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[“猿女神話”の続き]
――ニニギが抱き合わせ商法を断固拒否するお話


<笠沙の御崎>

――ザパーン!!

――ザパーン!!


ニニギ「やっぱり笠沙の御崎から眺める東シナ海はいいなぁ~」ボケー

ニニギ「こうして潮風に当たりながら波音を聞いていると、心が洗われるようだ……(遠い目」


――ザパーン!!
――ハァ……ハァ……

――ザパーン!!
――ハァ……ハァ……

――ザパーン!!


ニニギ「んっ?今、波音に紛れて女子の息遣いが!?(煩悩」ガタッ!!


ニニギ「んん~……遠くを走るあのシルエットは、まさしく九州美神!」

ニニギ「どれ、笠沙の女はどんなものか、一つ味見といくかな!」ジュルリ

ニニギ「待っていろ、我が妻よぉ~!!」ルンルン♪

 ・
 ・
 ・

???「ハァ……ハァ……急がなきゃ……」タッタッタッ

???「早く帰らないと……お昼になっちゃう……」タッタッタッ


――シュタッ!!


ニニギ「お嬢さん、何かお困りかな?」キラッ☆

???「ヒッ……!!」ビクッ!!

ニニギ(おぉっ!やはり私の見立てどおり絶世の美女じゃないか!!)


???「ど……どちら様……ですか?」ボソッ

ニニギ「私が何者かって?……フッフッフッ、聞いて驚け!!」



ニニギ「私こそは、この葦原の中つ国に降臨せし天津神の御子――」


ニニギ「アメニギシクニニギシアマツヒコヒコホノニニギノミコトだ!」ドヤァ!!



???「……」

???「で……では、先を急ぎますので私はこれで……」スタスタ

ニニギ「待てぇ~い!!」トオセンボー

???「ヒッ……!!」ビクッ!!


ニニギ「さすがに反応が薄すぎだろう!!」

???「でも私……殿方とは……あまり話したことが……」ボソッ

ニニギ(おっ、この生娘感!いいぞ、いいぞぉ~♪)ジュルリ


???「あの……もういいですか……?早く家に帰らないと……」

ニニギ「まぁ待て、そなたはここで何をしているんだ?」

???「えっと……海に貝を取りに行って、これから家に帰るところ……です……」

ニニギ「ふむ。それで、なぜそんなに急ぐ必要がある?」

???「もうじきお昼……なので……」

ニニギ「なるほど!その貝を使って昼食の仕度をしないといけないってことだな!」

???「いえ……食事はいつもお姉ちゃんが作ってくれるので……」

ニニギ「なんだ、それなら急ぐ必要などないではないか」

???「でも……早く帰らないと……私の分のごはんが冷めちゃう……」

ニニギ「食いしん坊かっ!!」



ニニギ「……まぁそれはどうでもいい」

ニニギ「では本題だが、そなたは一体誰の娘なんだ??」

???「あの……まだ帰していただけないのですか……?」

ニニギ「早く帰りたければ黙って質問に答えろ」

???「うぅ……」

???「私はオオヤマツミノカミの娘で……名前は“カムアタツヒメ”です……」

ニニギ「そうか。ではカムアタツヒメよ――」

???「あっ……でも、もう一つ“コノハナノサクヤビメ”という名前もあって……」

ニニギ「むっ?ならばどちらで呼べばいいのだ?」

???「お父さんとお姉ちゃんは……“サクヤ”って呼びます……」

ニニギ「だったらそっちを先に言えよ!」

サクヤ「ヒッ……!!」ビクッ!!



