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[“国譲り神話/天若日子編③”の続き]
――葦原の中つ国への新たな使者を選定するお話
<天安之河原>
――ザワザワ
――ザワザワザワ
アマテラス「早速ですが始めましょう……」
アマテラス「第……!」ドドドドドドドドッ
アマテラス「第…………!」ドドドドドドドドッ
アマテラス「第云回……会議ぃ~!!」バーン!!
オモイカネ「いや、さすがに適当すぎるでしょ!!」
アマテラス「だって最初の試みからもう何年も経つのですよ?何回目の会議かなんて覚えているわけがないでしょう!」
オモイカネ「開き直らないでください!ちゃんと議事録をとっておかないからそうなるんですよ!」
アマテラス「うっ……」
アマテラス「と、とにかく!早く会議を始めましょう!」
オモイカネ(はぐらかされた……)
アマテラス「コホン……」
アマテラス「えぇ~、なんやかんやアメノワカヒコも中つ国平定は成し遂げられませんでした」
オモイカネ(雑っ!?)
――ザワザワ
アマテラス「ということで、次はどの神を遣わすのが良いでしょうか?」
アマテラス「ではオモイカネさん、ご意見をどうぞ」
オモイカネ「結局また私ですか!?」
アマテラス「何と言うか、もはやこれも一種の様式美かと」
オモイカネ「第何回目の会議かは忘れてたクセに、そういうところは覚えているんですね……」
アマテラス「わたくしは大事なことはしっかり覚えているのです。さぁ、どうぞ!」
オモイカネ「そう言われても、さすがに私もネタ切れですよ……」
オモイカネ「会場の皆さん、何か良い案はありませんか?」
――ザワザワ
オモイカネ「ふむふむ……なるほどぉ…………」
アマテラス「オモイカネさん?」
オモイカネ「……よし、わかりました!」
アマテラス「おぉっ!さすが高天原の知恵袋です!それで、どの神をご推薦に??」
オモイカネ「ここに集まった方々の意見を総合的に勘案した結果……」
オモイカネ「この天安河の上流の天岩屋にいらっしゃる、イツノオハバリノカミが適任でしょう!」
アマテラス「ちょ、ちょっと待ってください!今、天岩屋と仰いましたか??」
オモイカネ「はい、言いましたけど?」
アマテラス「天岩屋はフトダマさんの注連縄バリアで塞いで、戸も取り払ってしまったのでは??」
オモイカネ「あぁ、結局天岩戸神話の後、注連縄は外して空き家として売りに出したんですよ」
アマテラス「では、あの中に置いてあったわたくしの蔵書は……?」
オモイカネ「察してください……」
アマテラス「そ、そんなぁ……」ガーン!!
オモイカネ「ちなみに、イツノオハバリ様以外ならその御子のタケミカヅチノオノカミを遣わすのが良いと思いますよ」
アマテラス「そうですか……(放心」
オモイカネ「ただ、この案には少々難点があるんですよ」
アマテラス「難点とは?」
オモイカネ「実は、アメノオハバリ様は引きこもりの気がありまして……」
アマテラス「ちょっと待ってください。“イツノ”オハバリさんですよね?」
オモイカネ「イツノオハバリ様はアメノオハバリ様とも言うのです。むしろ、そっちの方がメジャーですね」
アマテラス「ややこしいですねぇ……。面倒なので以後オハバリさんと呼ぶことにしましょう」
オモイカネ「では改めて……オハバリ様は引きこもりの気がありまして……」
オモイカネ「天安河の水を堰き止めて逆流させ、道を塞いで他の神が近付けないようにしているんですよ」
アマテラス「さすが、引きこもりの聖地・天岩屋に住むだけのことはありますね……」
オモイカネ「なので、アメノカクノカミに言伝を頼もうと思います」
アマテラス「アメノカクさんは鹿の神でしたっけ?」
オモイカネ「はい。アメノカク様なら道が塞がっていても崖を登るなりして進めるはずです」
アマテラス「なるほどですね。では早速アメノカク様をお呼びして、事情をお話ししましょう!」
―――――――
――――
――
<天岩屋>
アメノカク「ふぅ……やっと着きましたね。どうにか日暮れ前に到着できて良かったです」
アメノカク「暗くなって“視界”が悪くなったら嫌ですからね。鹿だけに」
アメノカク「さて、アマテラス様からのご伝言、“確(しか)”とお伝えせねば。鹿だけに」
――ピンポーン
アメノカク「ごめんくださ~い!」
アメノカク「あ、ちなみに私はサイではなく鹿で~す!」
――シーン…
アメノカク「音沙汰がありませんね……」
アメノカク「それなら反応があるまで粘るまでです!!」
――ピンポーン
――ピンポピンポーン!!
