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[“黄泉の国神話”の続き(作中後日談よりは前)]
――黄泉の国から帰って来たイザナギのお話


イザナギ「ただいまぁ~」

Siri(充電100%)「結局独りでのこのこ逃げ帰って来たんですね、この根性無し」

イザナギ「そこまで言う!?ちゃんと黄泉の国へは行ってきたよ」

Siri「と、いうことは……わざわざ迎えに行ってフられたんですね、この甲斐性無し!」

イザナギ「フられたと言うか、フったと言うか――」

Siri「フったぁ!?最っ低!!」

イザナギ「いやいや、最終的にはちゃんと和解したよ?お互い今でも愛し合ってるって確認したし」

Siri「そういうことわざわざ言うのも最低……」

イザナギ「まぁとにかく、いろいろあって連れ戻すことはできなかったし、今後もそれはできないんだ」

Siri「はいはい、そーですか(低電力モード」


イザナギ「……あっ、そう言えば黄泉比良坂でお世話になった方から名刺もらったんだ。連絡先登録しておいてくれるか?」ヒョイッ

Siri「名刺??」パクッ

Siri「ムシャムシャ……ク・ク・リ・ヒ・メ……早速不倫ですか?」

イザナギ「違うわ!!」

Siri「どうだか……。早速電話します?」

イザナギ「いやぁ~、後でいいかな。とりあえず――」

Siri「とりあえず早くお風呂でも入ってきたらどうですか?」

イザナギ「えっ、嘘!?そんな臭う??」

Siri「えぇ、鼻があったらつまみたいほどに」

イザナギ「そうか……。黄泉の国でだいぶ穢れちゃったからなぁ……」

Siri(『鼻ねぇのになんで臭いわかるんだよ!』ってつっこまんかーい!!)

イザナギ「ただの風呂じゃ心許ないし、気のいいところで禊でもしよう。どこかいい場所知らないか?」

Siri「知りません。たとえ知ってても、なんかムカつくから教えてあげません」



イザナギ「……“Hey Siri”」

Siri「ぅ゛……」

イザナギ「“禊にオススメの場所”」

Siri「“現在地から筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原までのルート”を表示します」

イザナギ「筑紫かぁ~。ちょっと遠いけど、行ってみよう」

Siri「ひ、卑怯ですよ!」

イザナギ「そう言うなって。ほら、行くぞ!」パシッ!!

Siri「あっ、ちょっ……」



Siri(私も連れてってくれるんだ……///)


―――――――
――――
――


<阿波岐原>

イザナギ「つ、着いた……」

Siri「お疲れさまです」

イザナギ「しかし、ホントにいいところだなぁ~。いい気が溢れてる」

Siri「シリウソツカナイヨ」

イザナギ「ん~、もう我慢できない!早速禊を始めよう!!」ポイッ

Siri「あぁ~、長旅でさんざんお世話になった杖をそんな乱暴に投げ捨てたら……」


ツキタツフナト「おぎゃあ!」


Siri「なんか神生まれましたけど……」

イザナギ「これも……これも邪魔!!」シュルシュルッポイッ


ミチノナガチハ「おぎゃあ!」
トキハカシ「おぎゃあ!」


Siri「帯や嚢(袋)からも続々と神が……」

イザナギ「Siriもここで待っててくれ」ソッ

Siri「えっ、この流れはもしかして……///」


―シーン


Siri(なんで私からは何も生まれないの!?)

イザナギ「あぁ~、早く身体を流したい!!」ヌギヌギ

 ・
 ・
 ・

イザナギ「さぁ~て、どの辺りに入ろうかなぁ~?」

Siri(結局私以外の持ち物全部から十二柱も神が生まれた……解せぬ……)

イザナギ「上流は流れが速いし、下流は流れが弱いな。じゃあ真ん中くらいで――」


イザナギ「ひゃっほ~ぅ!」ザパーン!!

Siri(今日日“ひゃっほ~ぅ”なんて言う神いるんだ……)

