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[一応“玉依毘売神話”の続き]
――重大なことに気付いてしまったカムヤマトイワレビコが高千穂の宮から旅立つお話
<高千穂の宮>
カムヤマトイワレビコ「なぁ兄者、聞いてくれ」
イツセ「ん?どうかしたか、ワカミケヌ?」
イワレビコ「兄者、それは昔の名だ。今は“カムヤマトイワレビコ”と名乗っている」
イツセ「あぁ~、悪い悪い」
イツセ「それで、何かコペルニクス的転回でも思いついたのか?」
イワレビコ「いや、そこまでではないのだが……」
イツセ「じゃあどのくらいのレベルだ?コロンブスの卵か?」
イワレビコ「本当に“電車に乗ったところで今日の服装がダサいことに気付いた”程度の些細な話なのだが……」
イツセ「それはわりとよくあるけど重大なヤツだぞ……」
イワレビコ「もしかして、日向はド田舎なのではないか……?」
イツセ「!?」ズガーン!!
イツセ「そ、その発想は無かった……」
イツセ「一体なぜそう思ったんだ……?」
イワレビコ「実は、先日天下を平穏に治めるために、世のトレンドを知ろうと思ったのだが……」
イツセ「なるほど、統治者として世の中の動向を知るのは大切だな」
イワレビコ「ここは民放が2局しか映らないのだ……」
イツセ「何っ!?民放が2局ってのは全国共通じゃないのか??」
イワレビコ「いや、どうやら他の地域では普通に5~6局は映るらしい……」
イツセ「なん……だと……!?」
イワレビコ「なので、ここでは見られない番組も多いし、見られても2~3週遅れだ」
イツセ「低いっ……!!情報の鮮度が低すぎるっ……!!」
イワレビコ「こんなところにいては、世の中の流れから取り残されてしまう」
イツセ「日の神の御子としてこの国を治めるべき俺たちが時代遅れってのはマズいな……」
イワレビコ「一体どこに行けば天下を平穏に治めることができるだろうか……?」
イツセ「う~ん……お前はどう思うんだ?」
イワレビコ「私としては、やはりもっと東に行くべきだと思う」
イツセ「東かぁ~……。具体的にどの辺り??」
イワレビコ「いや、それは実際に行ってみないことには何とも……」
イツセ「まぁ、それもそうか」
イツセ「それじゃ、適当にいろんなところへ寄りながら、少しずつ東を目指すとしよう!」
イワレビコ「うむ、それがいい!」
イツセ「そしたら、まずは陸伝いに北上して、筑紫から本州に渡らないとな」
イワレビコ「わかった。では早速、筑紫国へ向けて出発だ!」
―――――――
――――
――
<豊後・宇沙>
――ザパーン!!
――ザパーン!!
サオネツヒコ「さぁ、着きやしたよ。ここが宇沙の港でさぁ」
イツセ「おぅ!案内ご苦労さん、サオネツヒコ!」
サオネツヒコ「ここらの海はあっしにとっちゃ庭みたいなもんですから、お安い御用ですよ」
イワレビコ「それにしても船旅は疲れるな……どこか宿を探そう」
イツセ「そうだな。えぇ~っと、適当なビジホか民宿は――」
???「お待ちしておりました、日の神の御子様!」
???「本日はどうぞ、私どものところへお泊りください!」
イツセ「ん?何だ、お前らは??」
???「私はこの地の住人で、ウサツヒコと申します」
???「そして私はウサツヒメと申します」
ウサツヒコ「あなた様方をお泊めするために、足一騰宮(あしひとつあがりのみや)を造ってお待ちしておりました」
ウサツヒメ「ご馳走もたっぷりご用意してございます!」
イツセ「えぇっ!?なんか不自然なほど準備万端だな……」
イワレビコ「そもそも、お主らはなぜ我々が日の神の御子だと知っているのだ?」
ウサツヒコ「それはもう、あなた様方が旅に出られたことはこちらでも連日のように報道されておりましたゆえ!」
ウサツヒメ「この地の民放3局ともあなた様方の話題で持ち切りでしたよ!」
イツセ「民放が……3局……だと……!?」
イワレビコ「ほ、本当にこの地には民放が3局もあるのか!?」
ウサツヒコ「えぇ、ございます!」
ウサツヒメ「もちろん、私どもの宮へ来ていただければ3局とも見放題!」
ウサツヒコ「さぁ、いかがです?」ニヤリ
ウサツヒメ「悪い話ではないと思いますが……」ニヤリ
イツセ&イワレビコ「……」ゴクリ
イツセ「せっかくの好意だ。断るのは申し訳ないよな?」
イワレビコ「兄者がそう言うなら、私は構わんぞ」
ウサツヒコ「では、決まりということで!」
ウサツヒメ「どうぞこちらへ!」スタスタ
イツセ&イワレビコ「……」スタスタ
イツセ&イワレビコ(うおぉぉぉ!テレビ見るぞぉぉぉ!!!!)
