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[“豊玉毘売神話”の続き]
――トヨタマビメの代わりに上つ国へ行くことになった妹ちゃんのお話


<ワタツミの宮>

トヨタマビメ「うぅ~……ヨリちゃん聞いてぇぇ~、ホオリ様ったられぇぇ~……ヒック!!」

タマヨリビメ「またその話ですか?もう聞き飽きましたよ、姉さま……」

トヨタマ「らってホオリ様がぁぁ~……ヒック!!」

タマヨリ「はいはい。ワニの姿を見られて恥ずかしかったんですよね?」

トヨタマ「ぅん……見らいれって言ったろにぃ……ヒック!!」

タマヨリ「だからって毎晩べろんべろんになるまでやけ酒を呷って愚痴るのはやめてください」

トヨタマ「れもぉぉ~……恨めしいろぉぉぉぉぉ!!……ヒック!!」

タマヨリ「そんなに恨めしいなら、ホオリ様のことなんて早く忘れてしまえばいいじゃないですか」

トヨタマ「忘れらんらいもん……ヒック!!」

タマヨリ「はぁ~……。わざわざ嫌な思い出話を何度もしたがる意味がわかりません……」

トヨタマ「ヨリちゃんはお子様らからゎかんらいろよぉぉ……ヒック!!」

タマヨリ「んなっ……!!いつまでも子供扱いしないでください!」

トヨタマ「らってヨリちゃん、初恋もまららんれしょぉぉ~?……ヒック!!」

タマヨリ「文字列にすると何言ってるかわらないので、ちゃんと喋ってください!」

タマヨリ「まったく……確かに私は初恋はまだですけど、たまたま良い殿方がいないだけですよ」

トヨタマ「ヨリちゃんらって、大人にらって恋すれば私の気持ちがゎかるゎよぉぉ~……ヒック!!」

タマヨリ「はいはい。要するに、姉さまは今でもホオリ様のことが大好きなんですね?」

トヨタマ「そんらこと言ってらいれしょぉぉ~!!……ヒック!!」

タマヨリ「だって、姉さまは“恋を知らないお子様にはわからない、大人の理由で”飲んだくれているんですよね?」

トヨタマ「そぅ!そのとおりらの……ヒック!!」

タマヨリ「そんなの、“私は恋心を紛らわせるためにお酒に逃げています”って白状してるようなもんでしょ」

トヨタマ「ちがっ……ヒック!!……ちがぅもん!!」

タマヨリ「じゃあ、ホオリ様のことはもうどうでもいいんですか?」

トヨタマ「ろうれもいいもん……恨めしいもん……ヒック!!」

タマヨリ「ふ~ん。ホオリ様が姉さまのことなんて忘れて、別の女性とイチャコラしててもいいんですね?」

トヨタマ「それはらめぇぇぇ~っ!!」

タマヨリ「ほら、好きじゃん」

トヨタマ「うぅ……ヒック!!」

タマヨリ「まったく……そんなに好きなら、さっさとホオリ様のところへ戻ればいいのに」

トヨタマ「それはムリぃぃ~っ!!」

タマヨリ「わがまま言わないでください。ここで毎晩飲んだくれ続けられても困るんですから」

トヨタマ「ヨリちゃんのいじわるぅぅ~……ヒック!!」

タマヨリ「それに、姉さまがずっとここにいたら、誰が子供の面倒を見るんです?」

トヨタマ「そんらの……ホオリ様がらんとかするゎよ……ヒック!!」

