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[“天岩戸神話”の続き]
――ついに高天原からの神逐(かむやらい=追放)が決まったスサノオのお話


<高天原>

モブ津神A「アマテラス様!!」ズイッ

アマテラス「な、なんですか。そんな詰め寄られても、あなたにはドキドキしませんよ!」

モブ津神B「いい加減観念してください!!」ズズイッ

アマテラス「観念って……わかっていますよ、もう引き籠ったりしません」

フトダマ「引き籠ろうにも、入口は注連縄で塞いでしまいましたし」

アメノコヤネ「閉める戸もどこかへやってしまって、引き籠りようがありませんからな」

オモイカネ「そもそも、あんな散らかり放題の空間に閉じこもるのは神として不適切です」

アマテラス「そこはあまり蒸し返さないでください!!」


モブ津神A「観念するというのは引き籠り体質の改善の話ではありません!」

アマテラス「ふぇ?では、何の話だというのですか……?」

モブ津神B「スサノオ様の話です!!」

アマテラス「はっ、スサノオ!そうでした、スサノオはどうしていますか?」

アマテラス「きっとわたくしがいなくなって寂しがっていたことでしょう。早く慰めてあげなくては!」

フトダマ「いえ、寂しがるどころか……」

アメノコヤネ「アマテラス様がいないのをいいことに、それはもう暴れ放題……」

アマテラス「えぇっ!?そんなまさか!!」

モブ津神A「いやいや、これまでの流れからそうなることは予想つくでしょ!」

モブ津神B「どこまでお花畑脳なんですか!」

アマテラス「ぐぬぬ……」

オモイカネ「ですから、もうスサノオさんには高天原から出て行ってもらうしかないと思うんです」

アマテラス「神逐(かむやらい)するというのですか!?何もそこまで……」

フトダマ「しかし、このままでは高天原が荒廃しきってしまいます」

アメノコヤネ「ここはどうかご決断を……」

アマテラス「スサノオだって、少し懲らしめればきっと反省しますよ。牢に入れるとか……」

モブ津神A「それではこちらをご覧ください」

モブ津神B「タヂカラオ様!」



タヂカラオ「あいよー」ガラガラー



スサノオ(猿轡着用)「ンーーーッ!!!!」バタバタ



アマテラス「す、スサノオ!?」

アマテラス「なぜスサノオが亀甲縛りで檻に入れられているのです!?誰の性癖ですか!!」

モブ津神A「食糧庫に設置していた猛獣用の罠にかかっていたので、捕らえておきました」

タヂカラオ「麻酔が切れたら暴れるだろうと思って縛っといたら、案の定よ」

アマテラス「お腹が空いて食糧を探していただけでしょう!?なぜこんな酷い仕打ちを……」

モブ津神B「食糧泥棒ならまだしも、灯油タンク持って放火する気満々だったので……」

アマテラス「放火!?そ、そんな……」


スサノオ(猿轡着用)「ンーーーッ!!!!」バタバタ


フトダマ「アマテラス様、弟君の更生を信じたい気持ちはよくわかりますが……」

アメノコヤネ「処罰しなければ下々の者にも示しがつきません」

オモイカネ「どうかご決断ください」

アマテラス「……」



アマテラス「……わかりました」

モブ津神A&B「アマテラス様!!」

アマテラス「スサノオは、千位置戸(ちくらおきど)のうえ、追放とします」

フトダマ「“千位置戸”……いわゆる財産没収ですな」

アメノコヤネ「スサノオ様にどれだけの財産があるかはわかりませんが……」

オモイカネ「まぁ、こういうのは没収したという事実が大切ですから」


アマテラス「ではタヂカラオさん、スサノオを檻から出してあげてください」

タヂカラオ「いいのか?暴れたら俺でも止められるかわからんぞ??」

アマテラス「大丈夫です、スサノオは絶対にわたくしには勝てません」

モブ津神A&B(どこからそんな自信が……)