―――――――
――――
――
<めっちゃ後日:吉備・高島宮>
イツセ「なんだかんだで、ここに来てもう8年も経つのかぁ~」
イワレビコ「行く先々に長居してしまって、なかなか東に進まないな……」
サオネツヒコ「まぁ、どこもいいところでしたからねぇ~」
イツセ「最初に寄った宇沙にはどのくらいいたんだっけか?」
イワレビコ「それは私も覚えていないな……。次に寄った筑前の岡田宮(おかだのみや)は1年程度だったと思うが……」
サオネツヒコ「そっから安芸までわりとすんなり移動しやしたね」
イツセ「でも安芸に着いてからが長かったんだよなぁ~……」
イワレビコ「結局、安芸の多祁理宮(たけりのみや)で7年も過ごしてしまった……」
サオネツヒコ「あのお好み焼きはうまかったですからねぇ~……」
イツセ「で、ここ高島宮(たかしまのみや)で8年か……」
イワレビコ「さすがに長すぎだな……やはりそろそろ移動しよう」
イツセ「そうだな。天下を平穏に治めるのに、大都会岡山はなんかこう……大都会すぎる」
イワレビコ「ならば善は急げだ!今日中に出発するぞ!」
イツセ「よし!そうと決まったら、急いで荷物をまとめなきゃな!」
サオネツヒコ「そんなら、あっしは船の準備でもしてきまさぁ!」
イツセ「おぅ!頼んだぞ!」
サオネツヒコ「任してください!」
イワレビコ「……」
イワレビコ「なぁ兄者、今さら言うのもなんなのだが……」
イツセ「ん?どうした、イワレビコ??」
イワレビコ「そのいつの間にかしれっと混ざってるそいつは一体誰だ!?」
サオネツヒコ「えぇっ!?」ガーン!!
イツセ「誰って……サオネツヒコはサオネツヒコだろ?何言ってんだ、お前??」
イワレビコ「そんなキャラいつ出てきたんだ??」
イツセ「宇沙のときにはもういたぞ。よく読み返せ」
イワレビコ「まぁ、確かにセリフはあるが……登場シーンが無いだろう?」
サオネツヒコ「旦那……あっしとの出会い、忘れちまったんですか!?」
イツセ「旅の仲間との出会いを忘れるなんて、薄情なヤツだなぁ~」
イワレビコ「いや、全く描写されていないものは忘れるも何も……」
イツセ「しょうがない。そういうことなら特別に、回想シーン入れてやろう」
イツセ「そう、あれは高千穂の宮を出てすぐのこと――」
―――――――
――――
――
<回想:速吸門(豊予海峡)>
――ゴゴーーーッ!!
――グラッ!!
イツセ「うおっ……とっとっ!潮が速くて結構揺れるなぁ……」
イツセ「イワレビコ!船から落っこちないようにしっかり掴まってろよ!」
イワレビコ「いや、それは大丈夫なのだが……」
イワレビコ「なぜ筑紫へ行くのにわざわざ船に乗るのだ?陸路の方が早いのでは?」
イツセ「それはそうかもしれないけど、本州に渡るには結局船がいるだろ?」
イワレビコ「船くらい筑紫で現地調達すれば事足りるではないか」
イツセ「バカ!それで不良品でも掴まされたらどうする?」
イワレビコ「いや、まともなところから買えば大丈夫だと思うが……」
イツセ「ダメだ!この “東征丸”よりイカした船が筑紫で手に入るはずないからな!」
イワレビコ「要するに、ただこの船のデザインが気に入っただけなのか……」
イツセ「それだけじゃないわ!日向製の船は他のどこにも負けない高性能――」
――ゴゴーーーッ!!