タマヨリ「まぁ、確かに天津神の御子ともなれば、乳母や教育係を手配するのは容易でしょうね」

トヨタマ「でしょぉぉ~?だから問題らいのぉぉ……ヒック!!」

タマヨリ「でも、実の母の愛を知らずに育つなんて可哀想だと思いませんか?」

トヨタマ「そ、それは……」

タマヨリ「もしかしたら、姉さまを知らない乳母や教育係から、“お前の母親はお前を捨てたろくでもない女だ!”とか吹き込まれるかも……」

トヨタマ「……」

タマヨリ「そんな環境で育ったら、非行に走ってもおかしくありませんねぇ~……」

トヨタマ「そ、そんらぁぁ……」ウルウル

タマヨリ「それが嫌なら、やっぱり姉さま自身がちゃんと育ててあげるべきですよ」

トヨタマ「うぅ……でもぉぉ……ヒック!!」

タマヨリ「ワニの姿を見られたくらいどうだっていいじゃないですか。私ならそんなの全っ然気にしませんよ!」



トヨタマ「……じゃあヨリちゃんが行って」ボソッ



タマヨリ「えっ!?」

トヨタマ「私の代わりに、ヨリちゃんがあの子を育てにいって!!」

タマヨリ「えぇぇぇぇぇぇっ!!??」


―――――――
――――
――




<翌日>

ワタツミ「ということで――」

ワタツミ「頼んだぞ、ヨリちゃん。おトヨの子を立派に育てあげてやってくれ」

トヨタマ「お願いね、ヨリちゃん♪」

タマヨリ「えぇ~っと……」

タマヨリ「さすがに父さまにはもう“ヨリちゃん”呼びは卒業していただきたいというのはさて置き……」


タマヨリ「本当に私が上つ国へ行くんですか……?」

ワタツミ「何か問題でもあるのか?」

タマヨリ「やっぱりここは姉さまご自身が行くべきではないかと……?」

ワタツミ「そうは言っても、おトヨはもう上つ国へは行きたくないのだろう?」

トヨタマ「はい、無理です!」キッパリ

ワタツミ「それならば、やはり妹のヨリちゃんに行ってもらうしかないではないか」

タマヨリ「いや、そんなわがままあっさり聞き入れないで、父さまからも説得してくださいよ!」

ワタツミ「しかし、おトヨは毎晩泣き腫らすほど傷付いておるのだ。無理に上つ国へ行けと言うのは可哀想だろう」

タマヨリ「泣き腫らしてるって言うか、単に飲みすぎでむくんでるだけじゃないですか!!」

トヨタマ「そ、そんなことないわよっ!!」アセアセ


タマヨリ「まったく……父さまは姉さまに対して甘すぎるんです!」

ワタツミ「まぁまぁ。おトヨのことはともかく、ヨリちゃんはどうなのだ?」

タマヨリ「私が……何ですか?」

ワタツミ「ヨリちゃんには、何か上つ国へ行けない理由でもあるのか?」

タマヨリ「それは……特にありませんけど……」

ワタツミ「ならばヨリちゃんが行けば万事解決!Win-Winではないか!」

タマヨリ「いや、別に私にはWin要素無いですよねぇ!?」

ワタツミ「ガッハッハッ!!細かいことなど気にするな!頼んだぞ、ヨリちゃん!」

トヨタマ「ファイトよ、ヨリちゃん!!」

タマヨリ「……」


タマヨリ「はぁ~……(ため息」


タマヨリ「……わかりましたよ。私が上つ国へ行って、姉さまの子を育てましょう」

タマヨリ(これ以上父さまや姉さまの相手をするのも疲れそうですし……)