オモイカネ「タヂカラオさん以外の非戦闘員は念のため下がっておきましょう!」



―ガチャッ

―ドサッ



スサノオ(猿轡着用)「ンーーーッ!!!!」バタバタ

アマテラス「スサノオ、少し大人しくしていてください。でないと、折りますよ?」ガシッ

スサノオ(猿轡着用)「ンッ!!??」

スサノオ(なんだこの握力!?腕が万力で締め上げられているようだ……)

アマテラス「いま拘束を解いてあげますからね」カチャカチャ

スサノオ(身体が震える……力が入らない……これが本気の姉上の威圧感……!?)

アマテラス「さぁ、これでもう自分で歩けますね?」

スサノオ「お、おぅ……」


モブ津神A&B(あのスサノオ様が従順に!?)


アマテラス「よろしい。では、自分の足で高天原から出て行きなさい」

スサノオ「わかった、邪魔したな……」



アマテラス「あっ!ちょっと待ってください!!」

スサノオ「???」

アマテラス「出発はせめて身だしなみを整えてからにしましょう」

スサノオ「いや、俺は別にこのままで……」

アマテラス「ダメです!まずはその長く伸びた髭をしっかり切り揃えて――」スパーッ!!

スサノオ「うぇぇっ!?」



モブ津神A(ひ、髭を手刀で切ったぁぁぁ!!)

モブ津神B(しかも長さが中途半端!これは恥ずかしい!!)



アマテラス「爪もきちんと切った方が良いですよ。清潔感は大事ですから!」

スサノオ「ちょ、ちょっと待ってくれ姉上!切るって、素手でどうやって……?」

アマテラス「大丈夫です、任せてください。こうして爪の伸びたところを掴んで――」





「「ぐわぁぁぁぁっ!!!!」」





モブ津神A(爪、剥いだぁぁぁ!!)

モブ津神B(ちょっと同情するレベルの厳罰になってしまった……)


スサノオ「うっ……ぐぅぅぅ……」

アマテラス「あっ。すみません、ちょっと深爪すぎましたか?では手当を――」

スサノオ「だ、大丈夫!大丈夫だから、もう触らないでくれ!!」

スサノオ(これ以上ここにいたら……殺される!!)


スサノオ「じゃあ姉上、俺はもう行くから……」

アマテラス「高天原を出ても、悪さをしてはいけませんよ」

スサノオ「あぁ。もう姉上に迷惑をかけるようなことはしないよ……(白目」

アマテラス「そうですか。それでは……さようなら、スサノオ……」


―――――――
――――
――


<道端>


スサノオ「うぅ……指が痛ェ……」

スサノオ「ずっと口枷されてたから腹も減ったし……」グゥー

スサノオ「こんなことになるなら、高天原なんて来なければ良かったぜ……」



???「ちょっと、そこのお方!」

スサノオ「ん?」


???「怪我をされているではないですか!早く治療しないと!!」

スサノオ「誰だ、お前??」

オオゲツヒメ「私はオオゲツヒメと申します。体重はヒミツ、将来の夢はお嫁さんです☆」

スサノオ「別に訊いてねぇけど……将来の夢が嫁って言うくらいなら、料理くらいはできるよな?」

オオゲツヒメ「それはもちろん!和洋中、何でもござれですよ!」

スサノオ「そうか!だったら治療はいいから、とりあえず飯食わせてくれよ」

オオゲツヒメ「お安い御用です!では、そこの切り株にでも座って待っていてください」スタコラサッサ!!