――グラッ!!
イツセ「うおっ……とっとっ!」
イワレビコ「高性能な割にはさっきから安定しなさすぎるぞ、兄者!」
イツセ「こ、これは速吸門(はやすいのと)の潮流が速すぎるんだ!東征丸じゃなきゃ転覆してるところだぞ!」
???「「お~~~~い!!」」
イツセ「……ん?」ピクッ
イワレビコ「今、どこかから声がしたような……」
???「「そこの旦那たち~~~~!!」」
イツセ「あっ!」
イツセ「おい、イワレビコ!あそこ見てみろ!!」
イワレビコ「むっ?あ……あれはっ!!」
イワレビコ「亀の甲羅に乗って釣りをしながら、手を振って近付いてくる者がいる!?」
イワレビコ「自分で言っておいてなんだが、状況が飲み込めん……」
イツセ「安心しろ、俺にもわからん……」
イワレビコ「我々は急流に四苦八苦しているのに、なぜあの者は呑気に亀に乗っているんだ……?」
イツセ「って言うか、そもそも亀って乗れるものなのか……?」
イワレビコ「まぁ、ひとまず話を聞いてみるとしよう」
イワレビコ「「そこの者~~!もっとこちらへ来~~い!!」」
???「「そのつもりですが、亀の速度じゃこれが限界なんです~~~~!!」」
???「「追いつくまでもうちっと待ってくだせ~~~~い!!」」
・
・
・
・
・
???「いや~、ようやく追いつきましたわ」
イワレビコ「早速だが、お主は一体何者なのだ?」
???「あっしは、ここの国津神でさぁ」
イワレビコ「なるほど。ならばこの近辺の海の道は知っているか?」
???「そりゃもう、よ~く存じておりますとも」
???「ここらは潮が速いんで、正しい道を通らないと流されたり、転覆しちまったりするんです」
イツセ「まさしく今、俺らもその危機に瀕してたところだよ……」
イワレビコ「ではお主、我々の案内役として仕える気はないか?」
???「もちろん、喜んでお仕えしましょう!」
イワレビコ「そうか!それは助かる!」
イツセ「それにしても、あっさり従うなんてずいぶん従順なヤツだな」
???「いや~、だって旦那たち日向の日の神の御子様でしょう?」
イワレビコ「む?なぜそれを??」
???「そりゃあ、こんなイカした船、日の神の御子様にしか乗りこなせませんからねぇ!」
イツセ「おっ!お前、東征丸の良さがわかるのか!?」
???「東征丸!?こりゃまた名前まで素晴らしい!」
???「こんな完璧な船をお持ちのお方にお仕えできるなら、光栄でさぁ!」
イツセ「よし、気に入った!イワレビコ、早くこいつを船に乗せよう!」
イワレビコ「そうだな。では、引っ張り上げるロープを……」
イツセ「そんなもん使わなくても、そこの竿でいいだろ?」
イワレビコ「竿……?綱渡りならぬ竿渡りか。さすがに危険では……?」
???「大丈夫ですよ。あっし、バランス感覚には自信ありますんで!」
イワレビコ「そうか。では、これを使え!」スッ
???「こりゃどうも!」
???「よっ……ほっ……」スイスイー
――タンッ
???「着地……じゃなくて着船成功です!」
イワレビコ「おぉ!よくあの細い竿を渡り切ったな!」
イツセ「ようこそ、我らが東征丸へ!」
???「いや~、これからどうぞよろしくお願ぇします!」
イワレビコ「こちらこそよろしく頼む。申し遅れたが、私はカムヤマトイワレビコだ」
イツセ「俺はこいつの兄のイツセだよ。よろしくな、“サオネツヒコ”!」
???「“サオネツヒコ”……?」
イツセ「竿を渡して引き入れたから、“サオネツヒコ”!いい名だろ?」
イワレビコ「……兄者、この者にも親から授かった名があるはずだ。適当な名を付けるな」
イツセ「そうか?親しみの証として名前を付けるくらいアリだと思うけどなぁ~」
サオネツヒコ「イツセ様のおっしゃるとおりでさぁ!“サオネツヒコ”、あっしも気に入りやした!」
イツセ「ほら、本人もこう言ってるし、もうサオネツヒコってことでいいだろ?」
イワレビコ「まぁ、本人が良いなら構わんのだが……」