――ピンポピンポピンポーン!!!!
アメノカク「次は三々七拍子でいきますよぉ~!!」
中からの声「「うるさい!もう帰ってくれ!!」」
アメノカク「あっ、オハバリさん!いらっしゃるなら早く出てきてくださいよぉ~」
オハバリの声「断る!俺はもうこの天岩屋からは一歩も出ない!」
アメノカク「そう仰らずに、話だけでも聞いてくださいな」
オハバリの声「話を聞くだけでいいなら、電話かメールで頼む」
アメノカク「直接会ってお話しすることに意義があるのですよ」
オハバリの声「そんなの知らん!俺はもう誰にも会わないと決めたんだ!!」
アメノカク「強情ですねぇ……。やむを得ません、このまま口頭でお伝えしましょう」
オハバリの声「あぁ、扉越しなら聞いてやってもいいぞ」
アメノカク「実は……」
・
・
・
アメノカク「カクカクシカジカ……というわけです。鹿だけに」
オハバリの声「お、俺に……葦原の中つ国へ行けってのか!?」
アメノカク「はい、そういうことです♪」
オハバリの声「絶対に嫌だ!!」
アメノカク「そう仰らずに、よろしくお願いしますよぉ~」
オハバリの声「無理だ!誰がなんと言おうが、俺はここから出ないぞ!!」
アメノカク「もう、どうしてそんなにふさぎ込んでいらっしゃるのですか?」
オハバリの声「お前さん……俺が何者だか知らないのか?」
アメノカク「オハバリさんですよね?武神だか何だかの」
オハバリの声「武神だなんてとんでもない!俺はただの殺神犯だ!」
アメノカク「殺神!?つまり……中二病ということですか??」
オハバリの声「違うわ!そういうネタ的なヤツじゃなく、ガチのヤツだってば!!」
アメノカク「ガチのヤツ……と、仰いますと?」
オハバリの声「いいか?俺は元々イザナギ様に仕える剣だったんだ」
アメノカク「えぇっ!?あのイザナギ様と縁があるなんて、勝ち組じゃないですか!」
オハバリの声「勝ち組なもんか!なぁ、イザナギ様は俺をどんな風に使ったと思う?」
アメノカク「それは……やっぱり祭事用とかじゃないですか?あるいは、黄泉の国の軍勢の撃退?」
オハバリの声「違うな……」
オハバリの声「子殺しだよ」
アメノカク「こ……子殺し!?」
オハバリの声「イザナギ様はこの俺を使って、御子であるヒノカグツチノカミを切り殺したんだ」
アメノカク「そ、そんな……」
オハバリの声「その時に飛び散った血から生まれたのが息子のタケミカヅチたちだ」
アメノカク(それはオハバリさんの子ということで良いのでしょうか……?)
オハバリの声「剣である以上、何かを切る用途で使われるのは当然のことだ」
オハバリの声「しかし……」
オハバリの声「親が子を殺すなんて、そんな悲しい用途で使われる覚悟は、俺には無かった……」
アメノカク「……」
オハバリの声「実はさ……未だにカグツチ坊ちゃんを切った時の夢を見るんだ……」
オハバリの声「それで、ここを出たらまた誰かを傷付けるんじゃないかと思うと……身体が震えて……」
オハバリの声「笑えるだろ?剣のクセに……何かを切るのが……怖いんだ……」
アメノカク「オハバリさん……」
オハバリの声「……これでわかったろ?俺は何の役にも立たない。だからもう帰ってくれ」
アメノカク「いえ、そういうわけにはいきません!」
オハバリの声「いや、そこは同情して引き下がる場面だろ!!」
アメノカク「そうは言っても、私も任務を蔑ろにするわけにはいきませんので」
オハバリの声「いくら食い下がられても、俺は絶対にここから出ないからな!」
アメノカク「そこをなんとかお願いしますよぉ~」
オハバリの声「嫌なものは嫌だ!!」
アメノカク「オハバリさんかタケミカヅチさんのどちらかを連れて帰らないと、私が怒られるんですから」
オハバリの声「そんなのそっちの都合……って……ん?」
オハバリの声「中つ国へ行くのは、タケミカヅチでもいいのか?」
アメノカク「え?まぁそうですけど、タケミカヅチさんは居場所がわからなくて――」
オハバリの声「よし、わかった!!」
アメノカク「???」
オハバリの声「このアメノオハバリ、謹んで協力させていただこう!」
アメノカク「えっ、ホントですか!?どうして急に??」
オハバリの声「アマテラス様がお困りとあらば、協力しないわけにはいかないからな!」
アメノカク「わぁ~、さすがです!それでは早速この戸を開けて――」
オハバリの声「ただ、この任務には俺よりも息子のタケミカヅチを遣わすべきだろう」