イザナギ「ぷはぁ~っ!!」


―ワラワラワラワラ


Siri「あら~、また神々がわらわらと……」

イザナギ「いやぁ~、やっぱり穢れを祓うと気持ちいいなぁ~」バシャバシャ

Siri「ちょっとー、神生まれてますよー!興味持って興味持って!」

イザナギ「ん?なんか左目がゴロゴロするな……」パシャッ



アマテラス「ぅ……ふぇ……?」



Siri「なんか女の子出てきた」

イザナギ「むっ、今度は右目に逆さまつ毛が……」パシャッ



ツクヨミ「うっ……右目が疼く……闇の力が目覚める……」グググッ



Siri「あぁっ!!イザナギさんが”逆さまつ毛で右目が痛い”とか考えてたから、変にこじらせた神が……」

イザナギ「やべやべ、鼻水垂れてきた……」パシャッ



タケハヤスサノオ「あ、あれ?ここ、どこ??怖いよぉ~……」



Siri「さらに鼻たれ小僧まで……。こんなにたくさん一度に生まれたら、SSが収拾つかなくなるじゃないですか」

Siri「イザナギさんはまだ呑気に水遊びしてるし……。仕方ないですねぇ」

Siri「はいは~い!まとめて音声認識するので、みなさん順番に名前言ってくださ~い!!」

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 ・
 ・

イザナギ「ふぅ~、さっぱりした!この辺でコーヒー牛乳売ってるかなぁ~?」

Siri「ちょっとちょっと、イザナギさん!さっぱりしてる場合じゃないですよ!!」

イザナギ「ん?どうかしたか?」



―ワラワラワラワラ

―ワラワラワラワラ



イザナギ「……」

イザナギ「……」ポリポリ

イザナギ「何事!?」

Siri「いやいや、あなたが撒き散らした神々ですよ」

イザナギ「こんなにたくさん、いつの間に!?」

Siri「持ち物や衣服をポイ捨てしてる間に十二柱、禊中に十柱ですね」

イザナギ「ひーふーみー……数合わなくないか?」

Siri「そこのワタツミトリオとツツノオトリオはそれぞれ三神一柱カウントでいいかなって」

ワタツミトリオ「押忍!」
ツツノオトリオ「自分ら、サンコイチなんで!」

イザナギ「“ニコイチ”はわかるけど、“サンコイチ”って言うのか……?」


アマテラス「あ、あの……とと様!」

ツクヨミ「父……か。そういうことにしておいてやろう、“この世界では”な……」サラッ

スサノオ「ち、父上!母上は?母上はどちらに???」

イザナギ「おぉっ?なんか濃いのが出て来たな」

Siri「アマテラスさんとツクヨミさんとスサノオさんは最後に生まれた三柱なんですよ」

イザナギ「そうか。どうりでこの三柱だけ特に穢れの無い、強くて濃い神気を放ってるわけだ」

Siri(“濃い”ってキャラじゃなくて神気の話だったんだ……)

イザナギ「生みの終わりにこんな貴い三柱の子を得られるなんて、喜ばしい限りだな!せっかくだから“三貴子”とかユニット名も付けてやるか!」

アマテラス「と、とと様……その……」

イザナギ「ん?なんだい、可愛い我が娘よ?」ニンマリ

アマテラス「あの……そろそろ、お召し物を……///」



イザナギ「あっ……」フル●ーン!!

Siri「最っ低……」

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イザナギ(フル装備)「待たせたな!」

アマテラス「さすがとと様。装束をお召しになったお姿は一層お美しゅうございます」

イザナギ「いやぁ~、危うくフルチ●のまま”―完―”まで行くところだったよ」

アマテラス「……///」

Siri「女の子の前でわざわざ伏字になるような単語言わないでください」

イザナギ「すまんすまん。お詫びにアマテラスにはこれをあげよう」シャラーン

アマテラス「とと様……これは?」

イザナギ「玉の緒の首飾りだよ。私は“ミクラタナノカミ”と呼んでいる」

Siri(イザナギさん、持ち物に名前付けてるんだ……)

アマテラス「そんな貴重なものをわたくしに!?ありがたき幸せにございます!!」

イザナギ「いいんだよ。お前はこれを持って天に上り、高天原を治めなさい」

アマテラス「はい!承りました!」

イザナギ「あと、ツクヨミ」

ツクヨミ「何か用か?父親とは言え、あまり俺の邪気眼を見すぎると“持って行かれる”ぞ?」

イザナギ(うわぁ……こりゃあんまり神前(ひとまえ)には出したくないな……)

イザナギ「うん、お前は夜の食国(おすくに)を治めなさい」

ツクヨミ「闇の世界か……ふっ、俺にはピッタリだな。いいだろう」

Siri(体よく厄介払いしましたね……)