サオネツヒコ「それじゃ、早速船を動かしますんで、しっかり掴まっててくだせぇ!」
イツセ「おう!頼んだぞ、サオネツヒコ!」
―――――――
――――
――
<高島宮>
イツセ「ってことがあっただろ?」
サオネツヒコ「懐かしいですねぇ~」
イワレビコ「いや、やはり初耳だが……まぁそこまではいいとしよう」
イワレビコ「サオネツヒコは速吸門の案内役として仲間にしたのだよな?」
イツセ「おぅ、そういうことだ」
イワレビコ「それをわざわざここまで同行させる必要はあったのか……?」
イツセ「いや、こいついいヤツだし、ゆくゆくは大和国造でも任せようと思って」
サオネツヒコ「えぇっ!?そんな大役いただいていいんですかぃ!?」
イワレビコ「兄者……そんなにサオネツヒコが気に入ったのか……」
イワレビコ「ところで、なぜわざわざ日向や豊後ではなく大和国造なのだ??」
イツセ「いや、だって神武東征のゴール地点って言ったら大和だろ?そしたら自然にそうなるじゃん」
イワレビコ「兄者……しれっとネタバレするのはやめてくれ……」
―完―
【キャスト】
・カムヤマトイワレビコ
・イツセ
・サオネツヒコ
・ウサツヒコ
・ウサツヒメ
作:若布彦(思い出したように速吸門の話を後付けしてくるのは古事記の仕様です)
・・・次のお話はこちら⇒“神武東征神話②”
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[一応“玉依毘売神話”の続き]
――重大なことに気付いてしまったカムヤマトイワレビコが高千穂の宮から旅立つお話
<高千穂の宮>
カムヤマトイワレビコ「なぁ兄者、聞いてくれ」
イツセ「ん?どうかしたか、ワカミケヌ?」
イワレビコ「兄者、それは昔の名だ。今は“カムヤマトイワレビコ”と名乗っている」
イツセ「あぁ~、悪い悪い」
イツセ「それで、何かコペルニクス的転回でも思いついたのか?」
イワレビコ「いや、そこまでではないのだが……」
イツセ「じゃあどのくらいのレベルだ?コロンブスの卵か?」
イワレビコ「本当に“電車に乗ったところで今日の服装がダサいことに気付いた”程度の些細な話なのだが……」
イツセ「それはわりとよくあるけど重大なヤツだぞ……」
イワレビコ「もしかして、日向はド田舎なのではないか……?」
イツセ「!?」ズガーン!!
イツセ「そ、その発想は無かった……」
イツセ「一体なぜそう思ったんだ……?」
イワレビコ「実は、先日天下を平穏に治めるために、世のトレンドを知ろうと思ったのだが……」
イツセ「なるほど、統治者として世の中の動向を知るのは大切だな」
イワレビコ「ここは民放が2局しか映らないのだ……」
イツセ「何っ!?民放が2局ってのは全国共通じゃないのか??」
イワレビコ「いや、どうやら他の地域では普通に5~6局は映るらしい……」
イツセ「なん……だと……!?」
イワレビコ「なので、ここでは見られない番組も多いし、見られても2~3週遅れだ」
イツセ「低いっ……!!情報の鮮度が低すぎるっ……!!」
イワレビコ「こんなところにいては、世の中の流れから取り残されてしまう」
イツセ「日の神の御子としてこの国を治めるべき俺たちが時代遅れってのはマズいな……」
イワレビコ「一体どこに行けば天下を平穏に治めることができるだろうか……?」
イツセ「う~ん……お前はどう思うんだ?」
イワレビコ「私としては、やはりもっと東に行くべきだと思う」
イツセ「東かぁ~……。具体的にどの辺り??」
イワレビコ「いや、それは実際に行ってみないことには何とも……」
イツセ「まぁ、それもそうか」
イツセ「それじゃ、適当にいろんなところへ寄りながら、少しずつ東を目指すとしよう!」
イワレビコ「うむ、それがいい!」
イツセ「そしたら、まずは陸伝いに北上して、筑紫から本州に渡らないとな」
イワレビコ「わかった。では早速、筑紫国へ向けて出発だ!」
―――――――
――――
――
<豊後・宇沙>
――ザパーン!!
