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[“十七世神話”の続き]
――オオクニヌシのところへどんぶらこしてきた小さな訪問者のお話


<三保関>

オオクニ「いやぁ~、やっぱり地元はいいなぁ~」

モブ津神A「そうですね~、オオクニヌシ様」

オオクニ「こうして出雲の岬に立って海を眺めていると、何かいいことありそうな気がするな!」

モブ津神B「まぁ、松江市ですけどね~」

オオクニ「……」


オオクニ「……って言うか、あんたら誰!?」

モブ津神A「お供のモブですが、何か?」

モブ津神B「オオクニヌシ様もそろそろいいご身分ですし、お供くらいいて当然でしょう?」

オオクニ「言われてみればそうかもだけど、急に出てきてお供ヅラされると調子狂うなぁ……」


―ドンブラコー

―ドンブラコー


モブ津神A「あっ!オオクニヌシ様、あれをご覧ください!」

オオクニ「なになに?UFOでもいた??」キョロキョロ

モブ津神B「空ではなく海です!ほら、あそこ!!」

オオクニ「“あそこ”って言われても……ガガイモの実が流れてるだけじゃないか」

モブ津神A「よく見てください!あれは“天乃羅摩船(あめのかがみの船)”です!」

オオクニ「な、なんだって!?」



オオクニ「……いや、やっぱりどう見てもガガイモの実じゃん」

モブ津神B「確かにそうですけれども!神が乗っていたらそれを天乃羅摩船と呼ぶのです!」

オオクニ「“神が乗っていたら”って……あんな小さな実に神なんて乗ってるわけが――」



???「……」ヒョコッ



オオクニ「乗ってたぁぁぁ!!!」

モブ津神A「だから言ったではないですか」

モブ津神B「お客様かもしれませんし、お迎えに行きましょう」

オオクニ「そ、そうだな。あの小ささじゃ上陸するもの大変だろうし、助けてやろう」

 ・
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 ・
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オオクニ「……よっと!」ヒョイッ

???「……」ビクッ!!

モブ津神A「ナイスサルベージです、オオクニヌシ様!」

モブ津神B「船の回収成功ですね!」

オオクニ「いや~、それにしても小さいなぁ。この衣は蛾の羽を剥いだものか?」ツンツン

???「……」ビクビク

オオクニ「おい、チビ助。お前さん、名前は何て言うんだ?」

???「……」フルフル

オオクニ「名前は?」

???「……」フルフル

オオクニ「名前……」

???「……」フルフル



オオクニ「無視かーい!」

モブ津神A「もしかして口が利けないんじゃないですか?」

モブ津神B「日本語がわからないのかも?」

オオクニ「う~ん……困ったなぁ……。お前たち、コイツのこと知らないのか?」

モブ津神A「えぇっ!?し、知りませんよ!」

モブ津神B「一介のモブが知るわけないじゃないですか!」

オオクニ「そうだよなぁ……」



オオクニ「それじゃあ、君はどうだ?コイツのこと何か知らないか?」

ヒキガエル「ケロッ?」

モブ津神A「オオクニヌシ様、なにカエルに話し掛けてるんですか……?」

モブ津神B「カエルが知ってるわけないでしょう。って言うか、そもそもカエルは喋れ――」

ヒキガエル「そのとおりです。私めはしがないカエルの身、この小さき神の御名は存じませぬ…ケロッ」

オオクニ「そうか、残念だ……」

モブ津神A&B(喋れるんかーい!!)


ヒキガエル「ですが、知っていそうな者の心当たりならございます…ケロッ」

オオクニ「なんだって!?」

ヒキガエル「クエビコであれば、きっと知っていることでしょう…ケロッ」

オオクニ「そうか、貴重な情報をありがとう!」

モブ津神A&B(このカエル、我々より有能では……?)

オオクニ「よし!それじゃあお前たち、早速クエビコとかいう者を呼んで来てくれ!」

モブ津神A「いや、呼んで来いと言われましても……」

モブ津神B「我々、そのクエビコとは面識がないもので……」

ヒキガエル「でしたら私めがご案内いたしましょう…ケロッ」

オオクニ「そうか!それじゃあ、悪いがコイツらをクエビコに紹介してやってくれ」

ヒキガエル「お安い御用でございます…ケロッ」

モブ津神A「つくづく有能なカエルだなぁ……」

モブ津神B「それじゃあカエルよ、私の手にでも乗ってくれ」スッ

ヒキガエル「ではお言葉に甘えて……ケロッ」ピョンッ



モブ津神A&B「行ってきま~す!」テテテッ

ヒキガエル「ケロ~」


―――――――
――――
――


<しばらく後>

モブ津神A「オ、オオクニヌシ様~!……ハァ…ハァ…」

モブ津神B「クエビコを連れてまいりました~!……ゼェ…ゼェ…」

ヒキガエル「私めも戻ってまいりました~…ケロッ」

オオクニ「おぉ、ご苦労さん!」


オオクニ「……で、なんでそんなに息あがってるの?」

モブ津神A「いや、見ればわかるでしょう!」

モブ津神B「クエビコが自分じゃ歩けないって言うから、ここまで担いで来たんですよ!」

オオクニ「ってことは、その担いでるそれが……?」


モブ津神A「ほら、着いたぞクエビコ」

モブ津神B「立つだけなら自分でできるよな?」

モブ津神A&B「よい…しょっ!!」ザクッ!!