トヨタマ「さすがヨリちゃん!大好きぃ~♪♪」ギューッ

タマヨリ「わわっ!くっつかないでください、姉さま///」

ワタツミ「ガッハッハッ!!姉妹で仲良く抱き合うシーンは眼福よのぉ~!」

タマヨリ「そこ!自分の娘で萌えないでください!!」


トヨタマ「ところでヨリちゃん?」ギューッ

タマヨリ「はい?何ですか……?」クルシイヨー

トヨタマ「実は、ついでにもう一つお願いがあるのだけど……」

タマヨリ「「うぇぇっ!?」」


―――――――
――――
――




<高千穂の宮>

タマヨリ「お久しぶりです、ホオリ様」シャナリ

ホオリ「おぉ、ヨリちゃん!しばらく見ないうちに大きくなったなぁ~」

タマヨリ「……なんでそんな親戚のおじさんみたいな反応なんですか?」

ホオリ「まぁ、ヨリちゃんは俺にとっても娘みたいなもんだからね!」

タマヨリ「娘じゃなくて義妹ですし、そこまで歳は離れていないと思いますが……」

ホオリ「ところで、一体どうやってここへ?海の道はトヨタマビメが塞いだんじゃ……?」

タマヨリ「あぁ、それなら父さまの権限で通行止め解除してチョチョイですよ」

ホオリ「意外とあっさり再開通できるもんなのね……」

タマヨリ「それはともかく、早速ですがご用件を――」

 ・
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 ・

タマヨリ「カクカクシカジカ……ということで、今後は私が姉さまに代わって子育てをさせていただくことになりました」

ホオリ「うん……それはすごくありがたいんだけどさ……」

タマヨリ「えっと……何かご不満な点でもございましたか?」

ホオリ「いや……ヨリちゃんが来たってことは、やっぱりトヨタマビメは相当怒ってるってことだよね……」


ホオリ「できれば彼女に謝りたいんだけど……きっともう一生会ってはくれないよなぁ……」

タマヨリ「そうですね。姉さまと直接会ってお話をするのは難しいかと思います」

ホオリ「だよね……」シュン…

タマヨリ「……ですが、そんなホオリ様に朗報です!」

ホオリ「朗報??」

タマヨリ「なんと、姉さまからホオリ様に宛てた歌を預かってまいりましたぁっ!」ジャーン!!

ホオリ「な、なんだって!?」

タマヨリ「それでは、僭越ながら詠み上げさせていただきます――」



(※以下意訳)

『赤い珠は、それを束ねる緒さえも光って見えるほど美しいものです』

『けれど、白い珠のようなあなたのお姿は、それ以上に貴くていらっしゃいます』



タマヨリ「……とのことです」

ホオリ「……」ジーン…

タマヨリ「私から言うのもなんですが、姉さまは未だにホオリ様のことを愛していますよ」

ホオリ「そっか……」


タマヨリ「……ちなみに、私はちょっと用事を思い出したので、これから一旦家へ帰ろうと思うのですが」

ホオリ「えっ?」

タマヨリ「“どうしても”と言うなら、伝言くらい頼まれてあげても構いませんよ?」


ホオリ「……ありがとう、ヨリちゃん」


ホオリ「それじゃあ、この歌をトヨタマビメに伝えてほしいな……“どうしても”」


(※以下意訳)