ニニギ「……まぁいい」

ニニギ「ところで、先ほど“お姉ちゃん”と言っていたが、そなたには姉妹がいるのか?」

サクヤ「イワナガヒメっていう……お姉ちゃんがいます……」

サクヤ「それが何か……?」

ニニギ「いや、特に深い意味はないんだけどな」

サクヤ「……」

サクヤ「じゃあ……もう帰ってもいいですか……?急いでいるので……」

ニニギ「待て待て!そんなに急ぐなら仕方ない、単刀直入に言おう」


ニニギ「私はそなたと結婚したいと思うのだが、どうだ?」サラッ

サクヤ「……」



サクヤ「そ、それって……プロポーズ……ですか///」カァッ

ニニギ「うむ、私はそなたが気に入った。私の妻になってくれ」

サクヤ「そんな……急に言われても……困ります……///」

ニニギ「私の妻になれば裕福な暮らしができるのだぞ?迷う理由などないだろう?」

サクヤ「裕福な……暮らし……?」


サクヤ「確かに……毎日三ツ星シェフの高級フルコース……というのは魅力的ですが……」

ニニギ「いや、そこまでは言っていないが……」

サクヤ「やっぱり……私からは答えられません……」

ニニギ「ならば私はこの気持ちをどこにぶつければ良いというのだ?」

サクヤ「えっと……お父さん……オオヤマツミノカミが……お返事します……」

サクヤ「とりあえず……一旦家まで来てください」

ニニギ「うむ、そうしよう」

サクヤ「では――」



サクヤ「ごはんが冷めないうちに……早く!!」

ニニギ「それ、諦めてなかったのかよ!!」


―――――――
――――
――



<サクヤの家>

――ガラッ


サクヤ「ハァ…ハァ……ただいま……帰りました……」フラフラッ


オオヤマツミ「遅かったな、サクヤ。昼食がすっかり冷めてしまったぞ」

サクヤ「そんな……」ガクッ…



ニニギ「……コホン!!」

オオヤマツミ「おや?サクヤ、そちらの殿方は……?」

サクヤ「あっ……えっと……///」

ニニギ「お主がオオヤマツミだな?」

オオヤマツミ「いかにもそのとおりですが……どちら様でしょうか?」

ニニギ「私は天津神の御子、(中略)ニニギノミコトだ!」

オオヤマツミ「なんと、あの巷で噂の!?」

ニニギ「ここへ来たのはカクカクシカジカ……というわけなんだが、どうだろう?」

オオヤマツミ「えぇっ!?うちのサクヤを嫁に取りたいと!?」

オオヤマツミ「いやはや、これはめでたい!!よろこんで差し出しましょう!!」

ニニギ「うむ、善き心がけだ」

サクヤ(とんとん拍子……というか、雑……?)


オオヤマツミ「ところで、ニニギノミコト様は今晩どちらにお泊りになるのですか?」

ニニギ「公民館のはす向かいの空き家を滞在用に使っている」

オオヤマツミ「あぁ、あそこですね。では、早速今晩そちらにサクヤを向かわせますので、あとはご自由に……♪」

ニニギ「ほぉ……話が早くて助かるぞ」

オオヤマツミ「なぁに、善は急げと言いますからな!ハッハッハッ!」

ニニギ「ハッハッハッ!」

サクヤ(なんで夜……?暗いの怖いなぁ……)


オオヤマツミ「そうだ!ついでに姉のイワナガヒメもお付けしましょう」

ニニギ「えっ!?」


ニニギ「いや、その姉の方は会ったこともないし、別にいらんぞ」

オオヤマツミ「そう仰らずに!妻などいくらいても困るものではありませんから」

ニニギ「それはまぁ……そうかもしれないが……」

オオヤマツミ「それに、サクヤも姉と一緒の方が安心するでしょう。なっ?」

サクヤ「えっ……?まぁ……夜道を歩くなら……お姉ちゃんもいた方が……」

オオヤマツミ「ほら、サクヤもこのように申しておりますし!」

ニニギ「なんか抱き合わせ商法で厄介払いしようとしてないか……?」

オオヤマツミ「とんでもない!ニニギノミコト様への純粋な忠誠心からのお申し出ですよ!」

ニニギ「……疑わしい(ジト目」

オオヤマツミ「献上品もたくさんお付けしますので、是非!!」

ニニギ「う~ん……まぁいいか。とりあえず今晩待ってるからな」

オオヤマツミ「お買い上げありがとうございます!今後とも当家をよしなに♪」ゴマスリー


―――――――
――――
――



<その夜>

ニニギ「さて、そろそろいい時間だな」


――コンコン


ニニギ(この慎ましやかなノックの音は……間違いない!!)

ニニギ「入って良いぞ」

声『失礼しま~す♪』


――ガラッ


ニニギ「サクヤビメよ、待っていたぞ!さぁ、早くこちらに――」

???「あらぁ~、いいオトコじゃなぁ~い♪」ズイッ

ニニギ「なっ!?」

ニニギ(何だコイツ……デカい!まるで聳え立つ岩壁のようだ……!!)

???「アタシが可愛がってあ・げ・る♪♪」ガシッ!!


――ドサッ!!


ニニギ「イテテ……急に押し倒すとは……。貴様、さては私の命を狙う刺客か!?」

???「何言ってんのよぉ~ん。アンタの方からアタシを求めて来たくせにぃ~♪」

ニニギ「いやいやいや!貴様なんぞ知らん!この手を放せ!!」

???「もぉ~、恥ずかしがっちゃって♪ホントはこのイワナガヒメちゃんにメロメロなんでしょ♪」

ニニギ「イワナガヒメ……だと……?」



ニニギ「あぁぁぁっ!!貴様、サクヤビメの姉か!!」ピコーン!!

イワナガ「そうよぉ~ん♪サクヤの姉で、あなたの“正妻”のイワナガヒメよぉ~ん♪」

ニニギ「勝手に正妻を名乗るな!私はそんなことを言った覚えはない!!」

イワナガ「大丈夫よ、朝までに絶対その気にさせてあげるから♪」


イワナガ「さぁ、今夜は寝かせないわよぉ~ん♪」ムラムラ

ニニギ(こ、こいつ……ヤバい!!)ヒヤリ

ニニギ「だ、黙れ!今すぐ私から離れろ!!」

イワナガ「んもぉ~、照れ屋さんなんだからぁ~♪」

ニニギ「違う!私は貴様になど用は――」

イワナガ「ほら、目を閉じて!チューーーーー」

ニニギ「やめろ!それ以上近付くな!やめろって!!」


――チュッ♪


ニニギ「……」プツン



ニニギ「「いい加減にしろ、このブス女ぁぁぁぁぁっ!!!!」」メラメラ!!