――ザパーン!!
サオネツヒコ「さぁ、着きやしたよ。ここが宇沙の港でさぁ」
イツセ「おぅ!案内ご苦労さん、サオネツヒコ!」
サオネツヒコ「ここらの海はあっしにとっちゃ庭みたいなもんですから、お安い御用ですよ」
イワレビコ「それにしても船旅は疲れるな……どこか宿を探そう」
イツセ「そうだな。えぇ~っと、適当なビジホか民宿は――」
???「お待ちしておりました、日の神の御子様!」
???「本日はどうぞ、私どものところへお泊りください!」
イツセ「ん?何だ、お前らは??」
???「私はこの地の住人で、ウサツヒコと申します」
???「そして私はウサツヒメと申します」
ウサツヒコ「あなた様方をお泊めするために、足一騰宮(あしひとつあがりのみや)を造ってお待ちしておりました」
ウサツヒメ「ご馳走もたっぷりご用意してございます!」
イツセ「えぇっ!?なんか不自然なほど準備万端だな……」
イワレビコ「そもそも、お主らはなぜ我々が日の神の御子だと知っているのだ?」
ウサツヒコ「それはもう、あなた様方が旅に出られたことはこちらでも連日のように報道されておりましたゆえ!」
ウサツヒメ「この地の民放3局ともあなた様方の話題で持ち切りでしたよ!」
イツセ「民放が……3局……だと……!?」
イワレビコ「ほ、本当にこの地には民放が3局もあるのか!?」
ウサツヒコ「えぇ、ございます!」
ウサツヒメ「もちろん、私どもの宮へ来ていただければ3局とも見放題!」
ウサツヒコ「さぁ、いかがです?」ニヤリ
ウサツヒメ「悪い話ではないと思いますが……」ニヤリ
イツセ&イワレビコ「……」ゴクリ
イツセ「せっかくの好意だ。断るのは申し訳ないよな?」
イワレビコ「兄者がそう言うなら、私は構わんぞ」
ウサツヒコ「では、決まりということで!」
ウサツヒメ「どうぞこちらへ!」スタスタ
イツセ&イワレビコ「……」スタスタ
イツセ&イワレビコ(うおぉぉぉ!テレビ見るぞぉぉぉ!!!!)
―――――――
――――
――
<めっちゃ後日:吉備・高島宮>
イツセ「なんだかんだで、ここに来てもう8年も経つのかぁ~」
イワレビコ「行く先々に長居してしまって、なかなか東に進まないな……」
サオネツヒコ「まぁ、どこもいいところでしたからねぇ~」
イツセ「最初に寄った宇沙にはどのくらいいたんだっけか?」
イワレビコ「それは私も覚えていないな……。次に寄った筑前の岡田宮(おかだのみや)は1年程度だったと思うが……」
サオネツヒコ「そっから安芸までわりとすんなり移動しやしたね」
イツセ「でも安芸に着いてからが長かったんだよなぁ~……」
イワレビコ「結局、安芸の多祁理宮(たけりのみや)で7年も過ごしてしまった……」
サオネツヒコ「あのお好み焼きはうまかったですからねぇ~……」
イツセ「で、ここ高島宮(たかしまのみや)で8年か……」
イワレビコ「さすがに長すぎだな……やはりそろそろ移動しよう」
イツセ「そうだな。天下を平穏に治めるのに、大都会岡山はなんかこう……大都会すぎる」
イワレビコ「ならば善は急げだ!今日中に出発するぞ!」
イツセ「よし!そうと決まったら、急いで荷物をまとめなきゃな!」
サオネツヒコ「そんなら、あっしは船の準備でもしてきまさぁ!」
イツセ「おぅ!頼んだぞ!」
サオネツヒコ「任してください!」
イワレビコ「……」
イワレビコ「なぁ兄者、今さら言うのもなんなのだが……」
イツセ「ん?どうした、イワレビコ??」
イワレビコ「そのいつの間にかしれっと混ざってるそいつは一体誰だ!?」
サオネツヒコ「えぇっ!?」ガーン!!
