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[“神逐神話”の続き]
――高天原から追放され、葦原の中つ国に降り立ったスサノオのお話


<鳥髪>

スサノオ「どうやら葦原の中つ国に着いたな。ここはどこだ……?」


看板<一級河川 斐伊川(ひいがわ) 島根県>


スサノオ「“今”の言葉で言うと、出雲の肥河(ひのかわ)か。ド田舎に降りて来ちまったなぁ……」

スサノオ「こんなとこじゃあ猫の子一匹いねぇだろうし、川沿いに下って海にでも出るかなぁ~」



スサノオ「……ん?なんだ、これ??」チャポッ

スサノオ「って、ただの箸じゃねぇか!こんなもん腹の足しにも――」

スサノオ「いや待てよ、箸が流れてきたってことは、上流に誰か住んでるってことだよな?」


スサノオ「よし、ちょっくら川を遡ってみるか!」


―――――――
――――
――


<肥河:上流>

スサノオ(うわぁ……誰かいるかと思って来てみれば……)



老夫&老女「ヨヨヨ……(泣」



スサノオ(なんか年寄りがこれ見よがしに泣いてんだけど……)



老夫&老女「ヨヨヨヨヨ……(泣」
童女「シクシク……(泣」



スサノオ(よく見たら間に小娘も挟まってた)

スサノオ(これは声掛けた方がいいのか……?)



老夫&老女「ヨヨヨヨヨヨヨ……(泣」

老夫&老女「……」チラッ



スサノオ「だぁ~、もう!わかったよ!!」

スサノオ「お前ら一体何者だ!?」



老夫「私めは国津神のオオヤマツミノカミの子で、アシナヅチと申します」

アシナヅチ「こちらは妻のテナヅチ、この子は娘のクシナダヒメでございます」

テナヅチ「ヨヨヨ……(泣」
クシナダ「シクシク……(泣」


スサノオ(女子供に目の前で泣かれるとやりづれぇなぁ……)

スサノオ「それで、お前らはどうして泣いてるんだ?」

アシナヅチ「実は、私どもには元々娘が8人おったのです」

スサノオ「ずいぶん子だくさんなんだな……」

アシナヅチ「それはもう、私どもラブラブおしどり夫婦でございますので」

テナヅチ「ちょっとあんた、やだよぉそんなホントのコト言っちゃ……///」

スサノオ「惚気てる元気があるんなら俺はもう帰るぞ?」

アシナヅチ「お、お待ちください!ここからが凄いのです!!」

スサノオ「ほぉ~ん(ジト目」


アシナヅチ「なんと8人もいた娘が、今はもうこのクシナダしか残っておらんのですよ……」

スサノオ「どうせ松江のシジミ漁師の家に嫁いだとかそんな話だろ、くだらねぇ」

アシナヅチ「とんでもない!娘たちは皆、高志から来た八俣大蛇(やまたのおろち)に食われてしまったのです!」

スサノオ「大蛇に食われただと!?」

アシナヅチ「左様でございます。大蛇は毎年この時期にやって来ては、一人ずつ娘を食って行きました……」

スサノオ「……」ゴクリ

アシナヅチ「そして今年で8年目……最後に残ったクシナダも、ついに……」



アシナヅチ「ヨヨヨ……(泣」
テナヅチ「ヨヨヨ……(泣」
クシナダ「シクシク……(泣」



スサノオ(ネタキャラだと思って油断してたら、ガチの悲惨な話を聞かされちまった……)

スサノオ「……それで、その八俣大蛇ってのはどんな姿形をしているんだ?」

アシナヅチ「それはもう大きく、恐ろしい怪物でございます……」

スサノオ「具体的には?」

アシナヅチ「目はほおずきのように赤く、一つの身体に八つの頭と八つの尾が生えております」

スサノオ「頭も尾も八つだと!?」

アシナヅチ「しかも、その身体には苔が生え、檜や杉まで生い茂っているのです!」

スサノオ「木が生えるほど大きいってことか……」

アシナヅチ「はい。その長さたるや、八つの谷と八つの尾根を渡るほどでして……」

スサノオ「どんだけ“八”好きなんだよ!足立のアルファードか!?」

アシナヅチ「ついでに、腹は常に血でただれております」

スサノオ「それは単に自重に負けてるだけな気がするが……」

アシナヅチ「とにかく、私どもでは太刀打ちできない化け物なのです!このままではクシナダが……」



アシナヅチ「ヨヨヨ……(泣」
テナヅチ「ヨヨヨ……(泣」
クシナダ「シクシク……(泣」



スサノオ(う~ん……同情はするが、そんな化け物俺の手にも負えなそうだしなぁ……)