『カモが降り立つ島で契りを結んだ我が妻を』

『私は決して忘れない……この世の終わりまで……』


―――――――
――――
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<高屋山上陵(お墓)>

ウガヤフキアエズ「親父、久しぶり!親父の好きな酒持ってきたから、一緒に飲もうか」


――トクトクトクッ


フキアエズ「それじゃ、カンパイ!」



フキアエズ「去年さ、次男のイナヒが母さんの国へ旅立ったって話しただろ?」


フキアエズ「今年は三男のミケヌが、海を渡って常世の国に行ったんだ」


フキアエズ「これで俺の息子も、残りは長男のイツセと末っ子のワカミケヌだけになっちゃったよ」


フキアエズ「そいつらも今日は用事で来れなくって……」


フキアエズ「だから、今日は俺とヨリちゃんの二人だけなんだ」

タマヨリ「お久しぶりです、ホオリ様♪」


フキアエズ「せっかくの墓参りなのに、孫の顔を見せてやれなくてごめんな」

タマヨリ「子供たちの立派に成長した姿、ホオリ様にもお見せしたかったですね」

フキアエズ「ホントだよ。小さい頃はみんなヨリちゃん譲りのわんぱく坊主だったのに」



タマヨリ「……ちょっと待ってください!」

フキアエズ「ん?」

タマヨリ「それは聞き捨てなりませんね!むしろあなたの小さい頃にそっくりでしたよ!」

フキアエズ「いや、俺はどっちかって言うと大人しくて手の掛からない優等生だったと思うけど?」

タマヨリ「何を仰いますか!いたずらっ子のあなたの世話で私がどれだけ苦労したことか……」

フキアエズ「それはヨリちゃんがどんくさいからじゃない?」

タマヨリ「失礼ですねっ!!」

フキアエズ「昔からしょっちゅう俺のいたずらにも引っ掛かってたし」

タマヨリ「それはあなたのいたずらが毎回斬新すぎるんですよっ!!」

フキアエズ「でも、ヨリちゃん以外は誰も引っ掛からなかったじゃん」

タマヨリ「うっ……」グサッ

フキアエズ「ホント、からかい甲斐はあるけど、頼り甲斐はない養育係だったよなぁ~、ヨリちゃんは♪」クスクス

タマヨリ「……」



タマヨリ「あの……」

フキアエズ「ん?」

タマヨリ「……本当に私で良かったんですか?」

フキアエズ「何が?」

タマヨリ「だから……その……私なんかが妻で良かったのかなって……」

フキアエズ「またその話ぃ?いつまでそんなこと気にしてんのさ?」

タマヨリ「でも……私なんてあなたから見たら“おばさん”だし……」

フキアエズ「今どき近親婚なんて珍しくないだろ?母親の妹くらい普通だよ、普通」

タマヨリ「その“叔母さん”じゃなくて、年齢的な意味で……」

フキアエズ「あのさぁ、うちの親父、何年生きたか覚えてる?」

タマヨリ「えぇ~っと……580年でしたよね?」

フキアエズ「そう。俺たち一族は他の神よりは短命だけど、それでもその気になれば600年近く生きられるんだ」

フキアエズ「そのくらいの歳になれば、もはや±100歳くらいまでは誤差の範囲だろ?」

タマヨリ「それは……そうかもしれませんけど……」

フキアエズ「つまり、長生きしてればそのうち俺とヨリちゃんとの歳の差なんて誤差みたいなもんになるんだ」

フキアエズ「だから、俺はヨリちゃんのこと“おばさん”だなんて思ってないよ」

タマヨリ「……///」

フキアエズ「むしろ、俺よりよっぽどガキっぽいと思ってる」

タマヨリ「失礼ですねっ!!」



フキアエズ「まぁ、とにかく俺はヨリちゃんとの結婚を後悔したことは一度もないよ」

タマヨリ「……本当ですか?」

フキアエズ「本当だって!だいたい、もし後悔してたら4人も子供つくるわけないだろ?」

タマヨリ「それは……確かにそうですね///」

フキアエズ「納得してくれた?」

タマヨリ「……はい///」

タマヨリ「子供たちが生まれたときのあなたのはしゃぎよう……あれが嘘だったとは思えません///」

フキアエズ「えっ?俺、そんなにはしゃいでたっけ??」

タマヨリ「はしゃいでましたよ♪ワカミケヌのときなんか、名前を3つも考えてきちゃって」クスクス

フキアエズ「それは何て言うか……ビビっときちゃったんだからしょうがないだろ?」

タマヨリ「確かに、“ワカミケヌ”、“トヨミケヌ”、“カムヤマトイワレビコ”と、どれもいい名前ですけどね」

フキアエズ「結局、最後まで1つに絞り切れなくて、3つともあいつの名前にしたんだよなぁ~」

タマヨリ「まぁ、年齢やTPOに応じて使い分ければいいんじゃないですか?」

フキアエズ「うん。あいつなら名前の3つや4つ、そのうち使いこなしてくれるだろ」

タマヨリ「フフッ、将来が楽しみですね♪」

フキアエズ「あぁ。あいつがカムヤマトイワレビコを名乗るようになるまでは、俺も死ねないな!」

タマヨリ「ダメですよ、それだけで満足してもらっちゃ困ります!」


タマヨリ「ちゃ~んと、私との歳の差が誤差になるまで、あと1000年は生きてもらわないと!」

フキアエズ「無茶言うな!!」

タマヨリ「♪♪」


―完―

【キャスト】
タマヨリビメ
トヨタマビメ
ワタツミ
ホオリ
ウガヤフキアエズ


作:若布彦(古事記上巻、完走です)

・・・次のお話はこちら⇒“神武東征神話①

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