アメノカク「いや、ですからタケミカヅチさんは居場所が……」
オハバリの声「大丈夫、大丈夫!タケミカヅチには俺から話をつけておくから!」
アメノカク「本当ですか!?そうしていただけるなら私は楽ですけど……」
オハバリの声「安心しろって。あいつは義理堅いから、親の俺の頼みなら絶対断らない」
アメノカク「う~ん……ちょっと不安ですけど、そこまで仰るならお任せしますよ?」
オハバリの声「おぅ!アマテラス様によろしく伝えといてくれな!」
アメノカク(なんか体よく追い返されただけのような……)
―――――――
――――
――
<後日>
アマテラス「それではタケミカヅチさんにアメノトリフネさん、よろしく頼みますよ」
タケミカヅチ「承知した。期待に沿う働きを約束しよう」
アメノトリフネ「タケミカヅチの兄貴は俺っちがバッチリ送り届けるっすよ!」
アマテラス「フフッ、心強いですね♪」
アマテラス「それからアメノカクさん、そなたもよく働いてくれましたね。ありがとうございます」
アメノカク「えっ?いえいえ、私は別に大したことは……」
アマテラス「何を仰いますか。こうしてタケミカヅチさんが来てくださったのも、そなたが気難しいと噂のオハバリさんを説得してくださったおかげですよ」
アメノカク「は、はぁ……」
アメノカク(いまいちちゃんと説得できた手ごたえは無かったんですけどね……)
アマテラス「さて、いよいよ出発の時間ですね」
アマテラス「お二方ともお気を付けて。良いご報告をお待ちしていますよ!」
タケミカヅチ「うむ!」
アメノトリフネ「押忍!」
―完―
【キャスト】
・アマテラス
・オモイカネ
・アメノカク
・アメノオハバリ
・タケミカヅチ
・アメノトリフネ
作:若布彦(黄泉の国神話でいろいろと端折ったツケが回ってきました……)
・・・次のお話はこちら⇒“国譲り神話/建御雷編①”
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――葦原の中つ国への新たな使者を選定するお話
<天安之河原>
――ザワザワ
――ザワザワザワ
アマテラス「早速ですが始めましょう……」
アマテラス「第……!」ドドドドドドドドッ
アマテラス「第…………!」ドドドドドドドドッ
アマテラス「第云回……会議ぃ~!!」バーン!!
オモイカネ「いや、さすがに適当すぎるでしょ!!」
アマテラス「だって最初の試みからもう何年も経つのですよ?何回目の会議かなんて覚えているわけがないでしょう!」
オモイカネ「開き直らないでください!ちゃんと議事録をとっておかないからそうなるんですよ!」
アマテラス「うっ……」
アマテラス「と、とにかく!早く会議を始めましょう!」
オモイカネ(はぐらかされた……)
アマテラス「コホン……」
アマテラス「えぇ~、なんやかんやアメノワカヒコも中つ国平定は成し遂げられませんでした」
オモイカネ(雑っ!?)
――ザワザワ
アマテラス「ということで、次はどの神を遣わすのが良いでしょうか?」
アマテラス「ではオモイカネさん、ご意見をどうぞ」
オモイカネ「結局また私ですか!?」
アマテラス「何と言うか、もはやこれも一種の様式美かと」
オモイカネ「第何回目の会議かは忘れてたクセに、そういうところは覚えているんですね……」
アマテラス「わたくしは大事なことはしっかり覚えているのです。さぁ、どうぞ!」
オモイカネ「そう言われても、さすがに私もネタ切れですよ……」
オモイカネ「会場の皆さん、何か良い案はありませんか?」
――ザワザワ
オモイカネ「ふむふむ……なるほどぉ…………」
アマテラス「オモイカネさん?」
オモイカネ「……よし、わかりました!」
アマテラス「おぉっ!さすが高天原の知恵袋です!それで、どの神をご推薦に??」
オモイカネ「ここに集まった方々の意見を総合的に勘案した結果……」
オモイカネ「この天安河の上流の天岩屋にいらっしゃる、イツノオハバリノカミが適任でしょう!」
アマテラス「ちょ、ちょっと待ってください!今、天岩屋と仰いましたか??」
オモイカネ「はい、言いましたけど?」
アマテラス「天岩屋はフトダマさんの注連縄バリアで塞いで、戸も取り払ってしまったのでは??」
オモイカネ「あぁ、結局天岩戸神話の後、注連縄は外して空き家として売りに出したんですよ」
アマテラス「では、あの中に置いてあったわたくしの蔵書は……?」
オモイカネ「察してください……」
アマテラス「そ、そんなぁ……」ガーン!!