イツセ「誰って……サオネツヒコはサオネツヒコだろ?何言ってんだ、お前??」
イワレビコ「そんなキャラいつ出てきたんだ??」
イツセ「宇沙のときにはもういたぞ。よく読み返せ」
イワレビコ「まぁ、確かにセリフはあるが……登場シーンが無いだろう?」
サオネツヒコ「旦那……あっしとの出会い、忘れちまったんですか!?」
イツセ「旅の仲間との出会いを忘れるなんて、薄情なヤツだなぁ~」
イワレビコ「いや、全く描写されていないものは忘れるも何も……」
イツセ「しょうがない。そういうことなら特別に、回想シーン入れてやろう」
イツセ「そう、あれは高千穂の宮を出てすぐのこと――」
―――――――
――――
――
<回想:速吸門(豊予海峡)>
――ゴゴーーーッ!!
――グラッ!!
イツセ「うおっ……とっとっ!潮が速くて結構揺れるなぁ……」
イツセ「イワレビコ!船から落っこちないようにしっかり掴まってろよ!」
イワレビコ「いや、それは大丈夫なのだが……」
イワレビコ「なぜ筑紫へ行くのにわざわざ船に乗るのだ?陸路の方が早いのでは?」
イツセ「それはそうかもしれないけど、本州に渡るには結局船がいるだろ?」
イワレビコ「船くらい筑紫で現地調達すれば事足りるではないか」
イツセ「バカ!それで不良品でも掴まされたらどうする?」
イワレビコ「いや、まともなところから買えば大丈夫だと思うが……」
イツセ「ダメだ!この “東征丸”よりイカした船が筑紫で手に入るはずないからな!」
イワレビコ「要するに、ただこの船のデザインが気に入っただけなのか……」
イツセ「それだけじゃないわ!日向製の船は他のどこにも負けない高性能――」
――ゴゴーーーッ!!
――グラッ!!
イツセ「うおっ……とっとっ!」
イワレビコ「高性能な割にはさっきから安定しなさすぎるぞ、兄者!」
イツセ「こ、これは速吸門(はやすいのと)の潮流が速すぎるんだ!東征丸じゃなきゃ転覆してるところだぞ!」
???「「お~~~~い!!」」
イツセ「……ん?」ピクッ
イワレビコ「今、どこかから声がしたような……」
???「「そこの旦那たち~~~~!!」」
イツセ「あっ!」
イツセ「おい、イワレビコ!あそこ見てみろ!!」
イワレビコ「むっ?あ……あれはっ!!」
イワレビコ「亀の甲羅に乗って釣りをしながら、手を振って近付いてくる者がいる!?」
イワレビコ「自分で言っておいてなんだが、状況が飲み込めん……」
イツセ「安心しろ、俺にもわからん……」
イワレビコ「我々は急流に四苦八苦しているのに、なぜあの者は呑気に亀に乗っているんだ……?」
イツセ「って言うか、そもそも亀って乗れるものなのか……?」
イワレビコ「まぁ、ひとまず話を聞いてみるとしよう」
イワレビコ「「そこの者~~!もっとこちらへ来~~い!!」」
???「「そのつもりですが、亀の速度じゃこれが限界なんです~~~~!!」」
???「「追いつくまでもうちっと待ってくだせ~~~~い!!」」
・
・
・
・
・
???「いや~、ようやく追いつきましたわ」
イワレビコ「早速だが、お主は一体何者なのだ?」
???「あっしは、ここの国津神でさぁ」
イワレビコ「なるほど。ならばこの近辺の海の道は知っているか?」
???「そりゃもう、よ~く存じておりますとも」
???「ここらは潮が速いんで、正しい道を通らないと流されたり、転覆しちまったりするんです」
イツセ「まさしく今、俺らもその危機に瀕してたところだよ……」
イワレビコ「ではお主、我々の案内役として仕える気はないか?」
???「もちろん、喜んでお仕えしましょう!」
イワレビコ「そうか!それは助かる!」