アシナヅチ「クシナダは幼いながら、姉妹でも一番の美人だと評判だったのに……」チラッ

スサノオ「……」ピクッ

テナヅチ「このまま成長すればミス出雲の座も間違いないと目されていたのに……」チラッ



スサノオ「……ゴホン」

スサノオ「お前ら、まぁちょっと顔を上げてみろ」

アシ&テナヅチ「はい♪」シャキッ
クシナダ「シクシク……(泣」

スサノオ「おい、娘!お前も泣いてないでこっち向け!」



クシナダ「は…はぃ……」ウルウル



スサノオ「……」

アシ&テナヅチ「……」ニヤニヤ



スサノオ「アシナヅチとか言ったな?」

アシナヅチ「はい、何か?」

スサノオ「お前、この娘を俺に寄こす気はないか?」

アシナヅチ「なんと!?クシナダはまだほんの童女でございますよ?」

スサノオ「それはそうかもしれんが……まぁ、うちの姉上よりは大人びて見えるし大丈夫だろ」

アシナヅチ「それはあなた様のお姉様が特殊なだけのような気がしますが……」

スサノオ「なんだ、断るってのか?だったら――」

アシナヅチ「いえいえ、そうは申しておりませんが…………あなた様もお好きですねぇ」ニヤニヤ

スサノオ「おいやめろ!そんな光源氏を見るような目で見るな!!」

アシナヅチ「これは失敬。まぁ、クシナダを見てそっちに目覚めるなというのが無理な話ですからな」

スサノオ「と、とにかく!!寄こす気はあるのか、無いのか、どっちなんだ!?」

アシナヅチ「そうですなぁ……」


アシナヅチ「恐れながら、あなた様のお名前を存じ上げませんので、何とも……」

スサノオ「俺の名か?俺はスサノオ、天照大御神の弟だ。今しがた高天原から降りてきた」

スサノオ(まぁ、姉上に追放されて来たわけだが、嘘は言ってないよな……?)

アシナヅチ「なんと、そのような貴いお方でございましたか!」

スサノオ「どうだ?娘を寄こす気になったか?」

アシナヅチ「はい。そういうことでしたら、不束な娘ですがよろしくお願い申し上げます」

スサノオ「そうか!よしよし♪」



スサノオ「娘よ、聞いたか?今日からお前は俺の妻だ。いいな?」

クシナダ「ぁ……」

スサノオ「なんだ?何か文句でもあるのか?」

クシナダ「いえ……その……」

スサノオ「言いたいことがあるならさっさと言え!」イラッ

クシナダ「ぇと……旅のお方……」

スサノオ「“ス・サ・ノ・オ”だ!」

クシナダ「では、スサノオ様……その……」



クシナダ「ぅ……ありがとぅ……ござぃます……シクシク……(泣」



スサノオ「お、おい!?この場面で泣くな、俺がいじめたみたいになるだろ!!」

スサノオ「そんなに俺と結婚するのが嫌だったか?わかった、出直す!出直すから!!」

クシナダ「違うのです。これはその……嬉しくて……」

スサノオ「嬉しい!?そうか、俺みたいなイケメンの嫁になれて嬉しいから泣いてるのか!」

クシナダ「いえ、そうではなく……」

スサノオ「あっさり否定すんなよ!!」

クシナダ「お姉さまたちは皆、嫁入り前に大蛇に食べられてしまいましたので……」

クシナダ「お父さまとお母さまに娘の嫁入り姿をお見せするのが私の夢だったのです」

アシ&テナヅチ「く、クシナダぁぁぁ!!」ナミダドバー
スサノオ(めちゃくちゃいい子じゃねぇか……)

クシナダ「ですから、こうして死ぬ前に嫁入りごっこができて、私は幸せです……」

スサノオ「そうかそうか……」


スサノオ「って……ん???」

クシナダ「これでようやく大蛇に身を捧げる決心が――」

スサノオ「おい、ちょっと待て!」

クシナダ「……ふぇ?」

スサノオ「俺の嫁になったからには、お前はもう大蛇に食わせたりなんかしねぇぞ!!」

クシナダ「そうはいきません。私が贄にならなければ、お父さまとお母さまが……」

スサノオ「だ~か~ら~!俺が大蛇を退治してやるって言ってんだよ!!」

クシナダ「!?」
アシ&テナヅチ「!!」

クシナダ「そんな!危険です、旅のお方!!」

スサノオ「“スサノオ”だって言ってんだろ!いい加減覚えろ!!」

クシナダ「私たちを気遣って、こんな小娘を嫁に取るなどとご冗談を言ってくださっただけで十分です」

スサノオ「冗談なんかじゃねぇ!俺は本気だ!!」

クシナダ「あなた様には何の関係もないこと……どうか急いでお逃げください」

スサノオ「嫁の命の危機が関係ないなんてことあるか!!」



スサノオ「いいか、よく聞け!」ガシッ

クシナダ「!?」ビクッ



スサノオ「誰が何と言おうと、お前は俺の嫁だ!」

スサノオ「お前の命は、俺が絶対に守ってみせる!!」

スサノオ「だから、大蛇を退治したら御殿を建てて、一緒に暮らそう!!」



クシナダ「は……はぃ///」ポッ

テナヅチ(あんたのプロポーズより情熱的なんじゃないかい?)コソコソ

アシナヅチ(これは後で思い出して悶えるパターンだな)コソコソ



スサノオ「そうと決まったら、まずは安全確保だ」

スサノオ「夜・露・死・苦!」パチンッ

アシ&テナヅチ(なんかダサい呪文キター!!)


―ポンッ!!


アシナヅチ「こ、これは!?」

テナヅチ「クシナダが湯津爪櫛(ゆつつまぐし)の姿に!!」

スサノオ「なぁに、ちょっとした目くらましだ。この姿なら大蛇に狙われずに済むだろう?」

アシナヅチ「ですが、これでは万が一の場合に自力で逃げだすこともできません……」

スサノオ「だったら――」スッ

スサノオ「こうして俺の角髪に刺しておけば安心だ!」

アシナヅチ「これはこれは!常に身に付けたいほど娘にぞっこんラブということですか!」ニヤニヤ

スサノオ「おい、変なことを言うな!(否定はしないが……)」



スサノオ「さて、それじゃあ――」

スサノオ「これから大急ぎで、大蛇退治の準備だ!!」


―完―

【キャスト】
スサノオ
クシナダヒメ
アシナヅチ
テナヅチ


作:若布彦(“童女”とは果たして何歳くらいなのか……)

・・・次のお話はこちら⇒“大蛇神話/後編

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