナムチ、“ももんじや”って行ったことあるか?」

オオナムチ「は?なんすか、それ?」

八十神B「まぁ、お前が両国の老舗なんて行ったことあるわけないか」

八十神C「あそこの牡丹鍋を食ったことないなんて、人生損してるよなぁ~」

オオナムチ「牡丹鍋って……ボタン(学名:Paeonia suffruticosa)なんか食ってうまいんすか?」

八十神A「ちげーよ、猪(学名:Sus scrofa)の肉のことを“牡丹”って言うんだよ。だから猪肉の鍋は“牡丹鍋”!」

オオナムチ「は?わかりづらっ!猪鍋でいいじゃないすか」

八十神B「まったくお前は“粋”ってもんがわかってねぇなぁ」

オオナムチ「いや、この時代まだ“粋”って概念すらないし」

八十神C「一説には猪の肉が牡丹みたいな綺麗な赤色だから牡丹って言うらしいんだわ」

八十神A「まぁ他の説もあるし、後世の人間が決めたことだから俺らもよく知らねぇけどな」

オオナムチ「よく知らねぇのによくそんな自信満々に語れますね。で、それがどうかしたんすか?」

八十神B「ほら、お前が見事にヤガミヒメのハートを射止めて見せただろ?」

八十神C「“誰が勝っても恨みっこ無し”、そういう約束で俺らは遥々因幡に来たんだ」

八十神A「だから、腹違いのお前が勝っても恨まない。むしろ、祝福してやろうと思ってるんだ」

オオナムチ「えぇ…にわかには信じ難いなぁ……。兄貴たち行きにも兎騙していじめてたでしょ?」

八十神B「兎?何のことだかさっぱりだな~。まぁ、とにかく話を聞けって」

八十神C「さっきも言ったとおり、猪の肉は牡丹みたいな赤色だから“牡丹”と呼ばれてる」

八十神A「あんな毛むくじゃらな外見からは想像つかないよなぁ?」

オオナムチ「まぁ、確かに外見的には牡丹って言うより藁みたいな感じっすよね」

八十神B「ところがどっこい、この近くには外見まで牡丹みたいな赤色をした猪がいるみたいなんだ!」

オオナムチ「えぇっ!?赤い猪なんているんすか!?」

八十神C「俺たちも最初聞いたときは耳を疑ったよ」

八十神A「でもな、どうやら手間山ってところにそれはもう赤くてでっかい猪がいるらしいんだよ」

オオナムチ「手間山って…大山のちょっと先あたりですよね?」

八十神B「そうそう。それでだ、お前の婚約祝いなんだけど」

八十神C「牡丹色の猪で作った牡丹鍋なんてどうだ?」

オオナムチ「そ、それは……」



オオナムチ「めっちゃうまそう……」ジュルリ

八十神A「だろぉ~?だから、これからそいつを狩りに行こうぜ!」

八十神B「帰りはちゃんと自分の荷物は自分で持つから、なっ?」

八十神C「なんなら仕留めた獲物も俺らが引きずって帰ってやるよ」

オオナムチ「えっ、マジっすか?それならちょっとくらい寄り道しても……」

八十神A「よし、決まり!手間山へ向けてしゅっぱ~つ!」

オオナムチ(なんか兄貴たちが急に優しくなったけど、ヤガミヒメとの婚約で俺の格が上がったってことかな?)



八十神B&C「……(クスクス」

―――――――
――――
――



<伯伎国/手間山:麓>

八十神A「ハァ…ハァ…よぉ~し……着いたぞ!」

八十神B「ハァ…これは…ハァ…なかなか……いい具合に草木が……茂ってるな」

八十神C「ハァ…ハァ…(パンツ重くね???)」

オオナムチ(荷物が一人分だと楽でいいなぁ~♪)