スサノオ「切り株?家とか行くんじゃないのか?」


スサノオ「……って、行っちまった」

スサノオ「弁当でも持ってくるつもりか……?」

 ・
 ・
 ・

オオゲツヒメ「お待たせしました~!」

スサノオ「おぅ、早かったな。どれどれ……」


スサノオ「あげまんじゅうにボルシチ、肉じゃが、餃子、ラーメン、グラタン、うどん、おでん、チーズハンバーグ……」

スサノオ「ちょっと切り株に腰かけて食うってレベルじゃねぇぞ!!」

オオゲツヒメ「気合入れちゃいました☆是非温かいうちに召し上がってください!」

スサノオ「まぁ細かいことは置いといて、まずは一口……」パクッ



スサノオ「う、うまい!!!」

オオゲツヒメ「やった~、褒められた~♪」

スサノオ「食べ合わせはともかく、個々の料理はどれも高品質で箸が止まらないぜ!!」ガツガツ

オオゲツヒメ「おかわりもありますからね☆」

スサノオ「じゃあおかわり!!」

オオゲツヒメ「はぁ~い、ちょっと待っててくださぁ~い」スタコラサッサ!!



スサノオ「いやぁ~、まさかこんなところでこんなにうまい飯にありつけるとは!」



スサノオ「……って、冷静に考えたらおかしいよな?」

スサノオ「ここはただの道端だぞ?あいつは一体どこで料理してるんだ??」

スサノオ「あそこの岩陰に入っていったみたいだが……」

スサノオ「ちょっと見に行ってみるか」

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

―オェェェ
―ズルズル
―ブリブリブリ


スサノオ「なんか岩陰から変な音がするなぁ……」

スサノオ「一体何の音だ?」チラッ



オオゲツヒメ「おぇぇぇ!!!」ゲロゲロー



スサノオ「うおぉっ!?お前、そこで何やってんだ!!」

オオゲツヒメ「ゴフッ……あっ!旅のお方……」

スサノオ「口や鼻や尻から出ているそれは食い物じゃねぇか!!」

オオゲツヒメ「これは……その……」

スサノオ「そんな汚らしいもんを俺に食わせてたのか!許せねぇ!!」

オオゲツヒメ「でも、味は美味しいって……」

スサノオ「うるせぇ!!」ズバッ!!

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 ・
 ・

オオゲツヒメ「……(死~ん」

スサノオ「しまった、ついかっとなって切り殺してしまった……」

スサノオ「つーか、なんで剣があるんだ?俺の剣は姉上に食われたはず……」

スサノオ「まぁ細かいことはどうでもいいか」


オオゲツヒメ「……」ワサワサッ

スサノオ「うおっ!?なんか死体からいろいろ生えてきたぞ!!」

スサノオ「気持ち悪ぃヤツだなぁ……さっさととんずらしよう」スタコラサッサ

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 ・

カムムスヒ「~♪」ルンルン

カムムスヒ「やはり郊外の散歩は気持ちいいですね」

カムムスヒ「アマテラスが高天原を治めてくれるお陰で私にも余暇ができて本当に助かります」

カムムスヒ「どこかのポンコツ主宰神にも見習ってもらいたいものです」クスクス



カムムスヒ「さて、あそこですね……」



カムムスヒ「オオゲツヒメ……可哀想に。後で葬ってあげますからね」

カムムスヒ「スサノオも困ったものです。だからと言って私は罰したりしませんが……」


カムムスヒ「おや、オオゲツヒメの死体から何か……」

カムムスヒ「頭から蚕、目から稲、耳から粟、鼻から小豆、それに下半身からは麦と大豆ですか」

カムムスヒ「さすがは穀物神といったところですね」

カムムスヒ「せっかくですし、種は葦原の中つ国にも分け与えておきましょう」ポイッ

カムムスヒ「これで中つ国の民が食べ物に困らなくなると良いですが……」



カムムスヒ「さて、帰って夕食の支度でもしましょうか」


―完―

【キャスト】
スサノオ
アマテラス
オモイカネ
フトダマ
アメノコヤネ
タヂカラオ
オオゲツヒメ
カムムスヒ
モブ津神


作:若布彦(オオゲツヒメって誰なんだ……)

・・・次のお話はこちら⇒“大蛇神話/前編


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