イツセ「それにしても、あっさり従うなんてずいぶん従順なヤツだな」
???「いや~、だって旦那たち日向の日の神の御子様でしょう?」
イワレビコ「む?なぜそれを??」
???「そりゃあ、こんなイカした船、日の神の御子様にしか乗りこなせませんからねぇ!」
イツセ「おっ!お前、東征丸の良さがわかるのか!?」
???「東征丸!?こりゃまた名前まで素晴らしい!」
???「こんな完璧な船をお持ちのお方にお仕えできるなら、光栄でさぁ!」
イツセ「よし、気に入った!イワレビコ、早くこいつを船に乗せよう!」
イワレビコ「そうだな。では、引っ張り上げるロープを……」
イツセ「そんなもん使わなくても、そこの竿でいいだろ?」
イワレビコ「竿……?綱渡りならぬ竿渡りか。さすがに危険では……?」
???「大丈夫ですよ。あっし、バランス感覚には自信ありますんで!」
イワレビコ「そうか。では、これを使え!」スッ
???「こりゃどうも!」
???「よっ……ほっ……」スイスイー
――タンッ
???「着地……じゃなくて着船成功です!」
イワレビコ「おぉ!よくあの細い竿を渡り切ったな!」
イツセ「ようこそ、我らが東征丸へ!」
???「いや~、これからどうぞよろしくお願ぇします!」
イワレビコ「こちらこそよろしく頼む。申し遅れたが、私はカムヤマトイワレビコだ」
イツセ「俺はこいつの兄のイツセだよ。よろしくな、“サオネツヒコ”!」
???「“サオネツヒコ”……?」
イツセ「竿を渡して引き入れたから、“サオネツヒコ”!いい名だろ?」
イワレビコ「……兄者、この者にも親から授かった名があるはずだ。適当な名を付けるな」
イツセ「そうか?親しみの証として名前を付けるくらいアリだと思うけどなぁ~」
サオネツヒコ「イツセ様のおっしゃるとおりでさぁ!“サオネツヒコ”、あっしも気に入りやした!」
イツセ「ほら、本人もこう言ってるし、もうサオネツヒコってことでいいだろ?」
イワレビコ「まぁ、本人が良いなら構わんのだが……」
サオネツヒコ「それじゃ、早速船を動かしますんで、しっかり掴まっててくだせぇ!」
イツセ「おう!頼んだぞ、サオネツヒコ!」
―――――――
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――
<高島宮>
イツセ「ってことがあっただろ?」
サオネツヒコ「懐かしいですねぇ~」
イワレビコ「いや、やはり初耳だが……まぁそこまではいいとしよう」
イワレビコ「サオネツヒコは速吸門の案内役として仲間にしたのだよな?」
イツセ「おぅ、そういうことだ」
イワレビコ「それをわざわざここまで同行させる必要はあったのか……?」
イツセ「いや、こいついいヤツだし、ゆくゆくは大和国造でも任せようと思って」
サオネツヒコ「えぇっ!?そんな大役いただいていいんですかぃ!?」
イワレビコ「兄者……そんなにサオネツヒコが気に入ったのか……」
イワレビコ「ところで、なぜわざわざ日向や豊後ではなく大和国造なのだ??」
イツセ「いや、だって神武東征のゴール地点って言ったら大和だろ?そしたら自然にそうなるじゃん」
イワレビコ「兄者……しれっとネタバレするのはやめてくれ……」
―完―
【キャスト】
・カムヤマトイワレビコ
・イツセ
・サオネツヒコ
・ウサツヒコ
・ウサツヒメ
作:若布彦(思い出したように速吸門の話を後付けしてくるのは古事記の仕様です)
・・・次のお話はこちら⇒“神武東征神話②”
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