八十神A「よし、じゃあまず役割分担をしよう」

八十神B「この山の中で赤い猪を探すのはなかなか骨が折れるなぁ~」

オオナムチ「そしたら俺が探してきますよ。体力には自信ありますし」

八十神C「いやいや、腹違…オオナムチは主賓みたいなもんなんだからここで待っててくれ」

オオナムチ「えっ、でも兄貴たち疲れてそうですし……」

八十神A「いいからいいから。その代わり、猪を捕まえるのを頼むよ」

八十神B「俺らがヤツをここまで追い立てるから、そこをガッ!と受け止めて――」

八十神C「最後はチョークスリーパーで気を失わせる流れで!」

オオナムチ「いや、普通に槍で刺すとか罠に嵌めるとかでいいでしょ」

八十神A「わかってねぇなぁ、生け捕りにすることに意義があるんだよ」

八十神B「ジビエってのは上手く殺してすぐ捌かないと臭みが残って不味くなるんだぞ」

八十神C「だからまずは生け捕りにして、後で腕のいいマタギに処理してもらおうぜ」

オオナムチ「う~ん…まぁそういうことなら……」

八十神A「じゃ、そういうことで!絶対ここから動くなよ!」



八十神B&C「……(クスクス」

―――――――
――――
――



<手間山:山頂>

八十神A「へへっ、あいつ今頃どうしてるだろうな?」

八十神B「あのバカのことだから、きっと俺らの話を信じきって準備運動でもしてる頃だろうよ」

八十神C「じゃ、早速火ぃつけるぜ」シュボッ

 ・
 ・
 ・

八十神A「いい具合に、真っ赤に焼けてきたな」ニヤニヤ

八十神B「こりゃあどう見ても“赤くて大きな猪”だ」

八十神C「麓のヤツらからこの大岩の話を聞いておいて正解だったな」

八十神A「あとはこの大岩をあの生意気な腹違いのところまで転がしてやれば……」

八十神B「赤い猪が来ると思い込んでるあいつはこれを受け止めようとして……」

八十神C「全身大ヤケドなんてもんじゃ済まねぇだろうな!」

ヤソガミーズ「はっはっはっ!」


八十神A「さぁ、そろそろ転がそうぜ」

八十神B「あいつがしびれを切らして登ってきたらマズいしな」

八十神C「じゃあこの棒を大岩の下に入れて、てこの原理で……」

ヤソガミーズ「おらっ!!」ググッ!!



―グラッ

―ゴトッ!!

―ゴロゴロ

―ドドドドドドッ!!!!



ヤソガミーズ「くたばれ!腹違い!!」

―――――――
――――
――



<手間山:麓>

オオナムチ「兄貴たち遅いなぁ~。やっぱり俺が猪探した方が良かったんじゃ……」



「「「おぉ~い、腹…オオナムチ!!そっち行ったぞぉぉぉ!!!!」」」

―ドドド…



オオナムチ「おっ、ついに来たか!!」

オオナムチ「さっき居眠りしながら考えた新必殺技を試す時が来たようだな」キリッ

オオナムチ(足を開いてやや膝を落とし、空気の球を持つように構えた両腕を腰の位置に……)

オオナムチ(目を閉じ、両掌の間に気を溜めるイメージで集中しつつ腰を捩って……)



―ドドドドッ!!


―ドドドドドドッ!!!!


―ドドドドドドドドドッ!!!!!!



オオナムチ(音が近付いてきた……今だっ!!)カッ!!

オオナムチ「喰らえ、必殺・ゴッド――」


―ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!!


オオナムチ(あっ、これどう見ても猪じゃないヤツ……)

 ・
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八十神A「やったか……?」

八十神B「おい、変なフラグ建てるなよ!」

八十神C「いや、大丈夫だ。見てみろよ」



オオナムチ「……(死~ん」



八十神A「うわぁ~、こりゃひでぇや!」

八十神B「読者の皆様にお見せできないのが残念だぜ」

八十神C「全身大ヤケドどころか、ペシャンコじゃねぇか!」


ヤソガミーズ「ざまぁみろ!はっはっはっ!」

―――――――
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――



<出雲>

八十神A「オヤジぃ~、今帰ったぞぉ~!」

八十神B「いやぁ~、長旅だったぜ」

サシクニワカヒメ「あら、皆さんお帰りなさい」

八十神C「チッ、てめぇしかいねぇのかよ」

サシクニ「あいにく他の方々は出払っていて……。ところで、オオナムチの姿が見えないようだけれど?」

八十神A「あぁ、出来の悪いあんたの息子なら途中で死んだぜ?」ニヤニヤ

サシクニ「!?」

八十神B「手間山の麓で、落石にぶつかってなぁ~」ニヤニヤ

八十神C「いやぁ~、不運な事故だった」ニヤニヤ

サシクニ「そ、そんな……」

八十神A「一人息子も死んだことだし、あんたもとっとと出てったらどうだ?」

八十神B「確かに、そうしてくれた方が俺らの母ちゃんの機嫌も良くなるしな!」

八十神C「じゃ、そういうことで。荷物まとめとけよ~」

サシクニ「……」

サシクニ(この子たち……まさか……)



サシクニ「…!!」ダッ!!