イワナガ「!?」

ニニギ「私は貴様のような醜い女など娶る気はない!!」

ニニギ「私が妻にしたいのは……愛しているのは、妹のサクヤだけだ!!」

ニニギ「わかったらとっとと帰れぇぇぇっ!!!!」



イワナガ「ぇ……」ポロッ

イワナガ「そんな……アタシ……アタシっ……!!」ポロポロ

ニニギ(やべ、勢い余って泣かせちまった!?)



イワナガ「アタシ、ブスじゃないもぉぉぉ~んっ!!うぇぇx~ん!!」ダッ!!

ニニギ「あっ、ちょっと!!」



ニニギ「行ってしまった……さすがに言い過ぎたかな……?」

サクヤ「言い過ぎですよ……ヒドいです……」ススッ

ニニギ「サクヤビメ!?そんなところにいたのか!」

サクヤ「お姉ちゃん……全然ブスなんかじゃないのに……」

ニニギ「それは何と言うか……申し訳ない」

サクヤ「でも……ちょっとうれしかったです……」

ニニギ「えっ?」

サクヤ「その……愛してるのは私だけって言ってくれて……///」

サクヤ「ちゃんと……本気だったんだなって……///」

ニニギ「あ、当たり前じゃないか!私は本気でそなたを正妻にしたいと思っているんだ!!」



サクヤ「……///」

ニニギ「……///」



サクヤ「えっと……夜道は怖くて……独りでは帰れそうにないので……」

ニニギ「あぁ、今晩は泊っていくといい」


―――――――
――――
――



<翌朝>

――ドンドンドンッ!!


ニニギ「ぅ~ん……」ムニャムニャ…


――ドンドンドンドンッ!!


ニニギ「……うるさいなぁ。一体誰だ、こんな朝からしつこく戸を叩くのは!?」ムクッ


――ガラッ


ニニギ「いい加減にしろ!何の用だ!?」イラッ

オオヤマツミ「あぁぁぁっ!!ニニギノミコト様、なんということをっ!!」アワアワ!!

ニニギ「オ、オオヤマツミ!?どうかしたのか??」

オオヤマツミ「どうもこうもありません!せっかく嫁に出したイワナガヒメを追い返すなんて!!」

ニニギ「あぁ~……まぁそれはすまなかったな」

ニニギ「しかし、私は最初から姉の方はいらんと言っていたわけだし、ある意味当然の結果だろう?」

オオヤマツミ「あなた様の意思などどうでも良いのです!」

ニニギ「いや、良くねぇよ!!」

オオヤマツミ「私がどんな意図で姉妹をセットで送り出したと思っているのですか!?」

ニニギ「在庫一掃セールの抱き合わせ商法だろう?こすい手を使いおって」

オオヤマツミ「違いますよ!」

ニニギ「では、何か他に考えがあったと言うのか?」


オオヤマツミ「まず、イワナガヒメを仕えさせれば、天津神の御子のお命は、雪が降り風が吹いても岩の如く永久に動じない、堅固なものになることでしょう――」


オオヤマツミ「そしてサクヤビメを仕えさせれば、木の花が咲くように栄えることでしょう――」


オオヤマツミ「このように誓約をして送り出したのです!」

ニニギ「なるほど……一応そんな理由があったのか……」

オオヤマツミ「はい。それなのに、あなた様はイワナガを追い返し、サクヤだけを娶られました……」

ニニギ「……そうすると、どうなるんだ?」

オオヤマツミ「大変申し上げにくいのですが……」


オオヤマツミ「天津神の御子のお命は、木の花のように儚いものになるでしょう……」

ニニギ「なっ……!?私は早死にすると、そういうことか!?」

オオヤマツミ「あなた様だけではありません。あなた様の子孫も全て、短命となってしまいます……」

ニニギ「くっ……今からでもイワナガヒメを連れ戻すことはできないのか!?」

オオヤマツミ「難しいですね……。イワナガは、あなた様に“ブス”と言われたショックで心を病んでしまいました……」

オオヤマツミ「それに、今さら無理に嫁がせたとしても、誓約の結果は上書きできないでしょう……」

ニニギ「そんな……」



オオヤマツミ「まぁ、過ぎてしまったことを悔いても仕方ありません……」

オオヤマツミ「せめてその限られたお命をご立派に生きてください……」

ニニギ「……」

オオヤマツミ「では、私はこれで失礼します。あなた様も一度高千穂へ戻られた方が良いでしょう」

ニニギ「そうだな……。この宿命について、配下の者たちにも説明しなければ……」


オオヤマツミ「サクヤ、一緒に家へ帰ろう」

サクヤ「えっ……?はい、わかりました……」イソイソ…


――ガラッ


ニニギ「……」



ニニギ「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!やっちまったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」


―完―

【キャスト】
ニニギ
コノハナノサクヤビメ
オオヤマツミ
イワナガヒメ


作:若布彦(ゆーても姉妹ですし、イワナガヒメも言うほどブスではなかったのでは……?)

・・・次のお話はこちら⇒“火中出産神話

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