オモイカネ「ちなみに、イツノオハバリ様以外ならその御子のタケミカヅチノオノカミを遣わすのが良いと思いますよ」
アマテラス「そうですか……(放心」
オモイカネ「ただ、この案には少々難点があるんですよ」
アマテラス「難点とは?」
オモイカネ「実は、アメノオハバリ様は引きこもりの気がありまして……」
アマテラス「ちょっと待ってください。“イツノ”オハバリさんですよね?」
オモイカネ「イツノオハバリ様はアメノオハバリ様とも言うのです。むしろ、そっちの方がメジャーですね」
アマテラス「ややこしいですねぇ……。面倒なので以後オハバリさんと呼ぶことにしましょう」
オモイカネ「では改めて……オハバリ様は引きこもりの気がありまして……」
オモイカネ「天安河の水を堰き止めて逆流させ、道を塞いで他の神が近付けないようにしているんですよ」
アマテラス「さすが、引きこもりの聖地・天岩屋に住むだけのことはありますね……」
オモイカネ「なので、アメノカクノカミに言伝を頼もうと思います」
アマテラス「アメノカクさんは鹿の神でしたっけ?」
オモイカネ「はい。アメノカク様なら道が塞がっていても崖を登るなりして進めるはずです」
アマテラス「なるほどですね。では早速アメノカク様をお呼びして、事情をお話ししましょう!」
―――――――
――――
――
<天岩屋>
アメノカク「ふぅ……やっと着きましたね。どうにか日暮れ前に到着できて良かったです」
アメノカク「暗くなって“視界”が悪くなったら嫌ですからね。鹿だけに」
アメノカク「さて、アマテラス様からのご伝言、“確(しか)”とお伝えせねば。鹿だけに」
――ピンポーン
アメノカク「ごめんくださ~い!」
アメノカク「あ、ちなみに私はサイではなく鹿で~す!」
――シーン…
アメノカク「音沙汰がありませんね……」
アメノカク「それなら反応があるまで粘るまでです!!」
――ピンポーン
――ピンポピンポーン!!
――ピンポピンポピンポーン!!!!
アメノカク「次は三々七拍子でいきますよぉ~!!」
中からの声「「うるさい!もう帰ってくれ!!」」
アメノカク「あっ、オハバリさん!いらっしゃるなら早く出てきてくださいよぉ~」
オハバリの声「断る!俺はもうこの天岩屋からは一歩も出ない!」
アメノカク「そう仰らずに、話だけでも聞いてくださいな」
オハバリの声「話を聞くだけでいいなら、電話かメールで頼む」
アメノカク「直接会ってお話しすることに意義があるのですよ」
オハバリの声「そんなの知らん!俺はもう誰にも会わないと決めたんだ!!」
アメノカク「強情ですねぇ……。やむを得ません、このまま口頭でお伝えしましょう」
オハバリの声「あぁ、扉越しなら聞いてやってもいいぞ」
アメノカク「実は……」
・
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アメノカク「カクカクシカジカ……というわけです。鹿だけに」
オハバリの声「お、俺に……葦原の中つ国へ行けってのか!?」
アメノカク「はい、そういうことです♪」
オハバリの声「絶対に嫌だ!!」
アメノカク「そう仰らずに、よろしくお願いしますよぉ~」
オハバリの声「無理だ!誰がなんと言おうが、俺はここから出ないぞ!!」
アメノカク「もう、どうしてそんなにふさぎ込んでいらっしゃるのですか?」
オハバリの声「お前さん……俺が何者だか知らないのか?」
アメノカク「オハバリさんですよね?武神だか何だかの」
オハバリの声「武神だなんてとんでもない!俺はただの殺神犯だ!」
アメノカク「殺神!?つまり……中二病ということですか??」
オハバリの声「違うわ!そういうネタ的なヤツじゃなく、ガチのヤツだってば!!」
アメノカク「ガチのヤツ……と、仰いますと?」
オハバリの声「いいか?俺は元々イザナギ様に仕える剣だったんだ」
アメノカク「えぇっ!?あのイザナギ様と縁があるなんて、勝ち組じゃないですか!」
オハバリの声「勝ち組なもんか!なぁ、イザナギ様は俺をどんな風に使ったと思う?」
アメノカク「それは……やっぱり祭事用とかじゃないですか?あるいは、黄泉の国の軍勢の撃退?」
オハバリの声「違うな……」
オハバリの声「子殺しだよ」
アメノカク「こ……子殺し!?」
オハバリの声「イザナギ様はこの俺を使って、御子であるヒノカグツチノカミを切り殺したんだ」
アメノカク「そ、そんな……」
オハバリの声「その時に飛び散った血から生まれたのが息子のタケミカヅチたちだ」
アメノカク(それはオハバリさんの子ということで良いのでしょうか……?)