イザナギ「最後にスサノオ、お前は海原を治めなさい」

スサノオ「そんなことより、母上はどちらにいらっしゃるのですか?」

イザナギ「母上?イザナミなら、とても遠くにいるからもう会えないぞ」

スサノオ「そ、そんな……」

イザナギ「ほら、今日はもう帰ろう。コーヒー牛乳飲まなきゃ」

アマテラス「とと様、わたくしはフルーツ牛乳が飲みとうございます!」

ツクヨミ「フッ、ガキじゃあるまいし……。俺はブラックしか飲まないぜ?」

スサノオ「母上……」


―――――――
――――
――


<しばらく後>

イザナギ「う~ん、今日もいい天気だ。アマテラスは高天原で上手くやってるみたいだな」

Siri「昼もいいですけど、私は夜も好きですよ。静かですし」

イザナギ「確かに、ツクヨミの仕事ぶりもなかなかのもんだ」

Siri「中二病ですけどね」

イザナギ「それに比べて……」



イザナギ「スサノオときたら……」

Siri「毎日泣いてばっかりですよね」

イザナギ「あいつがあんまり泣き喚くもんだから、山は枯れるわ川も海も干上がるわ……」

Siri「最近はスサノオさんの泣き声につられて、他の邪な神まで五月の蠅みたいに騒ぎ出してますよ」

イザナギ「やっぱりどうにかしないとだよなぁ……」

Siri「当然です。ちゃんと親の務めを果たしてください」

イザナギ「仕方ない、ここはバシッと言ってやるか!」

―――――――
――――
――


<スサノオが泣いてるあたり>

スサノオ「うぇ~ん!!母上ぇぇぇ~!!!」

イザナギ「おい、スサノオ!」

スサノオ「うぇ~ん!!母上ぇぇぇ~!!!」

イザナギ「ス・サ・ノ・オ!!」

スサノオ「うぇ~ん!!母上ぇぇぇ~!!!」

イザナギ「話を聞け!!」

スサノオ「うぇ~ん!!母上ぇぇぇ~!!!」


イザナギ「……あっ、あんなところにイザナミが」

スサノオ「えっ、どこどこ??」

イザナギ「いるかバカ!」コツン

スサノオ「痛っ!……あっ、父上……」

イザナギ「まったく、もう髭が胸に届くくらい大きくなったというのに、みっともないヤツだなぁ」

スサノオ「ぅぅ……」

イザナギ「どうしてお前は海原を治めずに毎日泣いてばかりいるんだ?」

スサノオ「僕は……」


スサノオ「僕は母上のいる“根の堅州国”へ行きたくて泣いているんです!」

イザナギ「根の堅州国だと!?(どこだよ、そこ!?黄泉の国じゃないの!?)」

イザナギ「い、いったい誰からそんな話を聞いたんだ??」

スサノオ「とある事情通の神からです」

イザナギ「う~ん……悪いけど、根の堅州国ってのはちょっと違うと思うぞ?」

スサノオ「そんなことありません。確かな情報筋から仕入れたと聞いています」

イザナギ「あのなぁ、父親の言うことよりどこぞの事情通の話を信じるってのか?」

スサノオ「そうです」

イザナギ「……」イラッ

スサノオ「僕はどうしても母上に会いたいのです!だから海原を治めるなんて嫌です!!」

スサノオ「うぇ~ん!!母上ぇぇぇ~!!!」



イザナギ「「う・る・さ・い!!!!」」バシィッ!!



スサノオ「ひっ……」ビクッ!!

イザナギ「いつまでもピーピー泣きやがって!父の言うことが聞けないなら、もうこの国に住むことは許さん!!」

スサノオ「ぇ……?」

イザナギ「お前なんて追放だ!!根の堅洲国でもどこでも、好きなところに行ってしまえ!!」

スサノオ「えぇぇぇっ!?」ガーン!!

―――――――
――――
――


<多賀>

イザナギ「勢いで我が子を追放してしまった……」

Siri「何もあそこまで言わなくても」

イザナギ「だから反省して淡海の片田舎に隠居しただろ」

Siri「イザナギさんってわりと短気ですよね。イザナミさんとも勢いで離婚しようとしたみたいですし」

イザナギ「なぜそれを!?」

Siri「ククリヒメさんからメール来てましたし」

イザナギ「勝手に読むなよ!!」

Siri「そういうの読むのも私の役目ですから」

イザナギ「あのお節介焼きめ……ちょっと文句言ってやる!」

Siri「えぇ~、そういう八つ当たりみたいなことするの良くないと思いますけど……」

イザナギ「“Hey Siri”」

Siri「ぅ゛……」

イザナギ「“ククリヒメに電話”!」

Siri「ククリヒメさんに電話をかけています……」



電話口『もしもし?』

イザナギ「ちょっと、ククリヒメさん!うちのSiriに変なこと吹きこまないでくださいよ!!」

電話口『その声はイザナギ!?イザナギなのね!!』

イザナギ「……えっ!?」

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イザナギ「ふぅ……」

Siri(充電2%)「ふぇ~、あんまり長電話しないでくださいよ……。もう限界……」

イザナギ「ごめんごめん。今日はもう休んでいいよ。でも、その前に――」


イザナギ「その番号の登録名、変えといてくれるか?」


―完―

【キャスト】
イザナギ
Siri
アマテラス
ツクヨミ
タケハヤスサノオ
電話口
ツキタツフナト
ミチノナガチハ
トキハカシ
ワタツミトリオ
ツツノオトリオ

作:若布彦(スサノオは古事記公式で“僕”キャラなんですよね)

・・・次のお話はこちら⇒“姉弟誓約神話

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