クエビコ「おっとっと~」


クエビコ「あ~、どうもどうも。おら、クエビコっつーもんでごぜぇます」

オオクニ「クエビコって……案山子だったのか!?」

クエビコ「いかにも。おらぁ、しがねぇ山田の案山子なんだが、こんな岬さ連れてきて何の用だべか?」

オオクニ「いやぁ~、それはそのぉ~……」


オオクニ「おい、カエルさん!コイツ本当に大丈夫なのか?全然賢そうに見えないんだが……」

ヒキガエル「ご安心ください。こう見えてクエビコはとても物知りなのです!ねっ?…ケロッ」

クエビコ「あ~……まぁ、おら自分じゃ歩けねぇけんども、朝から晩までずぅ~っと突っ立って、いろんなこと見てっからなぁ~」

ヒキガエル「クエビコはまさしく、この世の全てを知る神でございます!…ケロッ」

クエビコ「そりゃいくらなんでも褒め過ぎだぁ、タニグク(=ヒキガエルの神名)どん」

モブ津神A&B(このカエル、“タニグク”っていうのか……)



オオクニ「う~ん……カエルさんがそこまで言うなら、試しに訊いてみるか」

モブ津神A&B(このカエル、我々よりよっぽど信頼されてる!?)ガーン!!

オオクニ「おい、クエビコ。この神の名を知らないか?」スッ

???「……」ビクビク


クエビコ「あれま、こりゃカムムスヒ様の御子のスクナビコナ様でねぇか!」

クエビコ「たまげたなぁ」

オオクニ「カムムスヒ様の御子だって!?それは本当か??」

クエビコ「間違いねぇです。こ~んなちっこい神様はスクナビコナ様以外にゃいねぇはずだぁ」

オオクニ「なるほど~」

モブ津神A「オオクニヌシ様!なんか納得してるところ申し訳ないですが、おかしくないですか?」

モブ津神B「なぜ山田で突っ立っているだけのクエビコが高天原のことまで知っているのです?」

オオクニ「確かに、言われてみればちょっと変だな……」

クエビコ「その辺はご都合主義的なアレってことで流してもらえっとありがてぇんですが……」

モブ津神A「神話だからと言って何でもご都合主義で片付けるのは良くありませんよ!」

モブ津神B「ここはやはり、きちんと確認を取るべきかと」

オオクニ「確かにそれも一理ある……」



オオクニ「よし!それじゃあカムムスヒ様に確認しに行こう!!」


―――――――
――――
――


<高天原>

オオクニ「ハァ…ハァ……やっと着いた」

オオクニ「母上から道順を聞いて来てみたけど、高天原って遠いんだなぁ……」



???「誰ですの?」

オオクニ「!?」

???「ここに何をしに来たですの?」

オオクニ「あ~……えっと、俺はオオクニヌシ。国津神だよ」

???「なんか見たことあるツラですの」
???「でもいまいち覚えてないですの」

オオクニ「俺はそんな記憶ないんだけど……。君たち、ここの子?」

???「そうですの。きぃはここに住んでいるですの」
???「うーも同じくですの」

オオクニ「そっか。実は、カムムスヒ様に会いに来たんだけど……」

きぃ「パパ上様にご用事ですの?」
うー「それならついてくるですの。ママ上様はこちらですの」

オオクニ「おぉ、ありがとう」

オオクニ(パパ上……?ママ上……?)

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きぃ「パパ上様!お客神ですの!」
うー「ママ上様にご用事らしいですの!」