ヤソガミーズ「……(クスクス」

―――――――
――――
――



<高天原>

サシクニ「ハァ…ハァ……やっと着いた」

サシクニ「ここが高天原……私たちを生んだ天津神の住むところ」

???「誰ですの?」

サシクニ「!?」

???「ここに何をしに来たですの?」

サシクニ「えぇと……あなた方は天津神様でしょうか?」

???「そうですの。きぃはここに住んでいるですの」
???「うーも同じくですの」

サシクニ「私はサシクニワカヒメと申します。カムムスヒノカミ様にお会いしたいのですが……」

きぃ「パパ上様にご用事ですの?」
うー「それならついてくるですの。ママ上様はこちらですの」

サシクニ「あ、ありがとうございます」

サシクニ(パパ上……?ママ上……?)

 ・
 ・
 ・

きぃ「パパ上様!お客神ですの!」
うー「ママ上様にご用事らしいですの!」

サシクニ「あ、あの!私――」

カムムスヒ「知っているよ、サシクニワカヒメだろう?そこに掛けなさい」

カムムスヒ「お前たち、お客様にお茶をお出しして差し上げなさい」

きぃ&うー「はいですの!」テテテ

カムムスヒ「さて、何か私に聞きたそうだね?まずは、“なぜ自分の名を知っているのか”といったところかな?」

サシクニ「は、はい……。失礼ながら、初対面ではなかったでしょうか?」

カムムスヒ「フフッ…私は“神産巣日神”、神々の御祖(みおや)たる存在だ。私からすれば、君も我が子のようなものだよ。名前くらい知っているさ」

サシクニ「つまり、あなた様は私のもう一柱の父上……いえ、母上ということでしょうか?」

カムムスヒ「どちらでもあるし、どちらでもないよ。父でも母でも、好きに呼べばいい。あの子たちもそうしている」

サシクニ「では……カムムスヒ様」

カムムスヒ「うむ、それが無難だな」

サシクニ「折り入ってお願いがあります」

カムムスヒ「オオナムチを生き返らせたい、と?」

サシクニ「!?」

サシクニ「カムムスヒ様は本当に何でもお見通しなのですね」

カムムスヒ「何でもではないさ。私にわかるのは、知っていることだけだよ」

カムムスヒ「たまたま、オオナムチが八十神たちに殺されるのを見ていただけさ」

サシクニ「やっぱり……。それで、何か手立てはありませんか?」

カムムスヒ「そうだね――」



きぃ「お茶が入ったですの!」テテテ
うー「お茶菓子もあるですの!」テテテ

カムムスヒ「ありがとう、よくできたね」

きぃ「このくらい朝飯前ですの!」
うー「赤子の手をひねるより簡単ですの!」

カムムスヒ「そうかい。それならもう少し大変な仕事を任せてもいいかな?」

きぃ「もちろんですの!」
うー「うーたち、お仕事大好きですの!」

カムムスヒ「では、そこの女神と一緒に葦原の中つ国に降りてきてくれるかい?」

サシクニ「えっ!?」

きぃ「降りるだけですの?」
うー「降りて何かするですの?」

カムムスヒ「この女神の息子が大けがをして大変らしいんだ。助けてやってくれないか?」

きぃ「なんだ、そんなことですの?」
うー「お安い御用ですの!」

サシクニ「良いのですか!?」

カムムスヒ「ああ。実を言うと、私も彼のこれからには興味があってね」

カムムスヒ「この子たちは“キサガイヒメ”と“ウムガイヒメ”。きっと君の役に立つよ」

きぃ「きぃと呼ぶですの!」
うー「うーと呼ぶですの!」

サシクニ「あ、ありがとうございます!!」

カムムスヒ「では、早くオオナムチのところに向かっておやり。そこの小道を手間山まで繋げよう」

サシクニ「何から何まで……何とお礼を言えば良いのやら……」

カムムスヒ「礼などいらぬよ。君はオオナムチに何かしてやって、礼を求めるのかい?」