オハバリの声「剣である以上、何かを切る用途で使われるのは当然のことだ」
オハバリの声「しかし……」
オハバリの声「親が子を殺すなんて、そんな悲しい用途で使われる覚悟は、俺には無かった……」
アメノカク「……」
オハバリの声「実はさ……未だにカグツチ坊ちゃんを切った時の夢を見るんだ……」
オハバリの声「それで、ここを出たらまた誰かを傷付けるんじゃないかと思うと……身体が震えて……」
オハバリの声「笑えるだろ?剣のクセに……何かを切るのが……怖いんだ……」
アメノカク「オハバリさん……」
オハバリの声「……これでわかったろ?俺は何の役にも立たない。だからもう帰ってくれ」
アメノカク「いえ、そういうわけにはいきません!」
オハバリの声「いや、そこは同情して引き下がる場面だろ!!」
アメノカク「そうは言っても、私も任務を蔑ろにするわけにはいきませんので」
オハバリの声「いくら食い下がられても、俺は絶対にここから出ないからな!」
アメノカク「そこをなんとかお願いしますよぉ~」
オハバリの声「嫌なものは嫌だ!!」
アメノカク「オハバリさんかタケミカヅチさんのどちらかを連れて帰らないと、私が怒られるんですから」
オハバリの声「そんなのそっちの都合……って……ん?」
オハバリの声「中つ国へ行くのは、タケミカヅチでもいいのか?」
アメノカク「え?まぁそうですけど、タケミカヅチさんは居場所がわからなくて――」
オハバリの声「よし、わかった!!」
アメノカク「???」
オハバリの声「このアメノオハバリ、謹んで協力させていただこう!」
アメノカク「えっ、ホントですか!?どうして急に??」
オハバリの声「アマテラス様がお困りとあらば、協力しないわけにはいかないからな!」
アメノカク「わぁ~、さすがです!それでは早速この戸を開けて――」
オハバリの声「ただ、この任務には俺よりも息子のタケミカヅチを遣わすべきだろう」
アメノカク「いや、ですからタケミカヅチさんは居場所が……」
オハバリの声「大丈夫、大丈夫!タケミカヅチには俺から話をつけておくから!」
アメノカク「本当ですか!?そうしていただけるなら私は楽ですけど……」
オハバリの声「安心しろって。あいつは義理堅いから、親の俺の頼みなら絶対断らない」
アメノカク「う~ん……ちょっと不安ですけど、そこまで仰るならお任せしますよ?」
オハバリの声「おぅ!アマテラス様によろしく伝えといてくれな!」
アメノカク(なんか体よく追い返されただけのような……)
―――――――
――――
――
<後日>
アマテラス「それではタケミカヅチさんにアメノトリフネさん、よろしく頼みますよ」
タケミカヅチ「承知した。期待に沿う働きを約束しよう」
アメノトリフネ「タケミカヅチの兄貴は俺っちがバッチリ送り届けるっすよ!」
アマテラス「フフッ、心強いですね♪」
アマテラス「それからアメノカクさん、そなたもよく働いてくれましたね。ありがとうございます」
アメノカク「えっ?いえいえ、私は別に大したことは……」
アマテラス「何を仰いますか。こうしてタケミカヅチさんが来てくださったのも、そなたが気難しいと噂のオハバリさんを説得してくださったおかげですよ」
アメノカク「は、はぁ……」
アメノカク(いまいちちゃんと説得できた手ごたえは無かったんですけどね……)
アマテラス「さて、いよいよ出発の時間ですね」
アマテラス「お二方ともお気を付けて。良いご報告をお待ちしていますよ!」
タケミカヅチ「うむ!」
アメノトリフネ「押忍!」
―完―
【キャスト】
・アマテラス
・オモイカネ
・アメノカク
・アメノオハバリ
・タケミカヅチ
・アメノトリフネ
作:若布彦(黄泉の国神話でいろいろと端折ったツケが回ってきました……)
・・・次のお話はこちら⇒“国譲り神話/建御雷編①”
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