オオクニ「お、お邪魔しま~す……」


カムムスヒ「やぁ、よく来たね」

オオクニ「あの~、なんか以前助けていただいたみたいで、ありがとうございます」

カムムスヒ「フフッ、礼ならその子たちに言っておくれ」

オオクニ「???」

カムムスヒ「君を助けたのはそこにいるキサガイヒメとウムガイヒメだからね」

オオクニ「えっ!?こんな小さな子たちがですか???」

きぃ「えっへん、ですの!」
うー「うーたちとっても優秀ですの!」

カムムスヒ「見た目でその者の能力を決めつけてはいけないよ」

オオクニ「は、はぁ……」


カムムスヒ「それで、君はわざわざ私にお礼を言うためにここまで来たのかい?」

オオクニ「あっ!いえ、ちょっとカムムスヒ様にお訊きしたいことがあって……」

カムムスヒ「ふむ。言ってごらん?」

オオクニ「まずはこれをご覧ください」スッ

???「……」ヒョコッ

オオクニ「クエビコという者から、コイツはカムムスヒ様の御子だと聞いたのですが、それは確かでしょうか?」

カムムスヒ「あぁ、確かに私の子だよ」

カムムスヒ「その子はとても小さいからね、私の指の間から零れ落ちてしまったんだ」

オオクニ「あ~、そういうことだったんですね~」



オオクニ「……って、あっさりすぎません!?」

カムムスヒ「ん?もっと溜めた方が良かったかい?」

オオクニ「いや、だって子供が零れ落ちたなんて大事件じゃないですか!」

カムムスヒ「そうかい?」

オオクニ「そうですよ!そんな行方不明の子が帰って来たら、普通はもっと感動の再会~みたいになりません??」

カムムスヒ「フフッ、別に行方不明というわけではないよ。その子のことはずっと見ていたからね」

オオクニ「そんなことできるんですか?」

カムムスヒ「できるさ。私だって伊達に造化三神をやっているわけではないのだよ?」

オオクニ「ほぇ~、さすがだなぁ~」


オオクニ「でも、その割にはうっかり子供を落としちゃったり、意外とおっちょこちょいなんですね」

カムムスヒ「そ、それは……」

オオクニ「カムムスヒ様って実はポンコツ属性持ちなんじゃ……」ニヤニヤ

カムムスヒ「失礼な!私はポンコツではありません!むしろ造化三神では一番まともな方です!!」

オオクニ「あっ……す、すみません……」シュン

カムムスヒ(しまった、ちょっとムキになってしまいました……///)



カムムスヒ「……コホン」

カムムスヒ「それはともかく、スクナビコナよ」

スクナビコナ「はい、御祖(みおや)様!」

オオクニ「お前、喋れたのか!?」

スクナビコナ「当たり前だろう」

オオクニ「だったら俺が名前訊いたときにちゃんと答えろよ!!」

スクナビコナ「御祖様から“不審者とは話すな”と言いつけられていたからな」

オオクニ「助けてやったのに不審者扱い!?」ガーン!!


スクナビコナ「それで御祖様、僕に何かご用でしょうか?」

カムムスヒ「うむ。お前はこのアシハラシコオノミコトの兄弟となり、共に中つ国を作り堅めなさい」

スクナビコナ「御祖様の命とあらば……承知いたしました!」

オオクニ(えぇ~っと……“アシハラシコオ”って誰だっけ……?)



オオクニ「って、俺のことか!!」



オオクニ「ちょ、ちょっと待ってください!!」アセアセ

スクナビコナ「どうした、兄弟?」

オオクニ「なんで俺がこんなちっこいのと兄弟にならなきゃいけないんですか!?」

スクナビコナ「なにぃ!?僕が兄弟じゃ不満だって言うのか!!」

オオクニ「だってサイズ感的に兄弟はおかしいだろ!?せいぜいペットにしか見えないって!!」

スクナビコナ「ペ……ペット!?」ガーン!!

カムムスヒ「まぁまぁ、落ち着きなさい。スクナビコナはこう見えてとても優秀な子だよ?」

オオクニ「えぇ~……とてもそうは見えませんけど……」

カムムスヒ「“見た目でその者の能力を決めつけてはいけない”……さっきも言っただろう?」

オオクニ「はぁ……」

カムムスヒ「大丈夫、この子ならきっと君の役に立つはずだよ」

スクナビコナ「そうだぞ兄弟!僕を信じろ!」

オオクニ「う~ん……大丈夫かなぁ……」


―――――――
――――
――


<後日>

スクナビコナ「なぁ兄弟、次はどの国へ行こうか?」

オオクニ「そうだなぁ~……お前と一緒ならどこでもいいや!」

スクナビコナ「おいおい、天下の大国主様がそんな適当でいいのかい?」

オオクニ「いいじゃん、いいじゃん!俺とお前のコンビならどこへだって行けるし、何だってできるんだから!」

スクナビコナ「それもそうだな!」



オオクニ&ビコナ「HAHAHA!!」


※なんかめちゃくちゃ気が合った


―完―

【キャスト】
オオクニヌシ
スクナビコナ
ヒキガエル(タニグク)
クエビコ
カムムスヒ
キサガイヒメ
ウムガイヒメ
モブ津神


作:若布彦(きぃちゃん&うーちゃん、どうしても出したかったんです、ごめんなさい……)

・・・次のお話はこちら⇒“大物主神話

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