サシクニ「いいえ……」

カムムスヒ「それと同じさ、君も私の愛する子なのだから。ほら、早くお行き」

サシクニ「……はい!行ってまいります!」

きぃ&うー「しゅっぱ~つ!ですの!」

―――――――
――――
――


<手間山:麓>

きぃ「着いたですの!」
うー「中つ国はムシムシするの~」

サシクニ(こんなに早く中つ国に着くなんて、カムムスヒ様は一体何をなさったのかしら……?)

サシクニ「あっ、あれは!!」ダッ!!



オオナムチ「……(死~ん」

サシクニ「あぁ、オオナムチ!どうしてこんな酷い目に……」

きぃ「ペシャンコですの!」
うー「皮もズル剥けですの!」

サシクニ「キサガ……きぃ様、うー様、この子を助けることはできますか?」

きぃ「もちろんですの!」
うー「楽勝ですの!」

サシクニ「本当ですか!?一体どうやって……?」

きぃ「まぁまぁ待つですの~。まずは赤貝の殻を削って粉にして……」ゴリゴリ
うー「お湯を沸かして蛤を煮て……」グツグツ

きぃ「貝殻の粉を集めて……」
うー「煮汁で溶けば……」

きぃ「完成ですの!」
うー「“ママ上様の乳汁”ですの!」

サシクニ(えっ!?カムムスヒ様って母乳出るの!?)

きぃ「これを全身にぬりぬりすれば……」ヌリヌリ
うー「どんな大けがもたちどころに……」ヌリヌリ

 ・
 ・
 ・

オオナムチ「ぅ…ぅぅ……」

サシクニ「オオナムチ!!」

きぃ「治ったの!」
うー「さすが“ママ上様の乳汁”ですの!」

サシクニ「お二方とも、本当にありがとうございます!このご恩は一生忘れません!」

きぃ「お礼ならパパ上様に言うですの!」
うー「でもママ上様はお礼はいらないと言っていたの!だからいらないの!」

きぃ「それじゃあきぃたちはパパ上様のところに戻るの!」
うー「残った“ママ上様の乳汁”はあげるの!」

きぃ&うー「それじゃあまたですの~!」



オオナムチ「ん、あれ?俺は一体何を……」

サシクニ「あぁ、オオナムチ!良かった!!本当に良かった!!!」

オオナムチ「母上?どうしてここに??」

サシクニ「あなたを迎えに来たのですよ」

オオナムチ「迎えにって……兄貴たちは?」

サシクニ(“その兄たちにあなたは殺された”なんて言うのは残酷よね……)

サシクニ「詳しい話はまた後で。まずは家に帰りましょう?」

オオナムチ「そうだな、なんだか腹が減って仕方ないや」

サシクニ(帰ったらこの子を救う手立てを考えなくては……)

―――――――
――――
――



<出雲>

八十神A「おいおい、ヤガミヒメに手紙書こうぜ!」

八十神B「“オオナムチは死にました”って?そりゃあいい!」

八十神C「そんで、今度こそ俺らの中から誰か選んでもらおうぜ!」

八十神A「よし、そうと決まったら早速準備だ!」

オオナムチ「ただいま~」

八十神B「おぅ腹違い、ペン持って来い!あと便箋と封筒と……切手も!」

オオナムチ「はぁ?珍しく手紙なんか書くんすか?誰に?」

八十神C「ヤガミヒメだよ!お前が死んだって知らせてやらねぇと……」

オオナムチ「死んだ?俺が???……何の冗談すか?」



八十神A「……」
八十神B「……」
八十神C「……」



ヤソガミーズ「ファーwww」

―完―

【キャスト】
オオナムチ
八十神
サシクニワカヒメ
カムムスヒ(パパ上様/ママ上様)
きぃちゃん
うーちゃん

作:若布彦(手間山の麓の“赤猪岩神社”にもいつか行ってみたい)

・・・次のお話はこちら⇒”木の国神話

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